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「…っ!!…ゆうっ…!」


五条の後ろにいる悠仁を見て。

真人の腕の中から手を伸ばそうとする名前だったが、貧血によるダメージにより指先ひとつ動かすのでさえ叶わなかった。


「待ってろ名前!!今っ、」


駆け出そうとする悠仁を止め、悠仁の代わりに真人へと歩みを進めたのは五条だ。


「さっきの火山頭と君はグルだね?」


学長である夜蛾との約束。

それを果たす為伊地知の車で送ってもらおうとしていた五条だったのだが、不穏な気配を感じて車から降りてみれば、富士山のような頭をした呪霊と会敵した。

相手の強さ的にも領域展開しそうかなと判断した五条は、映画鑑賞による修行をさせていた(生き返った)悠仁を連れ出して戦闘見学させ、そして丁度勝負が着いたところで、名前の危機を感じとってこうして駆けつけてきたという訳なのだった。


「僕に火山頭を差し向けて、その間に名前を奪おうって魂胆だったわけね」


タイミング良すぎだもんね?と言ってバチバチの殺気を飛ばしながら近付いてくる五条を睨みつけ、真人は逡巡するように後退した。

今の自分が五条に適うはずが無い事くらい、真人にだって分かる。
離れた所から今の光景を見ている夏油にしても、今五条に姿を見られれば計画に大きな狂いが生じてしまう為、助けには来ないだろう。


「…残念だな。本当は今すぐにでも名前を手に入れたかったんだけど」

「寝言は寝てから言いな?今にも先にもそれは叶わない」


真人にしたって、本当は今の名前の実力がどのくらいのものなのか、そして彼女の魂がどんな形をしているのかを確かめるくらいで諦めようとしていたのだ。今回は。

だが、実際に名前とやり合った事で今すぐにでも名前を手に入れたくなった。仲間に引入れるという目的とは別に、真人自身の私的感情から。


「でもまぁ、今回は諦めるしかなさそうだ」

「逃がすと思ってるの?」

「逃げれると思ってるのさ」

「なッ…!?」


言うが早いか名前を天高く放り投げ、その体を貫こうとする真人。


「なるほどね」


真人にしたって本気で名前の体を貫く気などない。

五条ももちろんその事には気がついていたが、それでも体は反射的に放り投げられた名前の体をキャッチしに行っていた。
五条にしたって名前と真人の天秤であれば、間違いなく名前を選ぶ。

それにより当然真人はその間に逃げようと────


「…え?」


ズバッ


逃げようと身を翻した真人の肩から上がる血飛沫。

驚いて真人が振り返れば、今にも射殺さんばかりの紅い瞳と目が合った。


─── 両面、宿儺…?


「…っと! 大丈夫か名前!?」


けれどその瞳はすぐに柔らかい茶に戻り、まるで今の出来事に対しての記憶がないかのように彼は名前の方を振り返って駆けて行った。

切り付けられた肩を押さえ、唇を噛み締める真人。


「…狙ってるのか。宿儺も」


── 名前(彼女)を。


「………」


その光景を見ていたのであろう五条の視線を振り切ると、今度こそ真人は姿を消したのだった。


「また派手にやったね、名前」

「五条…せんせ…」


真人に向けていた視線を下に向かせ、血の筋を流す名前の左目を拭ってやる五条。

名前のそれが赤血操術の一つである赤鱗躍動の効果によるものであり、そして今の名前の意識が朦朧としてるのも血液の使いすぎによる貧血だと分かっている五条は、頑張ったねと彼女を労ってやった。


「大丈夫か名前!?…って、大丈夫な訳ねえよな…!!」


その五条から名前を受け取った悠仁は、遅れてごめん…と華奢な名前の体を抱きしめる。


「大、丈夫…。それより悠仁、生きて…」


五条が拭ってくれた血の後からポロポロと透明な涙を零し、震える手を悠仁に伸ばす名前。


「あぁ。間違いなく俺だ名前!!待たせてごめん…!心配させてごめんな」

「良かっ、た…!良かった悠仁っ…」

「悠仁。説明は後にして、ひとまずは高専に戻って名前の手当を済ませようか」


名前の事絶対に離しちゃダメだよ?との五条の言葉に強く頷いた悠仁は、名前を抱えて自分の体と密着させた。


「いくよ」


それを確認した五条は悠仁を抱え、高専へと移動したのだった。


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