「ここが呪術専門学校かー」 「すごい山の中だねー」 新幹線で東京までやってきた後、更に五条に連れられて歩くこと数時間。 目の前に広がるお寺のような景観の高専を見上げた悠仁と名前の二人は、物珍しそうに辺りを見回してそれぞれ声を上げた。 「想像より壮大だな!」 「…本当だね!」 あれから。 五条にもした話を悠仁にも聞かせたところ、悠仁は怖がるでもましてやドン引きする訳でも無く、ただただ感心したようにそっか、と返して名前を引き寄せた。 『純粋にスゲーと思うし、つーかそんな事ってほんとにあるんだな!俺バカだからこの短期間で名前と出会ったり宿儺の指飲み込んだりでめちゃくちゃ目まぐるしくて頭がついてけてなかった部分も多いけど、でもなんか今の現実の方が妙にしっくりくるし、受け入れられるんだよな』 話してくれてありがとう。これからもよろしくな!と。 普通だったら気味悪がられたり、嘘つき呼ばわりされたとしてもしょうがないような内容であるのに、悠仁は当たり前のように受け入れ、笑いかけてくれたのだった。 以前にも増して距離が近くなったような二人を見て、パンパン!と両手を打ち鳴らす五条。 「とりあえず二人はこれから学長と面談ね。まぁ、実際に面談を受けるのは悠仁だけなんだけど」 「えぇっ!?」 五条のその言葉にすぐさまどーゆー事!?と振り返る悠仁。 「どーゆー事も何も、名前はまだ自分の呪力がコントロールしきれてない状態なワケだから、それで何かあったとしてもマズイからね。学長には会ってもらうけど、僕の隣からは離れちゃ駄目」 「何かって…何かあるような面談なんですか!?」 名前の呪力がコントロール出来なくなるような…!?と問う悠仁に、さぁ?と答えをはぐらかす五条。 「なんだ、貴様が頭ではないのか」 「!?」 力以外の序列はつまらんなと続けるその声がする場所を探した名前は、声の場所を見つけた途端に驚いて悠仁から離れ、五条に抱きついてしまった。 「何この反応。名前ちゃん可愛すぎじゃない?」 「おい宿儺!!勝手に出てくんな!!」 隣にいた筈の名前が自分の元から離れ、五条に抱きつく原因となってしまった宿儺に対して怒る悠仁。 「ごめん名前!五条先生も。コイツたまに出てくるんだ」 そう言って悠仁は宿儺の口が現れた右頬をパチン!と叩いた。 「愉快な体になったねぇ」 名前の頭を撫でながら感心したようにそう返す五条。 悠仁が名前の方においでと手を伸ばすと、今度はその手の甲に口が現れ、白い歯が覗いた。 「必ずモノにするぞ、小娘」 「!!!」 「いい加減にしろ!」 悠仁が再びその部分を叩くと、ようやく宿儺は現れなくなった。 「厄介な奴に好かれちゃったねー名前ちゃん。悠仁が怖かったらいつでも僕の部屋に来ていいからね」 「あからさまな職権乱用!?」 ダメに決まってるじゃないですか!と慌てて五条から名前を引き離す悠仁。 その反応を楽しそうに眺めていた五条だったのだが、眼前に黒い扉が見えてくると二人の先頭に立ち、扉を開いた。 「遅いぞ悟。8分遅刻だ」 開いた扉の先にいたのはサングラスをかけ、どう見ても堅気では無さそうな容姿とガタイを持つ男だった。 けれども彼のその手にはあまりにも意外なものが握られていて─── 「!」 「名前はこっち」 男が握っているものをよく見ようとする名前だったのだが、五条により突如として腰を引かれたことで叶わなかった。 「あれが学長ね」 夜蛾正道って名前だけどまぁ、覚えなくてもいいよと笑う五条。 「ちょっ!!何やってんすか五条せんせ…アダッ!!」 五条に体を密着させられている名前を見て反射的にこちらを振り向いた悠仁だったのだが、何故だかその頬はカッパのような頭をしたぬいぐるみにより殴られ、吹っ飛ばされてしまった。 「ゆう…っ…!」 状況が分からなくて思わず駆け寄ろうとする名前だったのだが、面談中なだけだから大丈夫よと言う五条の右手により阻まれ、動けない。 「悟。名前の方はどうだ?」 「大丈夫です。問題なさそうですね」 ぬいぐるみとやり合う悠仁を眺めつつ、名前を抱える五条の方に呼びかける夜蛾と、片手をヒラヒラと振り返す五条。 二人のやり取りの意味が分からなくて名前が困ったように五条の方を見ると、これの事だよと言って五条は名前の両手首に嵌る腕輪を指さした。 「悠仁とやり合ってるあのぬいぐるみは呪骸って言ってね、学長の込めた呪いの力によって動いてるんだ」 でも名前ちゃん学長の方にも、あの呪骸の方にも反応してないよね?と続ける五条に、言われてみればと目を瞬かせる名前。 「学長はね、名前の方ではその点を確かめたかったみたい」 これで晴れて暴走する事無く、ここで学べるね!と五条が笑うのと同時、悠仁に対しても合格!!という夜蛾の声が響いたのだった。 ×
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