07.特別


それから沖田さんと私は以前のぎくしゃくが嘘のように年相応の会話をするようになった。昨日は土方さんに超激辛タバスコをマヨ丼の中に忍ばせ、夜食と偽り食べさせ大目玉をくらった事やスーパーの店長に残りモノのデザートを貰ったから今日のおやつはそれを食べるつもりなど、縁側に座って話すようになった。
沖田さんはサボるついでの話し相手になれということだったけれど、5分10分の会話が凄く嬉しくて楽しみになっていた。



「そろそろ、お店に行ってきますね。」
懐中時計を確認し、よいしょと腰を上げる。ババア見てェだなと鼻で笑われたがそれすらも嬉しい。沖田さんと話すようになってからは、少しでも反応があると喜んでいる自分が居る。それが貶されていたりしていてもだ。

手に持つ懐中時計が気になるのか、それを見つめていた。
「どうしたんでィ、そんなもの持ってなかったはずじゃあ?」
「あ、これですか?これは、この間お給料を頂いたので全額近藤さんにお渡ししたらこんなに要らないと半分以上突き返されてしまって。自分に必要なものを買いなさいと言われまして。時間が、すぐ分からないのが不便だったので近くの骨董屋さんで安く買ったんです。」
「全額・・・、あんた本当に自分の事なんか二の次なんだな」
「自分の事に使っていますよ?ここに、居られるだけで幸せなんです。だから、その足しに、雀の涙にも満たないかもしれませんが、少しでもお役に立てて欲しくて。」
たとえ期間限定だとしても。ここに居るあいだは皆さんの為に出来ることをする事が、1番嬉しいんです。と付き足せば頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でられる。



沖田さんは私に今まで以上に優しく、甘くなった。他の人からはちょっかいを出されている、遊ばれていると囚われがちなのだが、沖田さんなりの表現だと思っている。
からかわれて、時々イタズラもされるが、以前の事を考えればそれが嬉しくて仕方ない。・・・あれ、私、沖田さんのおかげでMになっちゃったのかな・・・

くすくすと乱れた髪の毛を手で梳かし、行ってきますと会釈をしその場を離れようとした。
「なまえ、待ちなせィ」
「えっ?」
「これ、持っていきな」
すると懐からスっと桃色の手袋を取り出し私に渡してきた。それは花柄の可愛らしい物で、手袋と沖田さんを見比べる。あんまりジロジロ見るなとペシっと頭を軽くチョップされるも、嬉しくて嬉しくて中々言葉が出なかった。
あの沖田さんからプレゼント。そんな事をされるだなんて思いもしなかったから。



「気に入らねェのか?」
「っ違います!!!!!そんなこと絶対に!!!!!ただ、嬉しくて・・・沖田さんが私なんかに・・・」
「風邪なんか引かれたら俺の暇潰し相手が居なくなるから、ただそれだけでィ。ほら、さっさと行きな」
シッシッと手で追い払う彼の頬は、私にしか分からないくらい、薄く薄く赤く染まっていた。


その日の仕事は今までで1番笑顔いっぱいだったと店長に言われた。良いことでもあったのかい?と。

この嬉しさとドキドキがなんなのかはまだ分からないけれど、近藤さんや土方さん達に優しくされてもこんな気持ちにはならなかった。歳が近い男の子だから?印象がガラリと変わったから?ううん、多分どちらも違ってどちらも正解。ただ、正解になるにはある言葉を付けてだ。




「沖田さんだから」
沖田さんだから、ドキドキが止まらない。






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