「なまえちゃん、近藤さんが呼んでるよ」
仕事から帰り、廊下を歩いていると山崎さんに呼び止められた。
「山崎さん、今戻りました。」
最近は1人でスーパーへ行かせて頂けるようになった。(時々沖田さんがサボりついでに着いてくるが)今日も1人だ。因みに目の前の山崎さんに会うのは1週間ぶりである。



08.嬉しさの後には



「なまえちゃん最近明るくなったよね」
一緒に近藤さんの部屋に行く途中そんな話をしていた。山崎さんに会う度会う度、私は雰囲気や表情が違うらしい。自分ではよく分からないけれど、観察として動いている為か、そういう変化にすぐ気付くらしいのだ。

「この間、沖田さんにプレゼントを頂いたんです。」
−−ゴンッ
鈍い音がしたと思い隣に視線を向けると柱に頭をぶつけている山崎さんが居た。
「山崎さん!?大丈夫ですか!?」
「・・・や、大丈夫。というより、沖田隊長がプレゼントって本当に!?え、なんで?どうしてそうなったの?いつの間にそんな仲になったの!?!?」
「あ、違うんです。そういうんじゃなくて、私が風邪ひかないように。風邪ひいちゃうと暇潰しの相手が居なくなってしまうと言うことで」
「えー・・・それ絶対ちg」
バコンッと今度はもっと鈍い音で柱に頭をぶつけている山崎さんが居た。その後ろには沖田さん。

「山崎よォ、代わりにお前が俺の暇潰し相手になってくれるんですかィ?」
「いや!遠慮しときます!!!!じゃあ、なまえちゃん!またね!」
頭を抑えながら足早にその場から逃げるように去っていった。



「余計な事聞いてんじゃねェよ」
「余計な事?」
「・・・そんなことより、近藤さんとこに行くんだろィ?」
「あ、そうです!なんか呼ばれてるみたいで。何かしちゃったのかな私・・・、失敗、したのかな・・・」
「まあ、そんな心配するような事じゃないと思うからしゃんとしなせィ」
ポフポフと優しく頭を撫でられ、緊張していた気持ちが一瞬で消えていった。沖田さんが大丈夫と言えば大丈夫なのだ。
離れていく手に少し寂しさを覚えながらも、近藤さんの部屋に着けば背筋を伸ばし襖に手をかける。



「なまえです。」
「おお!なまえちゃん!悪いなぁ、仕事終わり直ぐに呼び出しちゃって」
「いえ、仕事は楽しいのでお気になさらないで下さい。・・・で、お話とはなんでしょうか?」
「そうそう、なまえちゃんに女中の仕事をやってもらおうと思ってな。スーパーの仕事に慣れた頃で申し訳ないんだが、先日寿退社した女中が2人居て、人手不足になってしまってなぁ」
「あ・・・、でも私は・・・」
「ここに来て3ヶ月ちょっと。場所の制限とかでなまえちゃんには気を遣わせてしまっていたね。これからは、屯所を女中として守って貰えるかな?」
「・・・っはい!精一杯、頑張ります!ありがとうございます!」

膝をつき頭を下げるといつもの豪快で優しい笑い声が聞こえ、ああ、本当に私はここに居ていいのだと改めて実感した。
壁に寄り掛かりながら始終眺めていた沖田さんと目が合い「何泣いてんでィ」と意地悪そうに言われ、初めて涙を流しているのに気が付いた。あわわ、と袖で目を擦ると擦りだと手を取られ代わりに沖田さんのスカーフで優しく目元をあてられ涙が収まった。
「沖田さん・・・」
「目元が真っ赤になってらァ」
「だって、嬉しくて・・・」
自分の頬が熱くなり両手で抑えると、近藤さんの咳払いでハッとし、正座を正し直した。



「あー・・・と、総悟となまえちゃんは、そのー、やっぱりそういう?」
「なっ、何言ってるんですか!違います!違います!ね、沖田さん?」
「いやー、近藤さんバレちまったかァ。そういう仲なんでそういう感じでお願いしまさァ」
「えっ!?そういう仲!?どういう仲なんですか!?」
「総悟くんんん!?お父さんは、きちんと、年相応のお付き合いしか認めませんからね!?」
「え、え!?沖田さん!?」
「なまえちゃん本当なの!?総悟と付き合ってるの!?いつから?ねぇ、いつからァ!?!?」
「違います!からかってるだけです!沖田さん冗談が過ぎますよ!」
付き合ってるなんて嘘を言った張本人は大笑い。近藤さんはどっちなの!?と慌てふためくばかり。私も否定するのにいっぱいいっぱい。



「あー、笑った。腹いてェや。なまえ、甘味屋でも行こうぜ」
「ちょっと、ちゃんと誤解解いて下さいよー!」
「総悟!デートなのか!?これからデートなの!?ちゃんと夕飯前には帰ってくるんだよ!!!」
「・・・近藤さん、野暮言っちゃ行けねェや」
私の手を取りそのまま部屋を後にする。
背後から「大人な階段なんか絶対ダメですからねー!!!!」とお父さんのような叫び声が響いた。




「沖田さんってば、あんな嘘ついて」
「いやー、近藤さんの慌てふためく姿、傑作でさァ」
「・・・もう」
沖田さんのオススメの団子屋で、お団子を食べながらケラケラ笑う沖田さんを横目に、少しだけ、チクリと胸の辺りが痛くなった。
沖田さんは暇潰しにこんなことを言っているんだ。他意はない。でも、時折優しくしてくれる沖田さんに私はドキドキしてしまう。


『そういう仲なんで』


それが本当のことならいいのにな。
と、一瞬でも思ってしまう自分が居た。

なんておこがましい。
私なんかがこれ以上想ってはいけないのに、沖田さんは私を保護対象として見ているだけ。楽しいから冗談でありもないことを言っているだけ。
私なんかが、人を好きになっちゃいけないのだ。


「・・・」
「ィ、・・・おィ」
「・・・っあ、ごめんなさい!なんですか?」
「何ぼーっとしてるんでィ。」
「あ、いえ。ここのお団子美味しいですね!」
慌てて団子を口に含んだ為、喉につっかかってしまいむせる。ゲホゲホと喉元を叩いていると、お店の方がお茶を差し出してくれた。ありがとうございますと言うとにこりと微笑んでくれる。瞬間、ザワりとし鳥肌が立った。いや、まさか、でも・・・こんなに似てるなんて。

そんなはずない、あの人がここに居るなんて。違う、きっと別人だ。でも、この笑顔、あの人そのものだ・・・


「・・・お姉ちゃんっ」
なまえは目の前の店員に膝をついて縋り付き涙を流しながら何度も何度もごめんなさいと謝り続ける。
「え・・・、お客様?」
「なまえ?」
「ごめんなさい、ごめんなさいっ、私のせいで、お姉ちゃんは悪くないのに!私が、私がァァァ・・・っ!」
「なまえ!しっかりしなせィ!」




遠くで沖田さんの声がする。
でも、届かない。




少しずつ私の中の記憶のネジがカチリカチリと動き出す。


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