泣いて泣いて泣いて、気が付いたら外が明るくなっていた。


あのあと私は、空間移動(テレポート)を使ってサラマンダー様と共に家の中へ入った。寝台に寝かせようと思ったら、彼は眠っているのに私を離さず…私も離れたくなかったから一緒に横になった。冷えない様に掛けた毛布と彼の温もりに包まれて、全てが狂いそうな鉄臭さの中で私は泣きながら夜を明かした。

(………。)

希少な朝の陽が射し込む薄暗がりで彼の顔を見つめる。

ぴったりと閉じられた瞼、それを彩る睫毛、薄蒼い肌…同じ焔色の髪と髭。

何も変わらない。ただ頬に散ったいくつもの血痕だけが、いつもと違う。

かつては鮮やかな赤だったであろう…今は赤黒いそれをそっと指で擦ってみる。すぐに粉々に砕けてぱらぱら落ちて、僅かに名残を残すのみとなった。

…起きたら何て言えば良いんだろう。

……起きてくれるのかな。

厚い胸板に擦り寄る。ゆっくりしっかりとした鼓動…規則正しい上下。やっぱり普段と同じで、だけど涙が出て来た。

(…起きて…。)

あの綺麗な金の瞳が見たい。
あの低くて優しい声が聞きたい。
あの大きな温かい手に撫でられたい。

(…起きて…。)

私を見て。
何かこたえて。
この不安を消して。

「………!」

……こんな時にまで私のわがままを聞いてくれるなんて、一体どうしてだろう。今さっき焦がれていた瞳にじぃっと見詰められる。

「…っ……ミノン…?」

鼓膜を震わせたのはひどく掠れた声だった。

「………何で……泣いてんだよ…。」

困った様な微笑を浮かべながら涙を拭ってくれようとする。しかし私に触れる前にほんの一瞬だけ手を震わせると、何とも言い難い複雑な表情を浮かべた。

「……そうか……俺が、怖がらせたのか。」

代わりになのか、あやす様に抱き寄せてくれる。いつもと同じ、優しい抱き締め方…優しい声。

ぽろぽろと涙が零れる。抑えていた嗚咽が不意に漏れて、ついには声を上げて泣きじゃくってしまった。

「………悪かった……本当に悪かった。もう、大丈夫だ…迷惑かけたな。」

撫でてくれる手もいつも通り、優しく温かい。

いつもの彼だ。
私の知る[彼]だ。

泣いて泣いて泣いて、涙が枯れるくらい泣いたと思ったのに止まらない。もしかして涙腺が壊れてしまったのだろうか。

ひとしきり泣いて頭がぼぅっとし始めた頃、そっと切り出される。

「………シャワー…貸してもらえねえか。」

離れることに耐え難い不安を感じたけれどこらえて頷くと、サラマンダー様は私の頭をぽんぽんと撫でてから浴室へ行ってしまった。

(…着替えよう。……着替え、持って行ってあげなくちゃ…。)

白い夜着や敷布(シーツ)に点々と付いた錆色の擦れ痕を見て、無理やり行動を始める。毛布を押し退けながら起き上がると酸欠で頭がくらくらした。

彼の服を脱衣場に置いて来てから着替え始める。

いつもの着物を着終えた時、彼が上がって来る気配がした。



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