「…おい、起きろ。」
「っ……ん…。」
「おまえに客だ。起きられるか?」
「…うぅ…んっ……お…きゃく…さま…?」
眉根を寄せ、目を閉じたままもぞもぞと動き出すミノン。
「起きられねえんなら帰らせる…無理すんな。」
「…だ…いじょ、ぶ…で…す…。」
やがてうつぶせになると、ふらふらと重そうに頭を持ち上げた。解きっぱなしだった黒髪が肩を滑る。
「…ん……おはよ…ございます…。」
ぼんやりとした表情でこちらを向いたミノンは、どう見ても非常に顔色が悪かった。やはり起こすんじゃなかったか…。
「今は夕方だがな。…気分は?」
「…なんとか……かんとか…。」
「そうか…立てるか?」
「…はい…。」
体を引き摺る様にしてベッドから降りるミノン。するとお約束の様にふらついてバランスを崩した。
「きゃっ…!」
「…っ!」
咄嗟に片腕で支える。まだ上手く力が入らないのか、縋る指に込められた握力はひどく弱々しい。
「…おい…本当に大丈夫なのかよ…。」
「だ…大丈夫…です…。」
「………。」
せめて少しでも楽になればと、胸元に凭れ掛からせる様に体勢を変える。おとなしく腕の中に納まったミノンは、まだはっきりとしない口調で訊ねてきた。
「…お客さま…て…どちら様ですか…?」
「貧困層のガキが二人…仲間内に病気か何かが流行ってるらしい。[魔女]に助けてもらいに来たんだと。」
「……まじょ?………私?」
「…ああ…多分な。…どうする?別に助けてやる義理はねえ…追い返すか?」
「っそんな…助けてあげなきゃ…。」
予想通りの答えと共に、まだどこか覚束ない仕草で俺の元を離れ自力で歩き出すミノン。
「…そういうと思った。今は玄関の外に待たせてあ……おい?その格好で行くのか?」
寝ぼけているのか寝衣姿のまま扉へと向かって行ったので一応引き留める。ミノンの寝衣は一般な寝間着とは全く違い、出歩いても差し障りはないだろうと思える見た目だが…本人が後で気にしたら事だ。
「あぅ……そっか、着物……めんどくさ…。」
似合わぬ怠惰な言葉と共に口の中で何事か唱えるミノン。すると彼女は次の瞬間いつもの服を纏っていた。幻覚なのか仕組みは不明だが、髪も整っている。
「…これでよし…と。」
一人呟くと、未だに危なかっかしい足取りで階段を下り始めた。ガラにもなくハラハラしながら後ろから見守る。
「おい…足元気を付けろよ…。」
「はい、だいじょ………きゃっ!」
……一体どれだけお約束なら気が済むんだこのお嬢さんは。
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