常夜の街――その端っこにあるスラム街。その中の、古びた聖堂。

あたし達…身寄りの無い子供達は、ここで互いに助け合って暮らしている。

「…クリスぅ…っ…。」
「くるしいよ…。」

「大丈夫よ…セラ、ナーシャ。きっとすぐに良くなるからね…。」

異変が起こったのは3日くらい前の事だった。みんな次々と熱を出して…寝込んでしまったのだ。今、仲間の中で元気なのはあたしと…。

「…お姉ちゃん…。」

頼りないにも程のあり過ぎる3つ下の弟、ニコラだけだった。あたし達の中で血の繋がりがある兄弟はかなり珍しいけど…はっきり言ってそんなに嬉しくない。外見だけはそっくりだけど性格は正反対だし、わざわざ伝染らない様に隔離してやってるっていうのに今もドアを開けやがってるバカだし。

「……なあに?」

病人の前で怒鳴ったら事なので、ニコラを押し込めるついでに背中でドアを閉める。

「みんな、とっても苦しそうだね…。」

「…そうね。」

わざわざ来てやったっていうのに、ぼそぼそとした喋り方でわかりきった事を口に出す愚弟に本当に腹が立って乱暴に返す。今年でもう7つのクセに…何でこんなにバカなのよ。くりくりの金茶の髪もまぁるい深緑の瞳も…あーもーほんとムカつくっ!

「……だから何?」

「…みんな…死んじゃうの…?」

「ばっ…馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!」

うっかり怒鳴ってしまってから慌てて口をつぐむ。寝ている子達が起きてなきゃいいけど…またやっちゃった。

「そんな訳ないでしょ!?みんな…今に、元気になって…。」

その言葉の根拠のなさに、虚しさに、悔しさに、自分で悲しくなる。

「……だって…お医者も、薬も…無理じゃない…っ!あんた、そんなことも…わからないの…!?」

完全な八つ当たりであたしに当たり散らされても、ニコラは動じなかった。いつもこの子はそうだ。それであたしが収まるまで黙って待ってる。

今日もまた、怒鳴ってる方がバカらしくなって床に座り込むと…ニコラはしゃがんで目線を合わせてきた。

「……あのね、お姉ちゃん…[魔女]って知ってる?」

「…魔女?知らないわけないでしょ…そんなもんがどうしたのよ。」

あたしのつっけんどんな態度にも関わらず、ニコラは続けた。

「違うよ…お話の中じゃなくて、この街の。[トレノの魔女]さん。」

「…誰よそれ。てゆーか今なんの関係があるわけ?」

「あのね、不思議なお屋敷に住んでるんだって。それで…どんな魔法も使えるんだって。……だから…助けてもらおうよ。」

「はあっ?」

…この子はわかってるんだろうか。あたし達みなしごの事なんか、誰かが相手にしてくれるはずがありゃしない。それがすごい人なら…尚更だっていうのに。

「助けてもらおう、魔女さんに。確かに…ぼく達なんか、相手にしてくれないかもしれない。だけど…もしかしたら、もしかしたら…大丈夫かもしれない。…ぼく…諦めたくないんだ!お医者は絶対にダメ…なら、もしかしてに、賭けようよ…!」

「………。」

同じに決まってるとか、逆に危ないんじゃないのとか…言いたい事はいっぱいあったけど。

「…どこに住んでるの。」

「けっこう近い所だよ。走ったらすぐ。」

「…ヤバ気な路地裏とか貴族の大邸宅とかじゃないでしょうね?」

「うん、普通のとこ。そんなに危なくはない…と、思う。」

「……わかった。」

あたしだって、このままみんながいなくなるなんて耐えられなかった。一縷の望みがあるなら、それに縋りたい気持ちもある。

「…あんたは留守番してなさい、ニコラ。みんなのこと…頼んだわよ。」

「ええっ!?嫌だよ、ぼくも行く!」

「何言ってんのよ!そしたらみんなの看病を誰がするの!?」

それに、魔女って言うんだもの…子供を捕って食べちゃうかもしれない。そんな所に、絶対ニコラは連れて行けない。

「お姉ちゃんは場所知らないんでしょ!?ぼくが一人で行って来るもん、お姉ちゃんが看病しててよ!」

「馬鹿言わないであんたなんかに任せられる訳ないでしょ!?目印とか教えてくれりゃそれで良いのよっ!……あ…。」

大音量で姉弟喧嘩を繰り広げてしまっていた事に気付いたのは、ドアがそうっと開いた時だった。

「ご…ごめんナナ…起こしちゃったわね。」

「クリスちゃん、あたし大丈夫よ。」

「…え?」

「みんなの事、任せて!」

胸をはるナナ。確かに彼女は微熱だし、あたしの次に年嵩だ。…だけど…。

「ありがと、ナナちゃん。ぼく達すぐ帰って来るからね。」

「ちょ、ちょっとニコラ!」

「わかったわ。行ってらっしゃい!」

ナナのきらきらした笑顔に何だか反論出来なくなってしまって、溜め息を吐く。

「……本当に、長引きそうだったらすぐに諦めるからね。」

「うん!」



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