「ミノン、これから何か用事あるか?良かったら一緒に読み合わせしねえ?」

「え…良いんですか?」

「おう、勿論!オレ、今日フリーなんだ。」

「ありがとうございます!台本がほとんど読めなくて…どうしようかと思っていたんです。」

「へっ!?…ああ、そっか…。」

旅の途中、エーコやビビと一緒にフライヤに読み書きを教えてもらいはしたが…あまりまとまった時間は取れず、ミノンは今も読み書きが苦手だった。

「じゃあ、決まりだな!…どこでやろうか。」

「もし良ければ、私の家にいらっしゃいませんか?大したおもてなしも出来ませんが…。」

「サンキュー!世話になるぜ。」







トレノ郊外にある、小さいながらもしっかりとした屋敷。ここがミノンの今の住居である。

「ミノンん家に来るの、久しぶりだな…何か変わった事は?」

「大して何も変わっていませんが…先日、小さなスピネット(※テーブルに置いて使用する、ピアノの前身チェンバロの小型版)を買いました。とても素敵な音がするので気に入っています。」

豪勢ではないが繊細な造りの門を押し、中に招き入れるミノン。

「どうぞ。」

「お…この庭も相変わらずなんだな。」

門を越えた瞬間にがらりと変わった周囲の景色に、ジタンは特に驚く様子もなく言った。

「はい。これと言って変える理由もありませんし。」

穏やかな太陽の光の中を、土を踏みしめながら歩く2人。本来なら陽がほとんど射さないトレノの、まるで童話の森の様な雰囲気の庭は…全てミノンの術が造った幻である。

「しっかし、これって不法侵入を企んだ輩は驚かないのか?」

「この門は、私の知らない人が触っても開きませんから…大丈夫ですよ。」

「ふぅん…。」

径を辿って屋敷に着くと、鍵すらかかっていないドアをミノンが開けた。

「さあ、どうぞ。」

「邪魔するぜ。」

部屋に物は少なく、ミノンの質素な暮らしぶりが見てとれる。唯一テーブルの上のスピネットだけは使われた形跡があった。

「ん、これが…?」

「はい。リンドブルムの楽器屋さんで売って頂きました。」

「へえ…!」

小さいながらも、歌の音取りには十分な数の鍵盤がある。外を包む木箱は古びているが美しい装飾が施してあり、まるで一つのインテリアの様だった。

「綺麗だなあ…よくこんなお宝見つけられたな。普通の店にはこんなの置いてないだろ?」

「はい。中古の物を安値で売ってらっしゃる、路地裏の露店で見つけました。」

「ろ…路地裏!?…あのなミノン。女の子がそんなとこを一人で歩いちゃ駄目だろ?リンドブルムっつったって、治安もピンキリなんだぜ?」

「大丈夫です。サラマンダー様が一緒でしたから。」

「……あ…そうですか…。」

何事も無さげに言うミノンに、ジタンの方が拍子抜けしてしまう。一応サラマンダーがミノンの外出の付き添いを…本人曰く[子守り]をしているのを知ってはいたが、まさか買い物にまで付き合うとは思わなかったのだ。

「さ…さて、と。」

気を取り直してテーブルに台本を置くジタン。ミノンも同じ様に置いて座った。

「始めますか。じゃ、最初から…。[西軍と東軍の戦いは日増しに激しくなっていった。西軍のガルー城の戦士ドラクゥは激戦の戦地で母国に残して来たマリアの事を思う…。]」

ジタンが音読し、ミノンがそれを自分の台本に書き写す。

「…この位の速さで大丈夫か?」

「はい。」

「じゃあ次、ドラクゥの歌な。[オー…マリア…オー…マリア…わたしの…こえが…とどいているか…おまえのもとへ…]…ここで暗転だ。場面が変わってマリアの城…って書いてあるから、ここからがミノンの出番だな。」

「…はい。」

素早くペンを動かして行くミノン。

「次はナレーションだ。[西軍は破れ、マリアの城は東軍の支配下におかれた。東軍の王子ラルスとの結婚を強いられたマリアはドラクゥへの思いを捨てきれず、毎晩夜空を見ては恋人を思う…]…よっし、これで1枚目は終わりだな。書けたか?」

「はい。」

「…いつ見ても不思議な字だなぁ…よくそんなに複雑なの書けるな。」

ミノンがこちらの世界の文字(英字)の下に書き連ねた漢字かな交じりの文を見て感心するジタン。

「慣れていますから。…次をお願い出来ますか?」

「おう。次はマリアのソロだ。見せ場だな!」

「は…はいっ!」



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