「………話は聞けたのか。」
「はい、ありがとうございました。」
タンタラスアジトの、隣の建物の…屋根の上。
「はぁ?…俺は何もしてねえ。」
「…とても混乱していた私に、ジタン様の所に行く様に勧めて下さったのはサラマンダー様でしょう?」
小柄で華奢な少女と、立派な体躯をした炎の色の髪を持つ男が屋根の上に2人きり…端から見たら少々異様な光景である。
「…で…どうする事にしたんだ。」
「やらせて頂く事にしました。」
「…そうか。」
「どこまで出来るかは、わからないです。でも、ジタン様は応援して下さるって…。」
「……これからどうするんだ?」
「せっかくリンドブルムまで来たんですから…。」
…やっぱり付き合わされるのか…と密かに眉を潜めるサラマンダー。
「色々な場所を見て行きたいのは山々なのですが…今日はやめにしましょう。」
「……つまり帰るのか。」
サラマンダーの僅かな希望は、次のミノンの言葉によって一瞬で消え失せた。
「いいえ。」
「!」
「音源…音の出る楽器を探しませんと。私、こっちで知らない曲の音を取った事がなくて…楽器を持っていないんです。」
「………。」
その後、サラマンダーがミノンの楽器屋巡りに付き合わされたのは言うまでもない。
†
3日後、トレノのとある集会所。
「おお、歌姫殿!」
「…おはようございます。…本日から…よろしく、お願い…いたします。」
「そんなに固くならないでくれ。さあ、まだラルス役が来ていないんだが…皆向こうに集まっている。マリアはどんな役者が演じるのかと、噂しているよ。」
嬉々として言われても、そういう事はプレッシャー以外の何でもない…ミノンが小さく溜め息を吐いた時。
「…ミノン!?」
「え?」
背後から聞こえた耳慣れた声に、思わず振り返るミノン。
「おぉ、おはよう。君で最後だよ。」
「す、すんません…。」
頭の後ろを掻くラルス役の…。
「ジタン様…!」
「ミノン…まさかとは思ったけど、ホントに同じオペラだったなんて…。」
「ん?何だ、君達は知り合いなのか?」
「は…はぁ、まぁ…。」
「ほう…!それは何とも奇遇だな。…さて、では向こうに行こう。」
「…それから、こちらが劇団タンタラス所属の…。」
「ラルス役、ジタン・トライバルだ。歳は18。歌は得意って訳じゃねえけど、演技や立ち回りなら自信あるぜ。」
明るい声でハキハキと言うジタン。身長こそ昔よりは伸びたが、声はまだ少年らしさを残している。
「そしてこちらが、アレクサンドリア城下町にある小劇場の歌い手の…。」
「この度ドラクゥ役を頂きました、リートです。歳はもうすぐ19になります。得意な声域はハイ・バリトンです。オペラはとても好きで、よく公演を聴きに行きます。」
落ち着いた声のしっかりとした自己紹介。ジタンとは対称的だ。
「…そして、こちらがヴィータの歌姫…。」
「…………え……と…。」
「…マリア役で、ミノンって言うんだ。ちょっと恥ずかしがり屋で…勘弁してやってくれよ。」
ジタンの素早いフォローの後、ミノンは綺麗にお辞儀をした。
「(あ…ありがとうございます…。)」
「(気にすんなって。)」
「……最後に、私がこの歌劇団の団長、オルフェウスだ。…君達は、私が所属や肩書に囚われずに世界中から引き抜いた。未だ名声を得ていない者も多いだろう…だが、私の目を信じて精一杯やって欲しい。私は、君達の若い才能を信じている。」
全員に台本が配られる。
「次の集まりは役者は1週間後、管弦楽団は2週間後とする。最低でも音だけは取っておく様に。…では、解散!」
3/18
[戻る]