家に戻ることもできない白雪ずきんはあてどなく歩き回っておりましたが、やがて足が疲れて動けなくなってしまいました。座り込んでいる間にもどんどん宵闇が迫ってきます。何と心細いのでしょう。火を起こそうにも、何も燃やせるものを持っておりません。このまま日が落ちてしまっては危険です。
黒くなっていく森を眺めながら途方に暮れていた時、白雪ずきんは遠くの樹々の中に一軒の家を見つけました。少しだけ元気が出てきて、目指して歩き始めます。
思ったより近くにあったそれは、小さな可愛らしい家でした。中には誰もいないようです。いくら夜が不安だとはいえ不法侵入する度胸がなかった白雪ずきんは、家の裏の壁際に座り込みました。もし住人が帰ってきたらこの方が危険は少ないでしょうし、暖をとらせてもらえると思ったのです。すると、一気に疲れが出てきたのでしょうか。彼女はすぐにうとうとと眠ってしまいました。
月が出た頃、白雪ずきんは賑やかな声で目を覚ましました。
「ちょっと、見て! こんなところに女の子がいるわ!」
高い声を皮切りに、バタバタと足音が聞こえます。
「ほんとだ……! い、い……生きてる……?」
「大丈夫じゃ、肩が動いておるじゃろう。」
「このような若い女子が……いったい何故、このようなところに?」
「お腹が空いたアルか?」
「おーい、お嬢さん、大丈夫か?」
肩を軽く叩かれて、白雪ずきんはやっと覚醒しました。目の前にいたのは――七人もの小人。それぞれ個性豊かな装いをしております。
「ああ良かった、どうしたの? こんなところにいたら冷えちゃうわ。」
柔らかく笑って話しかけてくれたのは、黒い髪が美しい女の子の小人でした。隣にいる金髪の男の子の小人も優しく笑っております。
「もしかして、道にでも迷ったのか?」
どう答えて良いのか、白雪ずきんにはわかりませんでした。道に迷っただけではありませんが、道に迷ったことも確かです。とにかくこくりと頷きます。
「そうか……可哀想に、心細かったじゃろう。今宵はもう遅い。どうじゃ、みな、この娘を泊めてはやらぬか。」
赤い帽子の小人の提案に、親切な小人達はみな揃って頷きました。とりわけ小さな二人が駆け寄ってきて手をとってくれます。
「えっと……おねえちゃんの、お名前は?」
「……し……白雪ずきん、と……呼ばれています……。」
「じゃあ白雪ずきん、一緒に中に入りましょ!」
こうして白雪ずきんは、小人の家に入れてもらいました。
「家までの道はわかるか?」
翌朝、朝食を終えた白雪ずきんに金髪の小人が訊きました。白雪ずきんは迷いましたが、やがて小さく口を開きます。
「あ、……あの……。」
「……ん? どうかしたのか?」
「何かあるなら言って? できることなら力になるわ。」
言葉に詰まってしまった白雪ずきんに、黒髪の小人は穏やかにそう言ってくれました。
「……あ、の……私、――帰れないんです。」
白雪ずきんの告白に、その場にいた七人全員が仰天します。彼女が何とか事情を話すと、みな親身になって聞いてくれました。追われている理由だけは話せませんでしたが、誰も深く訊こうとしません。
「じゃあ……もう村には戻れないじゃねえか。」
「なんと、可哀想に……何とかしてやりたいのう……。」
「……ねえ、このお家に……住ませてあげることはできない?」
そう言ったのはとんがり帽子を被った小人でした。六人が驚いて、それから揃って賛成します。
「白雪ずきんが良いなら良いぜ。仲間は多いに越したことないしな!」
「ええ、わたしも嬉しいわ。」
何という善人の集まりでしょうか。お約束の交換条件もなしに了承します。それでも白雪ずきんは、自分から言い出しました。
「あの、……その……炊事洗濯掃除裁縫……全部します、だから……置いてください……。よろしく、お願いします……。」
「すげえ! 助かるぜ!」
こうして白雪ずきんは小人の家に住むことになりました。
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