昔々あるところに、年若い翁(おにいさん)と嫗(おねえさん)がおりました。

翁(あくまでおにいさん)は野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使う傍ら、お宝も探しておりました。何せこの翁ときたら大変な冒険好きで、ことあるごとにお宝を求めてやんちゃをするものですから、いつも嫗に怒られていたのです。

ある日、いつもの様に竹藪に入った翁は、何と金色の光を発する竹を見つけました。これは何たるお宝かと、大変に喜びます。切るのは惜しい気もしましたが、好奇心に唆されて切ってみると……。

驚くことに、竹の中には玉の様に美しい稚児が座っておりました。その髪の色は――燃え盛る焔を思わせる赤。あまりの愛らしさに、翁はその稚児を連れ帰りました。……拐かしたのではありません。放るに忍びなかったのです。

嫗は今までのどれよりも突飛な翁の「お宝」を見て大変に驚きましたが、あまりに翁が稚児を可愛がるものですから、二人で共に育てることを決めました。

育てるとなれば名が要ります。翁は迷わず「ほむら姫でどうだ!なよ竹のほむら姫!」と叫びましたが、嫗は「竹は関係あるの?」と訊ねるより前に……こう言いました。

「……あのね、この児(こ)――若君よ?」

愛らしさからすっかり姫君と思い込んだ翁が、類い稀なる衝撃を受けたのは、語るまでもないことでした。



何はともあれ、稚児が愛しかったのは真のこと。気をとりなおした翁は稚児をほむら姫……改め「ほむら彦」と名付け、嫗と共に大層慈しんで育てました。

ほむら彦は日に日に……本当に言葉の通り日に日に大きくなり、あっという間に嫗どころか翁の身の丈も越してしまいました。それは思わず見上げる程。一年(ひととせ)と経たぬうちに、立派な若人となったのです。

ほむら彦は少々ぶっきらぼうで、粗野なところもありましたが、嫗の頼み事は素直に引き受ける働き者でした。力のあるほむら彦の手が、野山の仕事で役に立ったのは言うまでもありません。翁には幼い時分に嫗の大切な菓子を食べた罪を着せられたのが原因でどこか敵愾心を抱いておりましたが、何だかんだ悪くない関係を築いておりました。

その恵まれた体躯が村にはあまりに不似合いということもあるのでしょうか。どこか満たされない……何かが足りない様な思いを心のどこかに懐きつつも、ほむら彦は来る日も来る日も働きました。何故か自然と身に付けた我流の武芸にも、日毎に秀でていきます。

決して愛想と人付き合いは良くないものの、嫗の頼みとあらば歳の差で有名な隣の家の夫婦の手伝いまでするその人となりは、すぐさま近隣の人々の関心を集めました。縁談こそありませんでしたが、年頃の勇ましい姫から貧しいが武芸に秀でた娘、果ては齢六つの童女とまで恋沙汰が噂された程です。しかしながらほむら彦はまったく気づかぬまま華麗に全ての旗(ふらぐ)をへし折り、黙々と働き続けました。

「こちらにほむら彦という方はおられるか!」

そんなある日、何と宮からの遣いだという者がほむら彦の家へやって来ました。聞けば、その強さと実直さを今上帝がお気に召したので、侍として務めないか誘いに来たのだと言います。突然の話に翁と嫗は大変驚き、何とか我が子を留めようとしました。力をもて余しているほむら彦が行ってしまいそうな気がしたのです。

しかし、ほむら彦が答えを口にするより前に――どこからか声が響いて来ました。

「……の……み……。」

宮からの遣いも含め、全員が辺りを見回します。初めに声の主に気づいたのは……ほむら彦でした。何とその顔は上を向いております。

「我が背の君……!」

突如として――天から舞い降りた少女は、一旦ふわりと宙に浮かぶと、泣きながらほむら彦に抱きつきました。ほむら彦は思わず目を瞠ります。――何故、これまで何も思い出さなかったのでしょうか。少女は紛うことなく……自らの恋人である娘でした。

「もう、私のこと、お忘れですか……?」

「……いや、……今……思い出した。」

しっかりとほむら彦に抱き止められ、少女が心から安らいだ様子を見せます。しかし翁と嫗の存在に気づくと、一転して怯えた様子でほむら彦にしがみつきました。

「……そ、その子……誰?」

唖然としていた翁がほむら彦に問います。

「………。……追って話す。」

語ることを好まないほむら彦は、長い長い溜め息を吐いたのでした。




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