少し異国情緒漂う食卓の料理はどれも美味くて、いつもこんな食事をしてるのかと思うと本気でサラマンダーのことが羨ましかった。くそぅ……こんな恵まれた食事してる独身(一応)男そうそういねえぞ!ああ、惣菜だらけの生活が虚しくなってくる。

しとしとと、外はミノンの言った通り雨が降り出していた。サラマンダーは何を考えているのか──眠いだけな気もするけど──無言で食べている。オレはといえばご丁寧に酒まで出してもらっちゃって、すっかり寛いでしまった。べ、別に酔ってないけど。

「へえ、じゃあ今は裁縫の仕事もしてるのか。」

「はい。といっても、ほんの少しなのですが……個人的にお付き合いのある方が、時々。お人形さんの衣装を仕立てることが多いので、作っていて楽しいですよ。」

サラマンダーは黙ってるから、必然的にミノンと話すことになる。相変わらずお淑やかで、口数が多いワケじゃないけど……本当によく話してくれる様になった。人は変わるって、よく言ったものだと思う。思えば初めて会った時は、今すごく自然にやってる“談笑”ができる日が来るなんて思いもしなかった。なんてったって、彼女が喋っただけで驚いてたくらいだから。

本当に、彼女がこんな風に笑えて──しかも、隣に恋人がいるなんて日が来て良かった。サラマンダーの何気ない相槌に顔を綻ばせるミノンを見て、心の底からそう思う。お邪魔虫になってるのは認めるけどさ、帰ろうにも雨は降ってるし……見てたい気もするんだよな。この幸せな様子を。

「じゃああの服も仕事か?」

「いえ、あれは……その、……趣味で……。サラマンダー様、普通に売っている服ですと、着られるものが少ないので……。」

「へえ、サラマンダーに作ってるのか!すっげえ……あんなでかい服も作れるんだな!」

やっぱりサラマンダーのだったのか──何気ないふりで探りを入れて納得する。本当に、何ていうか尽くしてるなあ……。

「もしかして、今サラマンダーが着てるやつもか?」

「あ……はい。習作で……あまり、良い出来ではないのですが……着てくださって……。」

「いやいや超立派だって!すげえって!……そういやサラマンダー、今日のミノンの服、すっごい似合ってるな。」

そっとしとくべきかとも思ったんだけど、どうしても突っつきたくなって触れてしまう。実際すごく似合ってるし……野次馬根性っていうのか?やっぱどんな反応するか見たいというか!

「……ああ。」

サラマンダーが少し目線を寄越してからそう短く言っただけで、ミノンの頬がぱっと紅くなる。うわぁもう可愛いな……こんな夫婦顔負けの同棲生活送っといて、すげえ初々しい。こうなると逆にサラマンダーの反応が薄すぎることが不満だな。

「いつもの服も良いけど、こういう服も合うんだな〜おまえが似合うって言ってやったんだろ?良いセンスしてんじゃねえか。」

「………。」

そう思って吹っ掛けてみたけど、くそ……無反応か。なかなかサラマンダーから反応を引き出すのは難しいな……突っつきすぎてもマズいし、ほどほどにしとくか。好奇心はなんとやらっていうし。

じゃあどう話題を振ろうかと考えてた時、ミノンが少し落ち着かない様子を見せ始めた。何かを言おうとして迷っている感じだ。しばらく食べながら様子を窺っていたら、やがてサラマンダーに向かって口を開いた。

「……サラマンダー様。あの……。」

「………何だ。」

「……その……歌劇の、出演の……お誘いが……来たんです。」

「………前にやった様なやつか?」

「はい。」

どうやら夕方話したオペラのことみたいだ。ずっと気にしてくれていたのか?何故か少し言いにくそうに見える。

「……それが、どうかしたのか?」

「あの…………──出ても、良いですか?」

「……は?」




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