何となく興味本意で……というか現実を確かめたくて後ろからついて行く。ミノンが部屋の扉をノックしても、返事はなかった。小さく溜め息を吐き、中に入るミノン。
「サラマンダー様、起きてらっしゃいますよね?もう朝……じゃなかった夜ですよ。」
でっかいセミダブルベッドの際まで早足で近寄ると、そう言いながら布団の空いてる部分に右手をついた。左手でサラマンダーの身体を揺する。
「サラマンダー様?お夕飯の時間ですよ、起きてください。」
寝起きが悪いのは相変わらずみたいだ。まだ眠いのか、こんなに人の気配がしてるのに──つまり覚醒してはいるはずなのに、起き上がろうとしない。……寝起きが悪かろうが眠かろうが起き上がらざるを得ない状況にあった昔と違って、平和な環境にいるからこその甘えだと思うとちょっと可愛い。
「サーラーマーンーダーさーまー!……きゃっ!」
そんなほのぼのした気分に浸ってた時、ミノンが視界から消える。
「サラ……ちょっと、ご飯ですってば!」
よく見れば、彼女は支えにしていた右手を取られた状態で抱き締められていた。もちろん──サラマンダーの腕の中に。
「サラマンダー様!はなして、……もう……っ!ジタン様、助けてください……!」
もがくもののサラマンダーの腕が外れるわけがなくて、オレの方に助けを求めてくる。すると気が済んだのか、困らせるのをやめる気になったのか……サラマンダーはミノンを抱えたままゆっくりと起き上がった。
「……おはようございます、サラマンダー様。」
「………おはよう。」
頬を紅潮させたミノンの耳元にわざわざ口を近付け、掠れた寝起きの声でそう返す。
……あー……チョコボに蹴られる。
*
もともと、イヤな予感はしてたんだ。
だって、まず初っぱなからあのミノンの様子。あれどう見ても「恋人に似合うって言われて喜ぶ女の子の図」だろ?しかもまさかとは思ったけど、やりかけの裁縫の生地。あれは明らかに男物で……よく見たらシャツの形してて……むちゃくちゃでっかくて……つまりはサラマンダーのために服を作ってるってことはほぼ確実で……!でもって今の!いまのなに!なんなの今の起こしに来た人を寝起きに抱き締めるって普通なのそんなわけないだろ何オレがここにいるのがいけないのええその通りなんですけど!!
イヤな予感とは言ったけど、良い予感って言った方が相応しいと思う。だってこれ、やっとあの二人が恋人同士になったってことだろ?嬉しい。すごく嬉しい。オレはずっと、この状態を望んでいたんだから。
……そうなんだけど何だろうこの疎外感!お邪魔虫感!何か前にもおんなじ展開あった気がするんだよね……!一体いつの間にこんな(いつにも増して)ラブラブになっちゃってたんだよ!?報告の一つもしてくれりゃ良いじゃねえか!?だいたいごくフツーに上(二階)で寝てるとかさ、……やっぱ同棲してるんだよな……!?うわ愛の巣だ邪魔してごめんなさいすぐ出ていきますでもなんか寂しい!!
やっぱり前にも襲われた気がするんだけど、妹が嫁に行っちゃった様な錯覚に襲われる。だってそりゃしてやれたことなんか少ないけどさ、ずっと可愛がって来たんだ。幸せになってくれとは本当に心から思うけど……やっぱりお兄ちゃん寂しいです!
「……ジタン様?」
つい茫然としてしまっていたらしく、不安そうな顔をしたミノンに声をかけられる。サラマンダーはやっと起きることにしたみたいで、立ち上がって身体を解していた。
「あ、ああ……ごめん。久しぶりだな、サラマンダー。元気そうじゃねえか。」
「……ああ。」
でもこんな時間に寝てるなんて、昼夜逆転してしまっているんだろうか。彼は仕事の都合上、かなり不規則な生活を強いられている。普通なら誰かと一緒に暮らすなんて考えられないんだけど……ミノンの場合、彼女自身もすごく不規則だから──あまり寝ないでいられる普段と寝なきゃ駄目な時の差が激しいのだ──そんなに問題はないのかもしれない。
「今日はスパイスたっぷりのお肉と、野菜炒めと、お豆の煮物と……他にもいっぱい作ったんですよ。」
「………そうか。」
まだ少し眠たそうな声でそう言うと、サラマンダーは優しい手つきで小さな頭を撫でた。ミノンが嬉しそうに目を細め、それから大きな手を引いて下に降りようとする。
「ジタン様、お待たせしました。すぐに用意しますから降りましょう?」
「お……おう。」
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