身体の芯まで冷える様な、ある冬の朝。

焔の色をした髪を持つ男は、寝台に横たわったままゆっくりと目覚めた。彼の鼓膜を揺らしていたのは──ぱたぱたと階段を上って来る音。敏感な彼が醒めるには十分だったにせよ、小さなそれは朝の静寂に似つかわしく……どこか控えめにも思える。

やがて足音は、彼のいる部屋の前で止まった。だが後には扉を開ける音もお伺いを立てる声も続かない。時々微かな衣擦れを響かせながらも、何もしようとしない存在に──彼は目を開けた。

「……起きてる。」

小さく苦笑しながら、たったそれだけ口にする。すると忽ち扉がそっと開き……あどけない表情をした少女が顔を覗かせた。ちらちらと様子を窺う彼女に、掛け布を被ったままで彼が手招きする。

あっという間に彼の元へ駆け寄った少女は、手を引かれるままに彼の体温で温まった布団の中へ潜り込んだ。温もりを確かめる様に彼の逞しい身体へ頬擦りする。

「おはようございます、サラマンダー様。」

子供の様に笑いながらそういった少女に、彼は頭を撫でてやることで応えた。大きな温かい手に触れられ少女の表情がいっそう綻ぶ。しばらくそうしていた二人は、やがて自然と顔を見合せた。

「……何か良い事でもあったか?」

珍しく彼の方から、いつにも増して上機嫌な少女に話し掛ける。何の暖房器具もない部屋の冷えきった空気に、吐息が白く凍った。

「はい。」

わかってもらえて嬉しいのか、一瞬だけ驚いた後にっこりと笑う少女。そしてはしゃぐ幼子の様な表情でこう言った。

「お星様がいっぱい、流れるみたいなんです。」







下の部屋の方が暖まっているから……という理由で彼を布団から連れ出した少女は、階段を降りると当然の様に台所に立った。手慣れた様子で鍋を火に掛け、パンを切る。──彼の朝食を作る為だ。

一方まだ完全には醒めきっていない彼は、朝食を待つあいだ何気なく食卓の上の新聞に目線を向けた。暖炉の薪が爆(は)ぜる音を聞きながら、畳み直した跡も新しいそれの、表紙でもないのに一番上になっていた面に目を走らせる。

“今晩 ガイア全域で流星群”

最初に目に付いたその見出しを読めば、先程の少女の言葉の意味は明らかだった。とはいえ、良い歳して普通こんなことで興奮するか……という思いはあったが。

「……これか?」

やがて少女が運んで来た食事を自然と受け取りつつ彼が切り出す。薫り立つコーヒーのたっぷり入ったカップと、パンとサラダが乗った大きな平皿……少女は重かったはずのそれらを易々と運んでいく筋ばった手を無意識に目で追ったあと、彼の目線が示すものを見て嬉しそうに笑った。もう一度英字の列に目を通す。

「はい。…流星群……なんですよね?」

「多分な。」

「やっぱり…!」

印刷物であるが故に手書きのそれより大分読みやすいとはいえ、正確に文章を読めている自信がなかった彼女は得られた同意に顔を輝かせた。こちらも全部は読めないにせよ、ある程度の勘は働く彼が程好く焼けたパンに手を伸ばす。

「……で?」



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