「………死ねない?」
「…殺されたら、殺した者に移る力にその人の魂が耐えられず暴走し…全てを滅ぼす。自分を殺したら、枷を失った力が暴走して…全てを滅ぼす。…だから私は…何があっても死なない…死ねないんだって。そういう風に術がかかってるんだって。」
…かつて、生きているのかという問いに答えられなかった少女。
彼女は感情を思い出してから、とても人間らしく…生き生きとしていた。それまでずっと纏っていた、止まったまま悠久を見届ける人形のような虚無感を忘れさせるほどに。
しかし、今の彼女は──以前のそれとは少し違うが、ひどく空虚だった。
「剣で心臓を貫いたわ。痛みに気が遠くなった。だけど…目が覚めたら、傷は塞がっていて…剣は消えていた。おかしな話でしょ?あんなに痛かったのに…服は血だらけなのに。…おかしな話でしょ?私は…人間なのに。」
ふぅ…っと静かに息を吐く音が聞こえる。
「…でも、今は…死ななくて良かったと思ってる。だって今は幸せだもの。」
幸せ、と言いながらやっとミノンが振り向く。
……幸せ、と言ったくせに…その顔は暗く、影を帯びていた。
「たとえ、望まずに殺した人達の笑顔を何度も夢に見ようと…幸せよ。」
闇に攫われるようにして消える白い少女。同時に世界が暗転し…目が覚めた。
(…何だったんだ今のは…。)
とてもじゃないがすぐに眠る事は出来ない。少し風に当たろうとデッキへ向かう。
(………!)
夢と同じ位置、同じ角度でミノンが立っていた。
「あれ?サラマンダー様。」
だが夢とは全く違い、すぐに振り向き駆けて来る。今ではよく見る様になった微笑みを浮かべて。
「眠れないんですか?」
「…いや、目が覚めた。……おまえは?」
少し迷ったが聞いてみる。
「……もう必要な分は眠ったから、起きてたんです。…あんまり…良い夢は、見ないから…。」
──望まずに…。
そんな夢を見ているのか?
「あ、でも最近、宿とかで大勢で眠ると嫌な夢は見ないんです。だから最近は寝過ぎちゃって。」
くすくすと笑うミノン。同じ様なことを話しているはずなのに、纏う雰囲気は正反対だ。
「……眠れるなら寝た方が…良いだろう。」
「…その言葉そっくり返しますよ。サラマンダー様、眠らなくちゃ駄目です!おやすみなさい。ね?」
「……ああ。」
強制的に自室に戻される。
──幸せよ。
不意に脳裏を過る、あの暗い表情。
…叶うなら、あいつの前で死んだ方がマシと言った自分を、消したかった。
fin.
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