ごく自然に差し出されたのはよくある携帯用の糧食だった。──だが、受け取れなかった。

「…そんな顔すんなよ〜……あ、好き嫌いあんのか?」

馬鹿にする様な物言いに苛立ちが募る。意図せず眉間に皺が寄るのを感じながら、突き返そうとした時──視界の端を白いモノが横切った。

「ん?…ああ、ミノン。」

俺の視線を追ったのか振り返り、後ろに立った少女の存在に気付くジタン。少女は水入れの様なものを抱えていた。

「行ってくれんのか?ありがとな、気を付けて行って来いよ。あんま遠く行くなよ?」

何の言葉もなしに、ジタンは彼女の言わんとする所を全て読み取ったらしい。少女はぽんぽんと頭を撫でられながらこくりと頷くと、一人でどこかへ歩いて行った。…ジタンが一人歩きをさせるとは意外だ。

「…重いから水ってあんま沢山は携帯できねえだろ?川とか泉とか見つけんの得意なんだよ、ミノン。だから汲んで来てくれるんだ。」

こちらに向き直ってそう言うと、ジタンは改めて差し出した。──どうしても、込み上げる嫌悪感が拭いきれない。

「………あるから、要らない。」

何とか断るべく言葉を探す。嘘ではなかった。手持ちだけでもあと3日は持つだろう。

「…………別に、普通のだって。………。──いま食べろとは言わない、気が向いたらで良い。受け取ってくれるか?」

こちらのやり取りに気付いたのか増えた視線を感じる。……ジタンは察した様だった。だが他のやつらがそうとは思えない。仕方なく、受けとる手を出すと……ジタンは眉尻を下げ情けない笑みを浮かべた。

「…ごめんな、巻き込んで。…おまえが……、……いや、何でもない。」

何かを言いかけてやめる。そうするくらいなら最初から口に出すなと言ってやりたかったが……それを声にする前にジタンは他のやつらの元へ駆けて行った。手の中に粗末なパンだけが残る。

どうしたものかと思いあぐねているうち、少女が危なかっしい足取りで戻って来た。何度か樹の表面の凹凸に足をとられかける。いつ溢すかと目線だけで追っていけば、立ち上がり駆け寄ったジタンに水入れを受け取られる姿が視野に入った。

ジタンの「食べるか?」という問い掛けに、首を振って否定を示す少女。少し歩いて俺のいるそれと同じ樹の、少し離れた場所に座り込む。──食べないのか?

誰も怪訝な顔はしなかったし、誰も…あの小娘でさえも何も言わないことからして、よくあることなのかもしれない。……絶食がよくあることだと?



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