例の廃村を発ち、目的地へ向かう途中のことだった。

最後尾を歩きつつ、遅すぎる進みに苛ついていた頃だ。前触れなしにあいつが近付いて来て、何のつもりだか俺の横を歩き始めた。

「さて、まずはみんなの名前覚えなきゃな。自己紹介だ。オレはジタン。で、あっちは…。」

気付いているのかいないのか俺が反射的に距離をとったことを全く気にする様子もなく、頼んだ覚えもない「自己紹介」とやらが始まる。最初はいち早く聞き付けたのか最年少と思しき娘が振り返り、甲高い声を発した。

「あたしはエーコ。エーコ=キャルオル!」

記憶にあるものより幾分か小さい黒魔道士兵の手をとり駆け寄って来た小娘は、続けて自分はあの召喚士の村の生き残りなのだと言った。生まれながらに召喚の術を知る、召喚士……その存在は夢物語ではなかったらしい。

「えっ…と…ビビ、だよ。」

小娘に促され、予想に反して黒魔道士兵が喋る。──これが例の「不良品」か。

「…ダガー、って呼んでね。」

やり取りに気づいて振り返った王女は、わざわざ立ち止まってから偽名らしき名を名乗った。隣を歩いていた少女も遅れてこちらを向く。──不気味なまでに表情の無い人間というものを見たのは初めてだった。

「…………。」

「…ミノンよ。」

口が利けないのか、黙したままの少女に代わって王女が口を開く。すると少女は小さく会釈だけをして前に向き直った。やがて王女に手を引かれて歩き出す。…ジタンが抜けたため最前を歩かされているというのに、二人には臆する様子がなかった。ある意味大した根性だ。

「…ちょっとな、人見知りなんだ。」

肩の辺りから、普段より幾らか落ち着いて聞こえる声が響く。…脈絡のなく思えるその言葉が何を指すのか最初はわからなかった。暫しの後その主語を付け足され、意味を解す。

「……ミノン。…きっとそのうち話してくれる様になるぜ。」

「そーよ!さっきエーコに話し掛けてくれたもん!ね、ビビ!」

「え?う…うん。」

そんな事には更々興味がなかったが、どーだこーだと小娘は話し続けた。喧しい声を下の方に聞きながら、心中だけで溜め息を吐く。──何故このパーティーはこうも女子供だらけなんだ?

ジタンに実力があるのは確かだ。あの少年も非力そうに見えはするが、優秀なる兵器と名高い黒魔道士兵である以上、高い戦闘力を有していてもおかしくない。小娘は召喚術を使えるというし、少女は長短1対を帯剣していた。……ジタン以外の能力は今の段階では不明だ。白魔法使いの王女を除き攻撃手段は確立している様だから高いとすれば見た目には測れない程だろうし、低いとすれば見た目通り……足手纏い以外の何者でもないだろう。

思考がそこまで至った辺りで、殺気を感じ取る。足を止めれば、ジタンが馬鹿みたいに暢気な声で理由を尋ねた。

「どーした?」

気付いていないのか。…人より勘が鋭いという自覚はあるが、ガキ共はともかくジタンまで気付かないのは心外だった。よくこれで今まで切り抜けられたな。

「……魔物が来る。…後ろに二体、それと右後ろに一体だ。」

黙っていても何の利もない──そう判断し、口に出す。するとジタンは大袈裟なほど驚いて辺りを見回した。

「げげ!やっべ、ホントだ、おい!ミノン、ダガー!」

慌てて注意を促され、二人が振り返る。──意外なことに、少女の方は既に柄に手をかけていた。少女の警戒に敵襲を疑ってか半端にラケットを構えていた王女も、ジタンの声で確信ししっかりと握り直す。

「ビビ、エーコ、ダガー達のとこまで下がれ。よっし行くぞサラマンダー!」

ガキ二人を後衛に下がらせると、ジタンは真っ先に斬り込んで行った。敵はそう強くもない雑魚だが…些か考えの足りない印象は否めない。刃を交える中で少し短絡的な所があると判ってはいたが。

「………。」

当然の様に戦力として数えられている事にどこか違和感を覚えつつも、さっさと片付けるべく得物を振るう。やがて炸裂する黒魔法を避けた時、新たな気配を感じた。──またか。



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