それは彼が、本格的にパーティーに加わってから間もない頃の出来事だった。



*sA「レベルアップ」*



これまで独りで過ごして来た彼──焔色の髪を持つ賞金首は、致し方ない事だが他人まで考えが及ばないことがあった。目に見えるものならともかく一般人でも気付かないことがあり得る程度に些末な事柄への気遣いは、──本人の意思とは別に、不足していたこともあったのだ。

しかし幸いにして彼は周りから「仕方ないことだ」という一種の憐れみにも似た理解を得ていたので、それが大きな問題となることはなかった。パーティーのリーダー格である少年があれやこれやと先手を打ったことも大きいのだろう。

そうして彼も、「縛られる」感覚を理解し始めた頃のことだ。

ブルーナルシス内──食卓の間。少年と大公の発議によって昼食の予定時間より早めに集められた皆は、これからの方針について話し合っていた。武器や食糧や薬品の調達、船上という限られた環境から来る不便さの解消、クジャに関しての情報……多岐に渡る議題が活発に論じられて行く。

とは言うもののメンバーも全員ではない。椅子には二つの空きがあった。一人は隣接する厨房で調理中だ。「ムズカシイ話はゴメンアルよ〜」と言っていた辺り、端から参加する気がないのだろう。もう一人──赤い髪の少年は現在この船を操縦中である。

付け加えるなら声を失った黒髪の少女や、元より自発的に話すことを滅多にしない同じく黒髪の少女、そして年端も行かない子供達は求められない限り意見することがない。幼い二人は懸命について行こうとしている様が明らかだが、黒髪の少女らは──ただ聞いている、という風だ。

更に言えば彼……焔の名を冠した男もろくに話しはしない為、議論しているのは実質4人だった。──そうなるとわかっていても可能な限り皆を集めたのは金髪の少年だ。きっとこの場にいてくれていることに意味がある──彼はそう考えていた。

纏まった結論がない事項もあるが、一先ず今は終わりにしよう……そう決議され、お開きとなる。すぐに昼食が出来るだろうことはわかっていたので皆その場から動かず、少年は解説をせがむ幼女に話をしてやっていた──その時だ。

「これ、サラマンダー!煙草は外で吸わぬか。」

低めの女声が彼を咎める。怒気はない。例えるならば、親が子に注意する様な雰囲気だ。

「…あ?」

金の瞳が鋭く女を見据える。──彼も怒り……というよりは不満もしくは不快、あるいは不審といった感情を示していた。とはいえ、その眼光は並みの者を怯ませるに十分な迫力を持っていたが。

「この部屋で吸ったらいかんと言っておるのじゃ。煙が出るじゃろう?それは体に良くない。」

女はそれに全く動じず、彼が<理由>を分かっていないと察したのか平易な言葉で説明する。話を聞いていた少年は笑ってこう言った。

「特に発達…身体の成長に悪いんだよ。オレの身長がこれ以上伸びなくなっちまったらどーしてくれやがる!……ま、つまりビビとエーコの前では吸わないでくれ、な?」

「………。」

不服そうながらも席を立つ彼。──ここで反論しないのが彼らしいと言っても過言ではないだろう。「他人と一緒にいること」を知らない彼は誰にも心の内を吐露しない。大いに感じているであろう「集団行動の制約」から来るストレスも不満も、彼は一言たりとも口にしたことがなかった。

「ブリッジなら全然構わね〜からな〜!」

少年が後ろ姿に向かって声を飛ばす。広い背中は返事なくドアの向こうに消えた。

「……素直なものじゃ。」

感賞する様に言う女。第一印象から彼をやや誤解していた節のあった彼女は、彼の見た目にそぐわぬ──潔癖さの様なものに素直に感心していた。他人を「思いやれない」のでなく「思いやらない」……彼女は裏に生きる者達に対してそんな色眼鏡をかけていたのだ。己なりの道理に適えば素直に認めるという彼の行き様は、彼女の目には少し特異なものと映っていた。

「ああ。……正直助かったよ。」

少年が情けなく眉尻を下げて苦笑する。彼を独断でパーティーへ招き入れた以上、他のメンバーと出来る限りトラブルがない様にするのは己の義務だと少年は考えていた。協調性に乏しげな男を、人種も年齢も出自もまちまちな集団に入れる──少ないながらも特徴的な彼の言動から彼の人柄を一応は把握し「大丈夫だ」と判断したからだとはいえ、内心ヒヤヒヤしていなかったと言えば嘘になるだろう。

「ああ。乱暴なことはせぬし、ヤツなりにじゃが優しいところもある。人というのは見た目で判断してはならんのじゃのう。」

「ホントだな。ま、欲を言うならもうちょいあの目付きが何とかなりゃ良いんだけどな〜……それはおっさんも一緒か。」

「なっ…何だと貴様!」

けらけらと笑う少年を鎧の男が睨み付ける。男の場合、決してガラは悪くないのだが…三白眼の大男ということで怖い印象がないわけではなかった。体格と目は本人の努力でどうなるものでないとはいえ、もう少し柔和な表情をしていればまだ良いのにと少年は思っているのだ。──だったら怒らせるなとはツッコまないでやって欲しい。

「ほらぁ可愛く笑ってみ?女の子受け良くなるぜ〜?」

「馬鹿にするでない!」

にっかりと笑ってわざと挑発する様な言葉をかける少年。真面目な会議ムードから一転賑やかになった食卓に、美味しい匂いが運ばれて来る。

「出来たアルよ〜!」



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