「っ!」

意表を突かれ、手を止めてしまう。

「………?」

少女はゆっくり身体を起こすと、ぼんやりとした瞳で辺りを見回した。しばらくそうしたあと…此方に視点を定める。まだ陽が殆ど顔を出していないため部屋の中は濃い闇に包まれているが、俺の存在が見えているのだろうか。

「……お目覚めは如何ですか?お嬢さん。」

「………。」

「……おい?」

「………。」

常人より遥かに夜目が利く為、俺には少女の仕草から表情まで全てが見えている…見えているはずなのだが、今見ているものが正しいとすれば──少女はまるで人形のように止まったまま、一言も発そうとはしていない。起き上がった瞬間を見ていなければ、精巧な人形と勘違いしそうだ。

「…聞こえないのか?」

「………。」

変わらず何も言わない少女。……自分で言うのも何だが、育ちの良い娘がこんな人間を見たら悲鳴くらい上げそうなものじゃないか?

「………。」

何となく調子が狂ったが、当初の目的を遂行することに決める。もしかしたら耳が聞こえないか口が利けないのもしれない…しかし殺す相手のそれをわざわざ確かめる必要もないだろう。

「……ここを知られた以上おまえを生かしとくわけにはいかねえんだ。悪いが、死ね。」

返事がないことは予想の範疇だったが…凶器の存在を顕にしても、少女は僅かに視線を動かしただけだった。…一体何なんだこの娘は…流石にこんな相手は初めてで少し戸惑う。

「………殺す…の、ですか…。」

「!」

いざ構えた瞬間、唐突に口を開く少女。一瞬命乞いかとも思ったが、その小さな声や訥々とした口調には事実を確認するような色しかない。

「……ああ。…ここに入っちまった自分の運を恨め。残念だったな。」

「………。……そうですか……。」

たっぷり間をおいてからそうとだけ答えると、少女はまた口を閉ざした。…おいおいおい良いのかよ殺されて?

「…何か言うことは?」

「………。………これを…。」



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