それから4日、ビビと一緒に小さな宿で過ごした。エーコとジタンは毎日どこかに出かけていって……あんまり帰って来なかったから、ほとんど二人きりでいろんなことを話した。これまでの旅のこと、これまでの私のこと。自分とは思えないほどおしとやかで、とっても控え目な子だったみたいだ。



W-A対面



「そう、それとね……その剣の使い方、わかる?」

「これ? 今はわからないけど……振ってみたらわかるかな?」

腰にこんなもの差しているなんて……きっと剣士だったんだろうな。自分が剣士なんて、何だか似合わない気がした。想像がつかない。厚着だけど軽装備だし。とりあえず試しに鞘から抜いてみて手に握る。そうしたら、あんなにおかしいと思っていたのに……何となくしっくりくる感じがした。不思議と重くない。ビビから距離をとって振ってみる。最初はゆっくり、恐る恐る――だんだん早く。自然と全身まで動いてくる。

「うん! そうそう、そんな感じ……!」

「……何となくだけど、剣の振り方は思い出したみたい。他のことも思い出せないかな……。」



5日目、この国のお姫様に会いに行くことになった。理由を聞いたらあの母親が亡くなったっていう仲間だって言われて、すごく驚く。だって、みんなそんなに身分が高い人には見えない。どうやって知り合ったのかな?

何故かジタンは躊躇っていたけど、何でだろう。……それに、やっぱり私もそのお姫様に会ったことあるのかな。忘れたことで傷付けたら、どうしよう……。



お城に入ろうとしたら、舟の渡し場らしき所でサラマンダーと赤い服の女の人が争っていた。ただならぬ雰囲気だ。

「フライヤもさぁ……いつまでも恐い顔してんなよ。」

ジタンが上手くその場を収める。ひとまず安心かと思ったら、フライヤと呼ばれた女の人は今度はジタンに対して怒り始めた。

ジタンの態度に、フライヤが呆れたと言わんばかりに首を振る。次の瞬間、ハッとした顔をして私の名前を呼んだ。

「ミノン!」

明らかに知った感じだ。どうしよう……また知っているはずの人みたいだ。

「久方ぶりじゃな……! あんな別れ方をしたから、本当に心配したのじゃぞ。脱したならば連絡くらい寄越せば良いものを……いや、本当に……無事で良かった……。」

心から嬉しそうにしてくれるフライヤを見て、胸が苦しくなる。名前を呼びたかった。きちんと、前に呼んでいたみたいに。それでも……何か思い出すことはできなかった。ほんの少しの欠片さえ。短く息を吸って、わからない……そう言おうとしたら、ジタンが私を留めた。

「フライヤ……落ち着いて、聞いてくれ。ミノンは…………記憶喪失、なんだ。オレ達のことだけじゃない……全てを、忘れている。」

真剣な顔。言い方もすごく丁寧だ。ジタンの言葉を聞いたフライヤは、大きく目を見開いて……ひどく悲しそうな顔をした。もしかして何か、記憶喪失に嫌な思い出があるのかな。どうして思い出せないんだろう。

「でも、ミノンはミノンだ。記憶がなくても、今まで一緒にいたミノンであることは間違いない。」

「…………そう、か……ミノン、以前も会ったことがあるのじゃが……フライヤじゃ。よろしくな……。」

「うん、よろしくね。」

せめて少しでも明るい気持ちになってもらいたくて、笑顔を浮かべる。するとフライヤはすごく驚いた顔をした。みんなみんな……いったい前の私は何だったっていうの?

「……おぬし……変わったな。」

「そうなの? 話し方が違うらしいんだけど……そのせい?」

「そうかもしれぬ……いや、それだけではないかもしれぬがな……。」

それきりフライヤは考え込む様に唇を閉ざしてしまった。それだけじゃないって……どういうことだろう。こんなに自分のことがわからないなんて、本当に不思議な感じだった。別の人のことを考えているみたいだ。<私>になってからの私のことははっきりわかるのに。

「……ねえ、ジタン……ダガーのおねえちゃんは、ジタンと会ったら、きっと喜ぶと思うな……。だから……、会いに行こうよ!」

「ああ……。でも、すぐに城を出るからな。」



お姫様は二人の護衛と一緒に出てきた。私とそう歳が変わらない様に見えるのに……雰囲気がすごく大人びている。

ジタンはお姫様と特に話さずに、何か悩んでるみたいだった。親しいってビビは言ってたのに、何で話さないんだろう。喧嘩でもしてるのかな。

みんなとお姫様がいくつか言葉を交わした後、エーコが階段を上がる。何を話しているのかは聞こえない。少しすると、お姫様から何かを手渡された。これはただの勘……直感だけど、とても大事なものだと私は思う。

その後、偉そうな学者さんにお城を見学して良いと言われたのでエーコと探検した。さっき衛兵さんに捕まってたエーコはやっぱり何度か来たことがあるみたいで、私は探検というより案内してもらう感じだ。たくさんの綺麗な装飾から、このお城の持ち主の財力の大きさがわかる。


そういえば、渡し舟の所で休憩してたら恋が実る瞬間を見てしまった。何か勘違いもあった気がするけど……気のせいかな?

とりあえずおめでとう!




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