悲しい記憶ってどんなものだろう。優しい記憶ってどんなものだろう。懐かしい記憶ってどんなものだろう。

記憶がないと、知らないことだらけだ。



W-B眠らない街



さっきお城の探検を許してくれた……トットという学者さんが、今度は楽しい所に連れて行ってくれるというので、エーコと一緒に行くことにした。不思議な乗り物に乗ってトット先生のお家に着いたあと、各自自由行動になる。みんな目的があるみたいだけど、私はここに何があるのかすらわからない……どうしようかな。

あちこちへ行ってしまうみんなに声をかけられないでいると、フライヤが歩いてきてくれた。

「ミノン、どうじゃ。一緒に行かんかの。」

「良いの?」

「ああ。ここは見るものは沢山あるが、少し治安が悪くてな……おぬしを一人にはできぬ。それに、たとえ記憶を失おうとも……おぬしはミノンじゃ。私は、以前からミノンの笑顔を見たいと思っていた。」

優しく手を引いてくれるフライヤに合わせて、私も歩き出す。

「え、じゃあ私、前は笑わなかったの?」

「……そうじゃな……私の前では、一度たりとも笑ってくれなかった。今のおぬしとは似ても似つかぬが……それもまたおぬしの一面なのじゃろう。」

「そうかなぁ……私には笑わないなんて、無理! 絶対に無理! だって……笑わないと、全部に色がない気がするもの。そんな世界はつまらないよ!」

別に笑い上戸ってほどでもないとは思うけど、笑うのは好き。どんなに不安な時でも、世界に色が付く……花が咲く様な気がする。とりあえず笑ったら、気分も明るくなるというか。――いったい前の私は、どんな世界にいたんだろう。

「ほっほっほ……そうじゃなぁ……色がない、か。」

「どんなに辛くても、笑うの! 絶対に、笑ってた方が楽しいから! ……って、誰かも言ってた気がする!」

「おぉ、当然じゃ。」

誰か……なんか、こう……すっごく、大事な人が。あとちょっとで思い出せそうな……ダメそうな……。

♪〜〜♪

一生懸命わずかな手がかりを追っていた時、少し遠くの人垣から歌が聞こえていることに気づいた。すごく繊細な感じだ。

「歌が聞こえるな。」

「綺麗な歌声だね。」

フライヤと一緒に近づいてみる。中心では、小さな女の子が一人で歌っていた。フードで顔は見えないけど、裾から薄い金色の髪が覗いている。すごく長いみたいだ。

♪……桜……桜……弥生の空は……♪

女の子が静かに歌い出す。初めて聞くはずなのに……何だか、すごく懐かしい感じの曲だった。自然と口から出てきそうだ。

♪……見渡す限り……霞か雲か……匂いぞ出ずる……♪

ふと一瞬、その女の子がこちらを見た……気がした。気の強そうな――黄金の瞳。

(あれ……どこかで……。)

女の子自体にも既視感がしてくる。もしかして、会ったことが……すごく、身近な……?

思い出せないうちに、歌が終わった。観衆みんなが拍手する。私も頑張って拍手した。

「おいおまえ、フライヤじゃねえか?」

ふいに後ろの方から声がする。

「……ダン!?」

振り返って目を見開くと、フライヤは勢いよく走り寄った。どうやら知り合いみたいだ。

「久しぶりだな!」

「おぬし、無事じゃったのか……! 何故、この様なところに?」

無事を喜ぶってことは、はぐれでもしたのかな。とにかく久しぶりの再会という感じだ。

「今、ブルメシアやクレイラから逃げて来たヤツらで集まってんだ。我らが祖国の再建、ってな! みんな、おまえや……アイツがいてくれたらって、口々に言ってんだぜ。……一部だけど、このトレノにも来てんだ。なあフライヤ、一度ヤツらに会ってはくんねえか? 顔見るだけで喜ぶと思うぜ。」

「そうか……じゃが……。」

フライヤが私の方を見る。せっかくお友達と会えたのに、私のことなんか気にするなんて!

「私なら気にしないで行っておいでよ、フライヤ。どこかで誰か見つけて一緒にいるから、ね?」

「……ミノン……ありがとう。では、お言葉に甘えて行って来るとしようかの。くれぐれも危ない目に遭わぬ様……気を付けるのじゃぞ。知らない者にはついて行かぬ様に、それから危ない時には叫んで助けを求めなさい。」

「うん、行ってらっしゃい!」

心配そうな様子にも増して嬉しそうに歩いていくフライヤを見送る。

さて、と。

誰か見つけるって言ったって、どこに行けばいいの?



「ねぇお嬢ちゃん、オレ達と遊ばない?」

みんなを探しながら思い出せそうなことを考えて歩いてたら、明らかに怪しい男の人達に声をかけられた。

「悪いけど、急いでるんで……さよなら。」

フライヤも言ってたし、こういうのには関わらないに越したことはない。内心少し怖かったけど、強いふりをしてやり過ごそうとする。道を塞がれていたので、仕方なく元来た方に身体を反転させた。きっと行き先を考えるのは逃げてからでも遅くない。

「そう言うなよ〜。ちょっと一緒に……!」

きっぱり断ったつもりだったのに、いきなり腕を掴まれてしまう。

「やめて!」

全力で反抗しても、所詮は女の子。掴まれた腕はまったく外れない。叫んだって誰も来なかった。何をするつもりだろう。どうしよう、怖い……!

(っ……! 嫌……っ!)

「うわっ!」

恐怖で思わず目を瞑った時、手を掴まれていた感覚が急になくなる。目を開けると、男の人が地面に尻餅を着いていた。まるで吹っ飛ばされたみたいだ。

「痛ってぇな! てめぇ……今何しやがった!」

よくわからなかったけど、必死で逃げ出す。男の人達は容赦なく追いかけてきた。逃げても逃げてもついて来る。


誰か、助けて……!




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