「さて……何から話そうか?」



V-A背徳の宮殿



通されたのは、大きな机が置いてある広々とした部屋だった。薄暗い照明が落ち着く。優雅な仕草で私に椅子を勧めると、<クジャ>は対面に座った。

「はっきり言うよ。僕は女王なんてどうでも良い。あんな象女にキミを味方させるなんて、あまりにも勿体ないだろう? ただあの話が本当なら、キミの力について知りたいと思ったんだ。それに……いや、何でもない。」

やはり面倒なことになりそうだ。……けれど、敵意は感じない。

「……知りたい、とは……何を?」

「僕には……とある計画がある。その計画にキミの力が役に立つのなら、是非とも協力してもらいたい。」

ほとんど予想通りの返答をされる。その「計画」が何かは大体聞かされていた。

<神様>から。

これから起きることの一部や<クジャ>のことは、私は<神様>と呼ぶ存在から聞いて知っている。<神様>が何なのかは、知らないけれど。――何という名を付けようと、存在自体は変わらない。元から人格も名前もない……意思だけの曖昧な存在を私が認識するには、仮の名称が必要だったというだけだ。故に私はそれを<神様>と呼ぶことにしていた。

「……私が、お役に立てるとは……思えませんが。」

「…………何故だい?」

<クジャ>の声が苛立ちを含む。しかしあくまで害意を持ってはいない様だった。椅子の背凭れに寄りかかって続きを促してくる。

「……強い力は再生にも破壊にも使える……ということは知ってらっしゃいますか?」

「ああ。白魔法や黒魔法なんてのは、力の強い人には関係ないんだろう? あとはまあ、素質のある人にも。僕にも大して関係ない。」

「ええ……私にも関係ありません。」

現に私は人の身体を癒すことも出来るが――傷つけることも出来る。表裏一体なのだ。例えば火の攻撃術ならば炎を[生み出し]て、何かを[消し去る]のだから。

「……それは、協力できないことと関係があるのかい?」

「はい。……召喚獣を凌ぐ力……と聞いて、どう思いましたか?」

「是非この手にと思ったけどね。でも、キミとは……まず話してみたかった。」

何故その様に言うのだろうか。どうやらただ利用しようとしているわけではないようだ。しかしそれ以外の意図が掴めない。

「……世界は、陰と陽の両方から成っています。均衡を崩せば、歪みができる。力が大きく偏れば、世界は歪む……それは陰に偏った時も、陽に偏った時も同じ。結果として、強い力を持つ者が……私が、意のままに力を使うことは、できません。」

嘘は吐いていない。どころか、これは常に私につきまとう最大の障害だ。私はこの力を、未だ意のままにしたことがない。

「……だから、協力はできないと?」

「いいえ……役に立てないんです。あなたの期待する様な働きはできない。」

「……でもキミは、リンドブルムで力を使って犠牲を減らした。強い力を使ってはならないなら……そんなことをして良かったのかい?」

「…………。……今でも、わかりません。制御はしたから……恐らく歪みは生まれませんでした、けれど……。」

本当に必要とされていたのか。──まだ、その答えは見つからない。

「…………わかった。……少し、疲れただろう。好きな部屋で休んで良いよ。僕も休ませてもらう。」


適当な一室に入って寝台に横たわる。

これから、何をするべきなのだろうか。




[[前へ]] [[次へ]]


2/12



[戻る]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -