“クジャ様へ。昨日はお世話になりました。勝手ですが、失礼いたします。いずれまた会うことでしょう──美音より。”

「……ミノン……キミは、やっぱり! ……急に行ってしまうなんて、ひどいよ……。」



V-Bコンデヤ・パタ



結局、私は朝日が昇るより前にひっそりと城を出た。ジタン様達の気配が近くに感じられたからだ。部屋には置き手紙の代わりに、思念を込めた石を置いて来た。文字を書くことができないからだ。気づきはするだろうが、聞いてくれただろうか。

宙に浮かび、ただ気配を辿りながら進む。<クジャ>に連れて来られてから、遠くなっていた気配がぐんと近くなった気がする。近くにいるはずだ。

行き着いたのは、谷にかけられた大きな橋の上の集落だった。絵本に出てくるドワーフにも似た人達が住んでいる様だ。浮遊の術を解く。

「ラリホッ!」

「……!?」

「ラリホを言えぬ者はここを通せないド。入るならラリホッだド。」

「……ら……らりほ……。」

合格だったのか、入れとばかりに道を空けられた。入ってすぐ、少し遠くによく見慣れた後ろ姿を見つける。駆けて行けば、懐かしい顔に会うことができた。

「ジタン様。」

「え……ミノン!?」

「ミノンおねえちゃん!」

ジタン様の声に続き、ビビ様が勢い良く飛び付いて来る。

「ミノン……! どうしてここに……ううん、無事で良かった……っ!」

「お久しぶりです……ダガー様。」

あの日に比べれば、ダガー様は遥かに元気そうだった。オーディンの石は渡されただろうか。アトモスの石も、渡せる様ならば渡さなくては。

「少し、紆余曲折を経まして……皆様お元気そうで、何よりです。」

「ねえ、フライヤおねえちゃん達は? 一緒じゃないの?」

「はい……でもお三方とも、今は安全な所にいらっしゃいます。」

「そう、良かった……。」

ブルメシアとクレイラで一緒にいた、大きな調理師の様な人に目が行く。道化にも思える見た目が特徴的だ。

「あ、コイツか? そういえば会ったことなかったな。クイナって言って、今は世界の食を知りたいとかなんとかで……一緒に旅をしてるんだ。クイナ、ミノンって言って、少し前に一緒に旅をしてたんだ。」

「よろしくアルね。」

「……こちらこそ。」

「クイナ、ミノンの口数が少ないのは気にすんな。そういうもんだから。」

「わかったアルね〜。」

何を求めているのか、クイナ様は走ってどこかへ行ってしまった。私のことをあまり気にする様子がなくて安堵する。

「……皆様は、何故ここに?」

「この大陸にクジャの根城があるって聞いてさ。」

(……!)

うまく誤魔化せただろうか。一瞬身体を強張らせてしまう。

「お母様がおかしくなったのは、クジャが来てからだと思うの。」

「この一連の戦争にクジャが絡んでるんじゃねえかってことで、探してみようってな。」

「……そうですか。」

クジャ様とジタン様達が会うのは必要だろうから……止めることはない。黙っているかは少し迷ったが、話すこともないと判断した。

「じゃあみんな、情報が集まるまで自由行動な? しばらくしたら集まろうぜ。」

「……はい。」


根城の場所は既に知っているけれど……とりあえず歩いてみることにする。




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