お嬢様なんて柄じゃない | ナノ さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。

夏合宿の締めくくりは花火! 私の側で新たな恋が生まれた瞬間を目撃した。




 合宿3日目。
 少し早めに早朝錬を抜け出した私は、朝食を作っているであろう炊事場に顔を出した。そこでは野中さんが1人でバタバタ調理していた。
 やっぱり! と思って慌てて手伝ったのでどうにか朝食の時間には間に合った。…その後朝食の時間になっても富田さんは現れず、それは昼食の時間も同様であった。
 男子の使用済ユニフォームやタオルの洗濯物が山積みになって悪臭を放っている。男子部長に自分たちでやるようにと女子部長が念押ししていた。洗濯機回して干すだけなら誰でも出来るもんね。仕上がりさえ気にしなければ。

 一応、顧問が富田さんの部屋に声かけに行ったけど…反応がなかったそうな。昨晩のあれが効いたのかな? と一瞬思ったけど…あの人そんなに気は小さくないと思うんだ。

 何も飲食しないのは体に悪いので、富田さんのいる部屋の外にラップを掛けたおにぎりとペットボトルのお茶を置いておいたら無くなっていたらしい。食べる元気はあるみたいだ。
 …ここで心を入れ替えて仕事したら名誉回復したかもしれないのに。

 私が昼食の準備も手伝い、なんとか乗り切ったけど……男子に準備を手伝えって言ったのになんか言い訳して逃げられた。
 夜はバーベキューをするので皆で手分けをして準備することに。その時力仕事を遠慮なく男子に押し付けた。キリキリ働くがよい。


 日が暮れ始めると乾杯の音頭と共にバーベキューが始まった。みんな楽しそうに具材を焼きながらおしゃべりを楽しんでいた。
 高校の合宿なのに顧問が泡の乗った黄金色の液体を飲み干しているのが気になるが、あれはきっと振って泡立てたリアルゴー○ドなんだな…きっと…

 私はこんがり焼けたイワシを貪りながら顧問を冷たい目で観察していた。女子バレー部のコーチが顧問にリア○ゴールドを勧められて困っている。あれはアルハラになるのだろうか…コーチはまだ20代だからか、50代おっさんの顧問に逆らえずに盃を受けていた。
 
 私がコーチを哀れんでいると、横から「エリカちゃん」と声を掛けられた。顔を上げてみればそこには紙皿山盛りに肉を盛った二宮さんの姿があった。

「エリカちゃん肉食べたー? こんなところでも魚とか勿体無いよー」
「イワシ美味しいですよ」
「身長伸ばすには肉でしょ〜」
「あ、ちょっと」

 二宮さんが私の紙皿に肉ばかり載せてくる。肉は筋肉つくけど身長は伸びないんじゃないの。載せられたから食べるけどさ。
 貰った肉をもりもり食べていると二宮さんは私が椅子代わりにしているクーラーボックスを見て笑い出した。

「エリカちゃん…結局さぁ牛乳全部飲みきったわけ?」
「明日の朝と昼の分は残してます。この中には今夜の分が…あ、一杯どうですか?」
「ちょ…俺、女の子に牛乳一杯いかが?って薦められたこと無いんだけど…!」

 大笑いされた。
 この牛乳はな、二階堂家御用達のセレブ牛乳なんだぞ。百貨店にも売ってるけど普通の牛乳よりも5倍くらい高いんだぞ。

「この牛乳美味しいんですよ! 二宮さんこれを逃したら一生飲めなくなりますよ!? いいんですね?」
「そんな、牛乳なんて大差ないでしょ…」
「馬鹿にしましたね? 二階堂家御用達の牛乳を…」

 私はクーラーボックスから立ち上がると中から未開封の牛乳を取り出し、開け口を開ける。未使用の紙コップに注ぎ、二宮さんに差し出す。
 彼はヒーヒー笑いながら牛乳を飲んだが、その瞬間電気が走ったかのように目を見開いた。

「なんだこれうめぇ!」
「でしょー!?」
「うわぁやっぱりエリカちゃんセレブなんだー。俺が普段飲んでるのって水で薄められてんのかな…」
「餌と生育関係の問題じゃないですかね。この牛乳なら身長伸びそうでしょ」

 こんな時にセレブの力を利用しないでいつ利用するの。
 ふふん。と私はドヤ顔を披露してやったのだが、二宮さんは私のことを生暖かく見つめた。

「……うん、伸びる……プフフッ」
「…ちょっと、今完全に私のこと馬鹿にしましたよね?」
「ごめんごめん」

 平謝りしてくる二宮さんを軽く睨んでおく。こっちは切実に身長がほしいと言うのに何故笑うんだ。全くもって遺憾である。
 私は夜の分の牛乳にプロテインを入れると、怒りに任せて飲み干した。二宮さんは更にプロテインにもツッコミを入れてきたが、スポーツするには筋肉大事だろう。ただでさえエリカちゃんは華奢なのだ。ここ最近筋肉がついてきたとはいえ、まだまだである。

「最近制服が小さくなってきたんで、プロテインの効果を実感してます」

 そう言ったらやっぱり大笑いされた。
 私は本気なのに。




 シュワァァァ…

「ちょっとこっちに花火向けないでよー!」
「火くれ火」

 バーベキューでお腹を満たした部員たちは手持ち花火で盛り上がった。
 ねずみ花火が好きなんだけど無いかな。
 花火の山からねずみ花火を捜索していた私だったが、ふと刺すような視線を感じてそちらに目を向けた。
 それは宿舎。宿舎の窓のカーテンの隙間から黒髪の女がこちらを睨みつけていた。

 文字だけだと怖いが、ただの富田さんが羨ましそうにこっちを睨んでいるだけである。
 ……意地張ってないで反省して態度を改めたら良いのに。

「エリカ、花火あった?」

 私は此方をガン見してくる彼女に呆れた目を向けていたのだが、ぴかりんに声を掛けられてそっちに意識が向いた。
 そういえばぴかりん、合宿中に男バレの男子部員と妙に親しくなってるな。女子マネと男子部員の恋愛は禁止だけど部員同士は特に禁止されていない不思議。

「山本、火ちょうだい」
「あっはい…」
「……」

 そばにいるだけで甘酸っぱいんですけど。
 火を分け合う…二人の初めての共同作業ですね。わかります。

 私はゲットしたねずみ花火を片手にスススと後ずさりをして拓けた場所でねずみ花火へ着火して楽しんだ。
 弾けろ弾けてしまえ。

 フィーバーしたねずみ花火は最後にパーン! といい音を鳴らしてくれた。

 花火の締めは線香花火なのがセオリーだけど…私はエリカちゃんの体に憑依して以降、線香花火が苦手になってしまった。
 なんだか命が尽きる瞬間を見るみたいで今の私にはきつい。想像力豊かすぎるかもしれないけどね。前は好きだったけれど。

 皆が線香花火にはしゃぐ中、私はバーベキューの片付けをして気を紛らわしていた。


■□■


 その後は危惧していたことは何もなく。3泊4日の夏合宿は終わりを迎えた。

 ただ合宿から帰った後、野中さん伝手に富田さんがマネージャーを辞めたと言う話を耳にした。
 8月に大会あるのにやばくない? と私も少々責任を感じていたのだが、なんとそのタイミングで時期外れのマネージャーが入ってきた。
 実はこの人、二宮さんと同じクラスの2年生で1年の時に男バレマネージャーとして入部した人。しかし富田さんに手柄横取りされ、陰でイビられ…耐えきれずに辞めてしまったんだって。

 なので二宮さんがこの機会にと声を掛けたら色良い返事をいただけたそうだ。
 はじめにその人を見た時は富田さんみたいに男子にチヤホヤされたい人なのかな? と思ったけども彼女は男性に尽くして感謝されたいってタイプなんだと思う。下心があるにしても、仕事はちゃんとしてるから好感は持てた。
 野中さんとも上手くやってるみたいだし、結果的に彼女が入部して良かったのかな?


 …たまに富田さんが体育館覗きに来るんだけどあれなんなのかな? ギリィッ…って唇噛み締めてて怖いんだけど。
 やっぱり私のこと睨んでくるけど、それは仕方ないかなと無視してる。

 ちなみに私を突き落とした村上には二階堂家から抗議をさせてもらいました。二階堂ママが激おこで、あっちの両親が青ざめて平謝りしてた。
 学校での居場所を奪うとか法外な慰謝料を請求するとかは望んじゃいないけど、やって良い事と悪い事の区別をちゃんと付けて、深く反省したまえ。



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mokuji
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