お嬢様なんて柄じゃない | ナノ さようなら、エリカちゃん。ごきげんよう、新しい人生。

カレーデートへ行って参ります。



【今週の日曜日に宜しければランチをご一緒しませんか?】

 先日お友達になった西園寺さんからメールでランチのお誘いを受けた。西園寺さんの連絡先は二階堂ママ経由で伝わってきたの。ママはお見合い断ったのに? と首を傾げていたけど、学校まで押しかけてきた云々を話すと、どこか嬉しそうな顔をしていた。友達だとちゃんと強調しておいたよ。
 彼は美味しいと評判のカレー屋さんをいくつかピックアップしてくれており、そのどれも魅力的すぎて選ぶのに時間がかかったが、私は本場っぽいカレー屋さんをチョイスした。
 最近カレー食べてないから楽しみ。早くカレー食べたい。私は美味しいカレーに心躍らせていた。

「カレー食べに行くの?」

 スマホでカレー屋さんのホームページを隅から隅まで眺めていると、ぴかりんに声を掛けられた。

「うん日曜日に。私カレー好きだから楽しみ」
「そう言えばあんたが去年の合宿で作ったカレー本格的だったもんね」

 カレーだけは得意なの。私の前世インド人だったのかもしれない。パキスタンかバングラデシュかもしれないけど。
 何カレーにしよう。シンプルなチキンもいいけどエビもいい。豆のカレーも悪くない。絶対にチーズナンは食べるでしょ…

「誰と行くの?」
「最近友達になった人。この学校の人じゃなくて他校の人なんだけど…」
「誠心の小平さん?」
「ううん、依里じゃなくて…」

 ぴかりんと話していた私は、背中に突き刺さるような鋭い視線を感じた。会話を止めて振り返った先にはまた、あの冷たーい目をした慎悟が私を睨みつけていたのだ。

「…なに? 私になにか言いたいことあるの?」
「…別に」

 慎悟が私をシカトしはじめて3日位過ぎたが、ここに来てやっと口を開いた。
 だけど相手は何が不満なのかを言うわけでもない。ただ何かが気に入らないから私を睨んでくるのだろうか。
 慎悟の態度が目に余る。ここはしっかり注意しないとな。反抗期でも来たのか? 反抗する相手を間違っていると思うんだけどな。ガタッと音を立てて席を立ち上がった私は、ズカズカと慎悟の席に近づくと仁王立ちして奴を見下ろした。

「言いたいことあれば言えば? この間からあんた態度悪すぎだよ!」
「…誰がイライラさせてると思ってるんだ」
「は? 私が何をしたっていうのさ。あんたが何に怒っているのかわからないんだけど?」

 慎悟のイライラが感化して私までイライラしてきたじゃないか! 
 慎悟はふん、と鼻を鳴らすとゆっくり席を立ち上がった。そして教室を出ようと歩き出したので、私は奴の腕を掴んで引き留めた。

「ちょっと! まだ話は終わってないんだけど!?」
「説教は結構」

 慎悟は腕を振り払って私との対話を拒否しやがった。
 もー! あったまきた! とっ捕まえてでも説教したる! 私は慎悟の事を追いかけたが、慎悟は早歩きで逃げ始めた。何だ競歩でもしてるのかあんたは!
 
「逃げるわけ? 逃げるってことはなにかやましいことでもあるんじゃないの?」
「あんたが追いかけてくるからだろ。追いかけてくるなよ」
 
 慎悟がどこまで向かうのかわからないけど、取り敢えず追い詰められるところまで追いかける。男子トイレに入られたらもうおしまいだけども。
 階段を降りて、クラスのある本校舎を出て、何故か体育館のある方へ向かう慎悟。私からとにかく逃げたいのだろうか。
 こういうの嫌だ! スッキリしないからすっごくもやもやして気持ち悪い!
 私は慎悟を捕獲しようと再び腕を掴んだが、また振り払われた。慎悟の頑なな態度に私のイライラは増加の一途をたどる。
 …本当はこの手は使いたくなかったが、致し方ない。

 ──ガバッ
 私は両手を広げると慎悟の背中にタックルをかました。大丈夫、捕獲のためだからそんなに力入れてないよ。

「なっ!? ちょ、あんた何してるんだよ!」

 それにはさすがの慎悟も足を止めた。やっと立ち止まったな! 拘束している腕を解こうとしているが、話をするまでは離さんぞ! セクハラと言われようと離してやらん!

「だって逃げるじゃん! 話を聞いてよ! 何で怒ってるの? 何で避けるの? 今になってエリカちゃんを乗っ取った私を憎み始めたっていうの?」
「違う! 憎むとか…あんたは何も悪くないだろ!」
「じゃあなんなの! 何で怒ってるのよ」
「…なんでって…」

 慎悟はいきなり意気消沈したように声の勢いが衰えた。私は背後から捕獲しているので慎悟の表情は窺えない。
 しかし拘束した腕は絶対に離さない。文句があるならスッキリきっぱり言いな!
 私が拘束を解かないと分かった慎悟は、苦々しい声でぼそりと呟いた。

「…あんたが、西園寺さんと一緒にいたから…」

 その言葉に私は一拍反応が遅れた。

「…? 向こうが突然訪問してきたんだよ。私約束してないもん…そもそも縁談は断ったし。西園寺さんの理想がエリカちゃんそのものだったらしいから、私は全然理想の相手じゃないって話したよ」

 そしたら元気な女性でも良いと返ってきたけどさ。面食いなのかな西園寺さんは。

「手を握らせてたじゃないか」
「向こうが握ってきたんだもん。振り払うのは失礼になるかと思って」
「…食事の約束まで」
「お友達になったからね。カレー食べに行くだけだよ」

 なんか重箱の隅を突くようにポツポツ文句行ってくるんですけど。手を握らせたって…慎悟は明治大正世代の貞操観念の持ち主なの? 私はそんな文句言われるようなみだらなことした覚えがないんだけど。
 …そんな不興買うことでもないと思うんだけど…。んー…これはもしかして…

「…もしかして、寂しかったの?」
「なっ…!」

 びく、と慎悟の背中が揺れた。動揺したな。なんだ、慎悟は寂しかったのか。イジケていたって訳か。意外と寂しがりなんだね。

「なーんだ、寂しかったんだね! わかった、西園寺さんと行く予定のお店が美味しかったら慎悟も今度連れて行ってあげるから!」
「……なんでそうなるんだよ…」

 がくりと慎悟が脱力するのが腕に伝わってきた。…もう逃げないかな?
 私は腕を解いて慎悟の前にぐるりと回った。
 顔を上げて見上げると慎悟の頬は赤く染まっていた。目を伏せて恥じらっている姿は流石美少年。…何でこんなに色気があるんだい?
 そうか、寂しかったんだな。いやぁまさかここまで慎悟に懐かれているとは思っていなかったよ。

「別に仲間はずれなんてしていないからね」

 よしよしと頭を撫でてあげると、その手を叩き落とされた。照れ隠しか?

「…年上ぶるなよ…!」
「年上だもん。慎悟ったらヤキモチ妬いちゃって可愛いなぁ」
「ヤキモ…!?」

 カッと更に顔が赤くなっている。
 恥ずかしがるな、あんたはまだ17なんだから。我慢せずに感情は表に出しておいたほうが良いよ。
 自分の感情に戸惑ったような恥ずかしそうな顔。うんうん年相応の表情だ。

「いやー懐かなかった猫がようやく懐くのってこの事なんだね」
「…は?」

 あれ、何その目は。
 さっきまでの可愛いテレ顔から一変。慎悟は無表情になってこっちを冷たく見下ろしていた。
 仲直りできたと思ったのに慎悟はまた怒ってしまった。なんで怒るの。猫か? 猫に喩えられたのが嫌だったのか?

 …でもとりあえず、私をシカトするのはやめたから良かった。
 

■□■


「おいしい!」
「本当に」
「ここインターネットで調べたんですか?」
「あぁ、ここは友人に教えてもらったんです」

 その週の日曜日、私は西園寺さんととあるカレー屋でランチをとっていた。ホームページ見てた時から美味しそうだと思ってたが、本当に美味しい。最近カレー作ってないから、久々に今度作ろうかな。
 ウマウマとカレーに舌鼓を打っていると、こちらをニコニコと微笑んで見つめてくる西園寺さんの視線を感じた。
 そんなに見つめられると食べにくいな…。

「やはりエリカさんは可愛らしい方ですね」
「…あ、ありがとうございます」
「喜んでいただけて僕も嬉しいです」

 パァァァと純度100%の好青年スマイルが降り注いできた。

 眩しい。

 カレーは美味しいんだけど、こうも見つめられると食べにくい。食べにくいけどカレーは美味しい。今度このお店に慎悟を連れてこよう。きっと喜ぶはずだ。…でも慎悟のことだからスイーツバイキングとかのほうが喜ぶのだろうか? 
 明日学校で会ったら、どっちがいいか聞いてみようかな。

 そのあと西園寺さんおすすめのお店に回ったりしたけど、どこでもレディ扱いされて私は戸惑った。日本にこんなレディ扱いをする男性が存在するということにびっくりする。私今までこんな扱いされたことないわぁ。
 
「エリカさんは観劇に興味は?」
「えーっと…学校の行事で行ったくらいで…私ああいうの眠くなってしまうんです…」

 ちなみに私は映画館でも眠くなるタイプだ。怖くて有名なホラーを弟と観に行った時、私は爆睡していた経験がある。渉は最初から最後まで鑑賞して、帰り際青ざめてフラフラしていたので余程怖かったのだろうな。
 映画上映中は大きな効果音が多く鳴ったそうだが、それでも私は寝続けていた。もはや病気なんじゃないかと思っている。

「そうか、そしたら僕と同じだ」
「西園寺さんも?」
「祖母が観劇好きで一緒に観に行くのですが…多分興味がない題目だからでしょうか、ついウトウトと」

 なんだお坊ちゃんでも眠くなる人はいるのか。ちょっと安心した。

「それでは何が好きですか?」
「…観るならバレーボールの観戦でしょうか。プレイするのが一番好きですけど、観るもの好きです」
「エリカさんはバレーが本当にお好きなのですね。好きなものがあるというのはとても大事なことだと思いますよ」

 西園寺さんに褒められてなんだか照れくさくなった。聞かれるがままバレーの話をしたが、西園寺さんはすっごい聞き上手で話していて気持ちが良かった。
 逆に私が質問すると、西園寺さんも自分の趣味を話してくれた。彼はお城などのプラモを作ってコレクションするのが好きらしい。以前は戦車にもハマっていたらしいが。
 彼はセレブなのでゴルフが好きとか乗馬が好きとか言うと思ったら意外。親近感が湧いたよ。スマホに自分で作ったジオラマの画像コレクションがあるからと見せてもらったが、見事だった。
 
 どうなることかと思ったカレーデートだったがなんだかんだ楽しく過ごせたよ。

 

prev next
[107/284]

mokuji
しおりを挟む

back


応援してね(*´ω`*)

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -