雑多 | ナノ


▼ 今日の日でさようなら(キルラキル.皐月と流子)

*アンハッピー

いいよと笑った顔に曇りの一つも無かったから死にたくなった。
あれだけの騒ぎを起こした元凶の両親はいない。
手を貸した者どもは既に裁きの場に引き立てられた。
自分も法でも私刑でも覚悟したのに反応は予想外なものだった。
叛旗を翻した英雄。それが皐月に称された言葉。
そして来るべきかも日に向けて研究と名の処刑へ妹の手は伸びた。
それは違う。妹は戦った。誰よりも果敢に。己の拳と与えられた力だけで。幼少の時分より孤独に耐え、勝ち、ようやく会えた理解者と仲間とこれから生きていくはずだ。
なのに皐月は英雄。
流子は化け物としての汚名と拘束、そして
考えたくも無かった。幼き日に誓った願いは果たしたのだ。のみならず妹は生きていた。生きて現れた。
散々な目に合わせた自分を許し、世界を救ったのに。
「いいよ、姉さん」

満足そうに笑んだ流子は皐月の手を握る。
暖かい指先は人間と変わらない。

何も変わらないのだ。体に組み込まれた生命繊維もほぼ活動していない。今は少しだけ丈夫な人間に過ぎない。
それは残された者達が確実にデータを取り、数年かけて出た結論なのだ。
事実、今少しの傷もしばらく治るのに時間がかかる。心臓を抜き取られかけても死ななかった流子は『ない』今なら即死だろう。
法の場にも世界にもそれは公表した。出来る場所に全て公にしたのにも関わらず流子は『化け物』という認識は覆らなかった。
『化け物』と凶弾され、『化け物』を利用とし、『化け物』を崇拝する様々な人間が近付いてきた。
なんとか隠し、逃がそうと仲間は手を尽くしたが多勢無勢。世界の人間相手に少なすぎる人数に太刀打ちなど出来ない。
それどころか人数を使い、人質を取られてる状況ですらあった。
神衣もない今、皐月はただ己の力のみで戦っていた。
流子を守りたかった。
仲間も守りたかった。
だがこのままでは全て無くしてしまう。そこまで追い込まれた皐月に手を差し延べたのは他でもない流子だった。

「あたしを渡しなよ。」
「な、にを、」
「あたしはマコも姉さんも皆も死なせたくない。死なれたらきっと、あたしは本当に化け物になる。」
「だが、」

だが、何が出来るのだ、今の自分に?
家と身分を捨てた自分に。
仲間の手を借りねばここまで逃げることも出来なかった自分に。

「姉さん、マコにありがとうって伝えといて。それから」

握られた手に強い力が込められた。その手が震えてることに気付いた瞬間、強く引き寄せられた。流子の伸びた髪が頬に当たった。あの頃とは逆になった髪型が年月を知らす。
逃げている時間より短かった幸せの時間。姉妹として生きられた時間は髪を伸ばすほどに経ったのに昔と同じくらいに、今、底にいる。


ねえさん、ありがとう。しあわせになって。

震える声で発っられた言葉を理解したと同時に突き飛ばされる。
思いの外、強い力に不意をつかれた皐月はもんどり打って転ぶ。辛うじて受け身は取れたが走り出した流子には追いつけないと本能が教える。
人より少し丈夫で、人より少し身体能力に長けた同じ血を分けた流子は少しだけ皐月と生き物として距離があった。
その距離はもう手を伸ばしても届かない。
流子、と叫びながら伸ばした指先は空を切り、見えなくなった背中を捕まえることは、もう出来ない。
あの日叫びながら抱き留めた手の平は空になった。

何が、世界だ
何が、化け物だ
誰が本当に、化け物だ
化け物ならこの世界に蔓延してるではないか

手元にあったナイフを掴むと手入れ出来ず伸びていた黒髪に押し当てる。
ざっ、と音と共に肩口でざっくばらんに髪が広がった。

羅暁、貴方の言った言葉はある種正しかったのだな

初めて垣間見た流子と同じような髪と、全てを憎んだ瞳で皐月は立ち上がった。


****
このあと皐月様は生命繊維集めて世界征服してくといいなー
という最終回後まさかのバッドエンド

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