13
いっそ血反吐く。
脳天の血管ブチ切れる。
体中の汗腺が爆発し始めそうだ。

どの喩えもしっくりくる程に、今恐らくキレている。
なんてことは無い。
これはただの肉である。
そう言い聞かせながら、「脱法デニムだ」等と訳のわからない理解の出来ない言葉を俺は聞いていた。
腰にまわる太ももが、背中に押し付けられているものが、後ろで肉女が身を捩った事で、いやむしろ大きく息を吐いていることですら当たる面積を変え、その柔さを如実に伝えてくる。
思わず、体に纏わりつく繊維の外へと、数少なくも出ている肉体である両手のひらで火花を散らした。

「聞いているのか。まぁ良い。一日二日で諸君の心持ちが変わるとは思ってもいない。
それにしても、これは……そろそろリフォームはしようとは思っていたが……更地にする手間は省けたが……やり過ぎだ」
「てめぇが!やって!良い!つったろが!!」
「ふーっ!ふ、……う゛ぅーぅ!!」
「背中で!モゾモゾ!動くなや!!!」

クシを片手に髪をとかしながら俺たちへと説教をかます目の前にいるビシリと金髪を10対0と言いたくなるほどに片側へと撫で付けるスカシた男は、俺と俺の背中へと張り付く肉女を糸で縛りつけ、自由に使えと宣った訓練場から吊るしていた。
その男__ベストジーニストは職場体験インターン先の事務所のトップだ。
俺の頭をクソみたいに硬めやがり、講釈を垂れ流し、暫く見回りをした後に「少し席を外す。二人で特訓でもしていろ」等とこの訓練場へと俺と肉女を放り込んだというものであった。
俺の背中で肉女がずっと身を捩ってやがるから、クソみたいにデカい肉厚に圧迫されて、避けようとしている俺の腹回りに糸が食い込むのがわかる。
痛ぇ。
が、この肉女も大概だ、とは思う。
これ以上個性を使う事が出来ぬように、と両腕を糸で覆われ、釣り上げられて、唯一自由な顔面すらも口元に噛まされた糸束で天井に吊るされているから、下を向く事すら出来ねぇ状態だ。
まぁ、要するに自由な場所はねぇ。

「ふむ……これは絵面的にかなりキツイな、スキニーデニムのよ」
「だったら外せや!!!」
「んんぅむ!!!う゛ぅう!!」
「だぁ、かぁ、らァ!!!動くなや!!!」

ムチッとしたものが、背中で、腹の横で擦れている。
女に興味を持つ暇などは皆無、とはいえ、こうも当てつけられると嫌でも意識はそちらへと向く。
死ね。
刺す。
と思った。

「しね」
「口が悪いな、バクゴー」
「はよ、外せや!!」
「反省が先だ。順序は大切だ、バクゴー。物事を進める上でいちばん大切なものだと俺は思っている。
そうだろう、名前?」

サッとポーズを決め始める男が怒っているのは、その男の後ろに見えるありとあらゆる備え付けられていた訓練用障害物が俺と肉女によって壊されて居るから、である。
「自由に使えつったろが」と、また舌を打った。
あまりにも自由な雄英に慣れ過ぎていた事が仇になっとる。と俺はただただ考えている。それだけを思考することに集中している。


説教も終わる頃にようやっと地に下ろされた俺は、床に散らばる女のヒーロースーツに顔を顰めたベストジーニストの顔を見た。
肉女のスーツやらを手早く拾い上げて近場にあった適当な布で、俺が決して振り向かないから様子も知らない肉女を包んだらしい事が「ありがとうございます」と不貞腐れた声を聞いたことで確認できた。

「彼女が着替えを終えたら直ぐに寄越す。先に片付けをしておきたまえ」

と肉女を別室へと案内したベストジーニストの背中を見送ることもせずに俺は舌打ちを落とした。
なんで俺が、だ。
そもそも、ふっかけたのは肉女だ、と言いたいところであるが、そうとも言い切れないのは自身の身から出たなんとやら、という事が多少なりともある事は理解している。
こうは言ってはなんだが、何方とも無く。だと、思っとる。
とはいえ、クソみたいに広いビルの二階をぶち抜いたクソほど広い訓練場室内を見回して、「クソだりぃな」とは素直な気持ちであった。
それでも、どっかでスッキリとした気持ちにはなっていた。


適当に瓦礫を一纏めにしつつ、自身の体とさほど変わらないサイズの瓦礫を片付けようと、砕くために爆破をしたそばでヒラリと黒い物が舞い、思わず引っ掴んだ。
引っ掴んで、目の前にぶら下げて、早々に後悔した。

ク ソ が !!!
なんっっっで!回収してねぇ!!!
一番!男女関係なく!!必要な!!!モンだろが!!!

指先に引っかかる真黒なそれに、いっそ頭を抱えたくなった。
いや、決してモノに対してという事ではない。
寧ろ爆破して今粉微塵にしてなかった事に対して、だ。
そもそもこれをどうすれば良いのか、俺はこれを手渡すとでも言うのか。
「落ちとったぞ」
とでも言うのか。
爆破しよう。それが良い。
防御力ゼロの総レース。ケツが透けんだろ。こんなん。それが消し炭になるところを想像して握り直したところで、訓練場のドアが音を立てて開き、思わずサッとケツポケットへと仕舞い込んだことを俺はこの上なく、すぐさま後悔した。
いや、今爆破しとけば良かったじゃねぇか、と。

「悪いわね。遅くなったわ」
「……」
「……なに」
「な、んでもねぇわ!!!しね!!」

俺の言葉に首を傾げて、「怒鳴らないで頂戴」と静かな声が告げた。

俺の様子に顔を顰めつつ、肉女は静かに瓦礫を片付け始めたが、俺はその後ろ姿を極力見ないようにつとめた。
何故か。
知るか!死ね!
 



この話しの始まりは一週間前に、遡る。

水曜日
朝から、雨が降っとった。
鬱陶しいくらいに視線を感じるのは偏に雄英体育祭が全国放送されてから、初めての登校日であった事が理由になると思う。
ジトッとした空気も視線もうっとおしく、いつもよりも早足になっていた。
サカサカ脚を進めていると、目の前に見てしまった見知った後ろ姿に舌打ちが落ちる。
他の生徒が横を通り過ぎて行くのを見送りながら、静かに何度も息を吐いているらしいソイツは、学生カバンを抱え直してもう一度脚を踏み出した。
クソ怠い坂道の中腹、また立ち止まったソイツへと俺は舌を打った。

「邪魔だわ、どけや」

俺の声に長ったらしい髪を傘の下で振りまわして、振返ったソイツは、俺を見るなり唇を引き結び、恥ずかしそうに視線を外し、耳に髪を引っ掛けて「おはよう、爆豪勝己」とだけ言い残し、足取り軽く水飛沫を時折上げながら坂を走っていった。

「……は?」

バツバツと、傘にかかる雨の音がやたらと煩く響いてた。



朝のチャイムが鳴ると、駄弁っていたクラスの奴らは静かに席に付き始め、それでも未だ興奮冷めやらぬとでも言う猿のようにキャッキャと騒いでいたものが、相澤センセーの前髪の一房が見えた瞬間に調教済みの犬のように静かに姿勢を正す。
正直この様はいつ見ても笑えるが、自分もその中の一員であることは少しばかり、思うところが無いわけではない。
まぁ、それは良い。

「今日のヒーロー情報学ちょっと特別だぞ」

そう言い切った包帯の取れた相澤センセーは未だ傷跡の違和感が残るのか、眼の下を掻きながら先程よりも少しばかり声を張った。

「「コードネーム」ヒーロー名の考案だ」

胸膨らむやつ来たァァァあ!!
一気に教室内が騒がしくなるが、それも相澤センセーの視線一つで静かになった。

「プロからのドラフト指名に関係してくる」

手首をコリコリと慣らしながら相澤センセーは説明を続けた。
要約すりゃ、指名された先でインターンをする事。来年再来年含めて、見捨てられんように頑張れや、と。

そうして貼り出された指名件数

「例年はもっとバラけるんだが、二人に注目が偏った」

相澤センセーはそう続ける。

「1位2位逆転してんじゃん」クソ髪の声が聞こえた。
「表彰台で拘束された奴とかビビるもんな」しょうゆ顔の声がしとる。

「ビビってんじゃねーよプロが!!!」

もう一度黒板を見て、俺はクソが、とまた毒吐いた。



「爆殺王」

温めとったヒーローネームは、ミッドナイトの「そういうのはやめた方が良いわね」の一言ですげなく却下された。

「なんでだよ!!」
「爆発さん太郎は?」

もっペン考え直せと促されつつ席につく。

「残ってるのは再考の爆豪くんと、飯田くん、肉倉さん、そして緑谷くんね」

ヒーロー名を却下され、仕方なく第二候補を書いていると、

「これが僕の、ヒーロー名です」

『デク』まるで嫌味のように、お前はもう超えた、興味ねぇとでも言うように掲げられた不格好な汚ぇ字が、俺を笑っとるようだった。
コイツの言動は、イチイチ癪に障る。
苛つく。
腹が立つ。
こんな石っころだった存在が、嫌でも意識に入ってきやがるのが、土足でやってくるのが、腹立つ。
しね。
何度そう思ったか。
目の上のタンコブ。まさしくそうだ。
うっとおしい。
消えりゃいい。
死ね。

俺に勝っといて、舐めプ野郎に負けとるのも腹が立つ。
今もっかい挑んで来りゃ、俺が勝ったった。
今、もっかい挑んで来りゃ、お前を殺せヤれる。

やっぱり、気に食わねぇ。


「肉倉さん、あなたは?」

ミッドナイトの呼びかけに静かに教壇まで登った肉女は、俯いたままボードを構えようとして下ろし直し、ミッドナイトへと向き直る。

「私、は、自分に名をつけられるほどの事が、まだ出来ていない、……まだそこまでの力も持っていない、そう、思います。だから、……保留、とする事は、可能でしょうか」
「……その場合、名字か名前を一時的に名乗る事が多いわ。どちらにするかだけ、考えておきなさい。」
「……なら、名前……に、するわ」

ミッドナイトの柔らかな視線とは裏腹に、俺の苛立ちはつのって行く。
なんだってんだ。
当てつけのように、次から次へと。
腹が立つ。
ムシャクシャする。
苛立つ。
煮えたつ。

何でも良い。
腹が立つ!

「爆殺卿!!」
「違うそうじゃない」

クッソ腹立つ!!
死ね!!!




「爆豪ー、メシ行こうぜ!」

今朝からやたらと絡んでくるクソ髪が、隣でペラペラ喋っている。
着いてくんなや、と言ってやりたいが、行き先はどうせ食堂。
「お前がな」等と言われようものなら爆破しそうな程には苛立って居るから、黙っておく。

食堂に着くと、すでに人だかりが出来ている。
ここに来る生徒は多い。
安くて美味いからだ。
雄英には、一人暮らしの生徒も少なくないと聞く。
全国からやって来ているのだからそういうモンだとは思うが、ご苦労なこって、とも思う。

「あ、緑谷と麗日達じゃん!飯田と肉倉も居る!あそこ行くか?!」
「行かねーわ!」

あまりに空気の読めない発言にイラッとしつつ、激辛カレーをトレーに乗せて適当な席に腰を掛けた後から気が付いて、さっきのクソ髪の指の先を見ときゃ良かった、と舌を打った。
席が近い。

「デクくん、聞いて……名前ちゃん、ホンマにストイックやねん。」
「へぇ、僕も見習わなきゃ……!」
「うーん、何ていうか……この間泊まったんやけど、娯楽物どころか、テーブルすらないんよ。文化的な生活とは、言えへんの。」
「それは……肉倉さん、悩みでも、……ある??僕、聞くよ??」



聞きたくもねぇうざってぇ声が聞こえてくる。

「それでも、足りないのよ」

飯が、不味くなる。

「うわ!食い始めてんのかよ!待っててくれても良いじゃねぇか」
「知るか」

向かいにトレーを置いたクソ髪が俺の視界いっぱいになった事で、癪だが、あの苛立つ姿は視界から消えた。
今だけは褒めてやってもいい。

「辛そうだな!」
「うめぇ」
「一口」
「やらねぇ」

はよ食えや、と足を小突いたタイミングで、やっぱ席変えりゃ良かったと思いたくなる声が届いてくる。



「だって、2件よ……ベスト8ですら……」肉女の今朝からのうっとおしい、ジメッとした天気ばりの声に、クソナードの声が響く。

「それは、その、残念だったね……でもホラ、2件も来てるのは、凄いことだよ!僕は来てないし!!」
「でも……2件……」
「お、落ち込まんでええやん、私も似たようなものやし……認めてくれる人が、おるんよ!!」

丸顔の声に、クソ髪は後ろを振返った。

「……ええ」
「そう気を落とすなよ!ホラ、指名貰えるだけすげぇって!体育祭にしても、2回戦では一位だぜ?!すげぇって!!なぁ、爆豪!!」

その言葉にようやっと視線を上げていたらしい肉女の顔が見えてしまったのは、クソ髪が体を半分後ろへと向けているからだ。
長い睫毛が、細い切れ長の目を覆い隠し、またゆら、と揺れながら視線を上げてこようとしている。
ガヤガヤと煩い食堂の雑音が、一瞬遠のいた気がした。

「負けは負けだろが」
「か、かっちゃん……!」
「爆豪くん……」

あたふたと、肉女の顔色を伺う姿を見ながら、下らねぇ、とカレーをザッとかき込んだ。
かき込んで、水を飲むために視界を上げると、クソほど律儀にステーキにナイフを通して口元へと運ぶ肉女の目が、揺れに揺れている。
今にもその長い下睫毛から水滴が落ちそうだ。
うぜぇ
そうして慰められてぇってか。
下らねぇ。
仲良ししたい訳じゃねぇつっとったんはどの口だよ。

「し、肉倉さ、」
「名前ちゃん、私も、来年に向けて頑張るよ!一緒に頑張ろな!」
「まだ、その、……すぐ、立ち直るわ……待っていて……」

コクコクと頷きながら、噛んどんのか、と言いたくなる速度で肉女は目の前にある肉を平らげていく。

「爆豪、お前もうちょい言い方何とかなったらなぁ……」呆れた、とでも言いたげに肩をすくめるクソ髪たちに
「うっせェモブ共が!!」噛み付いた。
「身体の管理なってねぇンが悪ぃんだろが!!!」
「刺す。」向こうのテーブルで肉を飲み込んだ肉女は、ナイフを片手に凄む。
「人間失格ぅ!!!」クソナードの叫びは食堂中に響き渡っとった。
「キモい引用しとんじゃねぇわ!!」




昼休憩も終え、午後のヒーロー基礎学が始まる。

救助訓練、と言うことで(戦闘訓練じゃねぇんか)とコッソリと残念に思いつつ、13号に組まれたメンバーで救助活動へと取り組むことになった。

災害時の救助活動、と言う想定らしく俺たちの充てがわれたのは、岩場で、しかも被災者。
その上、デク、肉女、玉、からのしょうゆ顔
は?クソなメンバーだな!とワナワナと震えた事は誰が火を見るよりも明らかだった。

「なぁ、爆豪。今日の肉倉の下着、オイラ見ちまった!!見ちまったんだよなぁ……!!」
「興味ねぇわ」

そっと足元へと寄ってくる玉を名前通り蹴り転がす。

「嘘付いてんじゃ……っいてぇ!」だとかなんとか言いながら転がった玉は狙ってか否か、いや、言い直す。
狙ってだろうが、肉女の足元へと転がり、手を胸の上で組んだ。

「オイラはもうダメだ。……オイラたちの仲だろ、肉倉ぁ、抱き上げてその胸にオイラを包んでくれ!!」
「ほら、峰田くん、もうやめようね」
「峰田ぁ、お前、今、授業中ね?」

呆れ顔のデクが肉女の足元から玉を起こしあげ、しょうゆ顔がしゃがみこんで苦笑する。

「邪魔してんじゃねぇよ!!折角のチャンスなんだぞ……!ほら、この角度から覗いてみろよ!アソコはなんてパラダイス……!息止めるほどにはユートピア!!この楽園は、ショーシャンク!!」
「お前最低過ぎんだろ……」
「……へぁっ!!や、やめなよ!!!峰田くん!!!」
「お前もまぁまぁ欲望に忠実な」
「ちっ!ちが!!ちが!!」

そ、と視線を上げたデクは真っ赤になりながら小声で玉を叱るが、そこそこの距離にいる俺が聞こえて、直ぐそこに静かにたつ肉女に聞こえないハズがない。
しょうゆ顔は「はいはい」と言いながら玉を立ち上がらせて背中を押そうと試みるが、それを止めたのは意外にも肉女。
そっと片膝をついてしゃがみ込み、玉の体をペタペタと触り、文字通り玉になった玉を踏みしめた。

「し、肉倉ぁ!!オイラ、信じてたっ!!お前を信じっぶ、あ、きゃぁぁぁぶっ……!!!」
「肉倉さぁぁぁぁぁぁああ!!!」
「やべ、痛そ」

その塊を踏みしめてから静かに呟く。

「あら、大変……救助組に早く来てほしいわね。峰田くん、大丈夫よ。きっと助けてもらえるわ」

フンと笑ってからまるでボールのように蹴り転がす肉女に、デクが「し、肉倉さん、それって、痛いんじゃ」等と言うが、

「本望なんじゃないかしら」

そういうハッキリと物を言う所は嫌いじゃねぇな、とは思う。

「そんな事ある?!」
「ハハッ、間違いねぇな」

ノロノロと歩く3人と蹴られる玉に舌を打ちつつ、

「トロトロしとんなや!陽ぃ暮れるわ!!」
「アッ!ご、ごめ!!」

怒鳴りつけたところで、パラパラと砂が落ち、ゴロロと地響き。
一番後ろ、玉を蹴り歩いてた肉女の頭上。

「肉倉!!」しょうゆ顔が叫んどる。
「肉倉さんっ!!!」デクが走っとる。

肉女のすぐ上に、クソほどでかい岩。
あ、落ちる。

肉女は、玉を大きく蹴り上げ、しょうゆ顔がテープで絡め取る。
肉女へと、更にテープを伸ばしているのを見た。
ゾクッとしたものが背中を走るより早く、岩へと爆破をかました。
爆破で体が下がる威力を殺しつつ、乱打。
それと同時に、肉女と同じような肌の色をした肉で、難を逃れたのを見たが、もう爆破で出た火は止まらねぇ。

「ちょ、っ!」
「あ゛」
「「あ」」

肉が真っ二つになり、地に落ちた。
腕の無い肉女と一緒に地に落ちた。
肉女は、のそ、と立ち上がり、腕周りをうねうねさせて再建しながら俺を睨みつける。

「刺す」

一瞬、何を言われとんだ。
と、わからなくなったが、まるで反射のように言葉は出ていた。

「恥の多い人生送っとんなァ!」
「は、恥じてる事なんてしていないわ!刺す!」

鼻血を手で拭いながらつかつかとこちらへとやって来て憤る肉女は、俺の肩を軽く殴る。
「ありがとう」そう、言っている気がしたが、恐らく気の所為だ。そう、多分、気の所為だ。

「青鯖が空飛んだ見てぇな顔しやがって」

だから、聞こえなかったふりを、しとく。

「いつまで続ければ良いのかしら!」
「お前がはじめたんだわ!」



「アイツら、仲良いよな?」
「く、くそ……いてぇ……!」
「峰田くん、大丈夫?……仲良し……なのかなぁ……?あー、……はは、」
なんて会話が実際に俺の耳に入ってたら間違いなく爆破してた。




東京都
職場体験インターン先へと足を向けていた。
少なくともこの時までは、ナンバー4から指名されたこのインターン活動が有意義なものになる事を俺は期待していた。

「あ゛?着いてくんなや」

俺の一メートルほど後ろを歩く肉女は、静かにまっすぐ前を指す。

「私の行き先はあそこよ」

盛大に舌を打った。
かったりぃ。

それでもこの時までは、期待をしていた。
この先にあるであろう、己を強くするための某を。
力になるであろう、何かを。


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