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第2種目が騎馬戦と決まってから、続々とチームが組まれていく。

「肉倉、……オイラと、組まねぇか!」

峰田君と、その後ろに控える大きな体に六つの腕。障子君。
私ですら首を大きく上に向けなければその顔を見ることも出来ない程の立派な体躯は、いっそ羨ましい程だ、と常々思う。

「あなた達と組むメリットを頂戴」
「オイラは考えた。どう考えても、爆豪と轟は一筋縄じゃいかねぇ、何せ、近づく事も、出来ねぇだろうし。緑谷追うなら、必ずあそことはやり合うことになる!」

峰田君の言葉に、私は目をすぼめる。

「轟と爆豪を肉倉がすげぇ敵視してる事くらいはわかる。勝ちてぇんだろ!あの二人に!負けたくねぇんだろ?!それにお前、足も……だから!」
「……それで?」
「オイラが足を止める!肉倉は、その時に思うベストの方法でハチマキを取ってくれ!防御は、障子の腕がする!直前まで、誰もオイラたちには触れられねぇ!機動力も、複数人が固まっているよりずっと身軽だから、高ぇんだ!」

ぽん、と峯田君の手が障子君の手に触れた。
確かに、その大きな腕と水掻きで有れば私たち二人を隠してしまうことは、造作もないのだろう。
私はハチマキの回収に集中出来る、と言う訳だ。

「お前が居たら、敵はねぇ!お前も俺達がいたら、敵はねぇだろ!」
「……良いわね。組みましょう……峯田君、障子君、よろしくお願いするわ」



騎馬戦のチーム決めは終了し、青空を切り抜くように聳え立つ観客席。それと同様に青を切り裂くように広がる雲のもと、メンバーが発表されていく。

「どう、しようかしらね……やっぱり、緑谷君を、狙おうかしら」
「肉倉、悪いことは言わねぇ、無難に行こうぜ……!」
「峯田の言う通りだ。今はチーム戦、皆で勝ち残ることを考えよう」
「…………いいえ、勝ちに行くわ。ここで勝負に出られないのは、違うでしょう。男が、廃るんじゃないの」

ニッと冷や汗を隠し笑う峯田君と、コクと大きく頷く障子君。

「なら、確実に事を運ぼうぜ。先ずは硬いとこから幾本か。それから本チャンに行こう」
「ラスト数分、と言う所で動くのも作戦としては悪くはないだろう」
「良いわ。そうしましょう」

その背中から、あたりを見渡す。

「行きましょう、二人とも」

そしてブザーが鳴り響いた。




足を使うことなく戦うことが出来るのは、私と峯田君の最大のメリットでは無いだろうか。
少なくとも、この騎馬戦という競技に於いては、強い。
3本目のハチマキを回収して、私は首へと括り付けた。

ラスト2分

「居たぞ、峯田!」
「おっしゃ!」

もぎもぎを放り、チーム緑谷を足止め。
その隙に、私は肉を用意する。

「緑谷君!!」悲鳴のような麗日さんの声が上がる。
「な!ど、どこから!!」

血相を変えた緑谷君の顔がコチラを向く。

「ここだよぉ、緑谷ぁ」
「頂いたわ。緑谷君」

そして彼のハチマキは、いとも簡単に、私の手に収まった。

「そんなの、アリ!?」叫ぶ彼の声に、
『有りよ!』ミッドナイト先生の声が答えた。

「下がりましょう、障子君」
「ああ!」
「峯田君!私達の後ろにもぎもぎを!障子君、中は気にせず足元を見て走って!」

私の声より早く、いえ、もしくは同時。ガァッと、目の前に氷壁が現れる。
緑谷君のチームが上空から降りて来る。

「調子、乗ってんじゃ!ねぇぞォ!!」

爆豪勝己の声が響き、緑谷君の頭を見て、私達の方を向く。

「ッ!コッチかぁ!」
「あげないわよ、誰にも!」

肉の壁を展開
障子君の顔以外の周りを覆う。

「障子君、オープンよ!」
「了解した」

障子君の腕が離れ、私の視界も明るく開ける。

目の前には轟君、それから左手に聳える氷壁。
右手には緑谷君。
爆豪君、は、何処かに消えた。恐らく騎馬に戻ったのだろう。

「三つ巴、ね」
「貰うぞ、1000万」
「障子君、飛んで!」

言うが早いか、足元が一気に凍り始めた。
肉のステップを設置。
氷が威力を増していく。

「一気に、行くぞ」

バキバキバキ
大きな音を立てながら、一気に周囲が涼しくなっていく。

「障子君!11:00方向上へ飛んで!」
「む!」

障子君の跳躍へと合わせて肉を移動させる。

「一先ず、後退よ!ここにいるメリットは無いわ!」
「逃さねぇ!」

その声と共に、鋭い氷が迫って来る。
そこへ敢えて肉の塊をぶつけ、貫かせた。
ブシュッ、と肉を裂かれる感覚に、丸々とした赤い粒が宙へ浮かび、舞う。

「……ッ!お前!」轟君は動揺から動き、判断が鈍るだろう。
「肉倉!お前、……大丈夫なのかよぉ!」峰田君が一際大きな声を上げて、私の体操着を引いた。

「今は、触れないで……誤って、塊に変えてしまうわよ……」
「痛ぇんだろ……汗やべぇよ、オイ、こんなとこでする事じゃねぇだろ……ッ!」
「ほら、でも……引いたわよ……!」

一度猛攻の止まった轟君の騎馬から、私達は離れられた。

「障子君、彼が作ってくれた氷壁の向こう側へ逃げちゃいましょうか」
「ああ!」

死角へ、死角へと避け、姿を隠す。

と、すぐに迫る、黒い影を肉壁でカバー。
ざりり、と圧に押された障子君の靴が地を擦った。
ダークシャドウだ。

「行ける?!」
「問題ない!」彼の声が背中へと響いてくる。
「峯田君!」
「GRAPE RASH!!」すでに用意していたらしいもぎもぎを、そっちへと向けて投げつける。

(時間は!?)

それを避ける、常闇君のダークシャドウを携えた緑谷チームを牽制しながら、後方からの追撃にも意識を向ける。
も、一足遅かった。

「いつまでも、こんな所に居るからだ」

伸びてきた手へ、こちらも手を向けて応戦。
バチン、と音がしてその轟君の腕を払った先から、私の手へと霜がつく。

「……凍傷になるぞ」
「素敵」

冷や汗が止まらない。

前には緑谷君、後ろには轟君。
けれど、後1分!

「障子君!上!」

上げた声に素早く障子君が反応。
私の肉へと足をつく。
先までの私達のいた場所へと伸びる八百万さんの刺股。
私達が上空へと逃げた事により、それは緑谷チームへの牽制に。

「峰田君!」
「オウ!!プ、プルス!ウルトラぁ!!」

既に頭皮から血が滲む峰田君は、なおももぎもぎを投げ、牽制に努めてくれ、このまま終わる!
そう思った頃、背後から

BOOM

爆発音。

赤い鋭い目と視線が、絡む。

「肉倉ぁ!!」
「肉倉!」
「わかってるわ!!」

峰田君と障子君の絶叫が響く。

肉の繭を作り、ガード。
ジリジリと、肌が焼けていく感覚。
もろに爆破のダメージを受けた。
限られた肉を薄く膜のようにしているのだから、防御力は、さほど念頭に置いては居なかった。
崩れる。
焼ける。
崩壊、するかも、
(弾け飛ばされそう!)
そう思う程に、大きな爆撃。
恐らく、それで周りが怯めば一石二鳥という、魂胆。
けれどそうしたら、必ず視界は曇るだろう。

「障子くん!!」
「ああ!」
「し、肉倉ぁ!も、もうやべぇって!!」

そしてまた、爆撃。
肉壁に亀裂が入り、ヌッと伸びてきた腕から数歩、障子君は下がり、彼の背中にまで回し直していた肉壁が氷壁へ当たる。

「そこか!!」
「まけて、たまるかぁぁぁあ!!」

轟君と緑谷君の声が響くのと同時、僅かに肉壁の隙間から見えたのは、控室と同じギラギラとした、真赤な目だった。

「っぐ、ぁ!!」

外の状況は全くわからない、けれどこの刺す感覚はもしかしなくとも、一部が凍っているのかも知れない。
その推測は当たっており、轟は、一番1000万に近付いた爆豪から、1000万を遠ざけるが為だけに氷壁をまた新たに作り上げたのだった。
けれど、存外それは私へのダメージも凄かった。
そこまで計算していたのかも知れないが。

「大丈夫か、肉倉」
「……ええ、問題ないわ」
「い、痛ぇんだろ?もう渡しちまおうぜ、他を取ればいいだろ?な?1000万にこだわったところで、ここでくたばったらお前次出れねぇぞ?な?」

オロオロと峰田君は、屈み込み両腕を抱え込んだ私の肩をぽん、と叩く。

「集中が切れたら、繭が消えるわよ……触らないで」
「でも、ほら、肌が、……なんか、こっちから見ても変色してんぞ、やべーんじゃねえのか?!」

峰田君の騒ぐ声に紛れ、アナウンスの音に混ざるブザーが氷壁を超えてキンとした音を響かせながらもよく届いた。

「ほら、でも、勝ったわよ……!」

私の声に、障子君が肉壁の繭の中で私を下ろす。
立って居られなくなったのは、力が入らないせいか、あまりにも足が痛むからなのか。もう私にはわからない。
そんな私を、障子君は抱えあげる。

「少しは、楽だろう」
「……そ、ね」

氷が溶け、貼り付いてしまっていた肌が自身の身体に戻せるまでになる頃には視界が晴れ、青々とした空が視界全部に広がって、清々しい空気を纏っていた。

「一番ね」
「ああ」
「そうだな!!頑張ったよな!俺たち!」

今回ばかりは、茶々も入れない峰田君の声が耳に入り、私はそっと目を閉じた。

「いちばん、だわ」






「起きな」

厳しい目をしたリカバリーガールがベッド脇に居る。
保健室らしい。
今は私しか居ないようだ。

「……ええ、」
「直ぐに準備しな。もう、あんたの番だよ……」

ふい、と背中を向けたリカバリーガールは、カンッと高い音を立てて杖を地に押し付けてから私に背を向けた。
お昼も、どうやら過ぎてしまって居るらしい。
保健室の一角、小さな3つのモニターに映るのは、恐らく、各学年の最終競技。
どの学年も、一対一で対決をしているように見受けられる。

「ありがとうございます。……お世話を、かけました」
「……その足で、何ができるんだい……棄権しな」

鋭い声に、足を見る。

「どうせ、直ぐに傷付いちまう。治した先から傷ついちまう……そこは治せてないよ」
「はい」

赤黒く内出血をアチラコチラで起こした、決して美しくない足が、捲り上げられている体操着のズボンの先から覗く。

「そんなに、隠さなきゃいけないことなのかい」
「……」
「そんなに、あの子らは信用ないのかね」

嗄れた声は、力なく響く。
窓から刺す光の切り取られた、少し肌寒くすら感じるような保健室は、消毒液の匂いにまみれている。

「違うわ」
「……」リカバリーガールは急かすことなく、私の言葉を待つから、それに甘えるみたいにズボンを元の位置まで戻してベッドから降りる。
足がビリビリと痺れ、カクン、と体は傾く。
個性で足を補強しながら、何とか体制を立て直して前を向く。

「私に、意気地が無いだけです」
「なら、棄権する勇気くらいは持ちな。それが今は、何よりも必要だよ」

リカバリーガールの厳しい声が室内へと響く。
こんなところでやめられるのなら、そもそも私はここへ入学などしていない。こんな所に、立っても、蹲ってもいないのだ。

「約束を、したの。私はここで一番を取るのよ。今回は、その約束を果たすチャンスなんだもの……嘘をつくための、そんな勇気なら、要らないわ……」
「なんだって今年は、こんな子たちばっかりなんだろうね……!」

頭を下げて保健室を出た。
リカバリーガールの嘆く声など聞かないふりをして、まるで轟音のようなマイク先生の中継の音が、校内にまで響く中、やっぱり無様にも壁を伝って足を進めた。



『蠢く肉に、触れたら終わりィ!!騎馬戦ではガッツを見せた!涼しい顔して中々エグい!肉倉ァ!名前!!
対するは、スーパーキリングボーイ!上鳴電気ィイ!!』

会場中央に佇む石畳のステージまでが、酷く遠い。
目の前が白んでいる。
眩しい、のかも、知れない。
あと、とても眠いわ。
壁が無くなり、土を踏みしめると、中から鉄が皮膚を貫く感触が伝わった。

「っ、ぁ!!」

ガクン、と体が傾き、ステージの上の上鳴君の目が大きく開いたのを視界に入れる。
バタバタと音がして、目の前でミッドナイト先生のものと思われる手が振られるのが見える。

「やれる、わたし、……まだやれるわ!!転んだ、だけよ!!」
「いいえ、これでは不可能と判断するわ」
「っあ゛ぁ!!」

ガシッと足を掴まれると、酷く鋭く、そして鈍い痛みがそこから全身に一気に広がっていった。

「や、いや!いやよ!!わ、わたし、勝たなきゃ!勝たなきゃいけない!」

それでもジタバタと藻掻き、

「いいえ、これでは立てもしないでしょう。ここでは私の判断が絶対です。あなたの負けよ」
「だめ!やくそく、約束をしたのよ!父に、……兄さんに、わた、わたし!強く、なるって、誰よりも!だって、まだ、やれる!こんなところで!!こんな!やれ、る…!…や、」

個性を発動させて先生へと手を伸ばす。

「少し、眠りなさい。」

ミッドナイト先生の声がしている。
それに合わせて動こうとするミッドナイト先生の腕にしがみつきながら、何度も何度も首を振るものの、静かな目を見せて言い聞かせるように言う。

カクンと私の体が崩れた事を確認した後、ミッドナイト先生は私が戦闘不能だと高らかに告げた。


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bkm


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