追憶*マリオネットの糸の先 3e 





間奏もすべて刻み込んでラストのサビにはいって、終わってしまう。最後の音が鳴るのでぼくはずっと音を保っていると、それを察してか、周りも音を伸ばす。最後にぼくが指揮者のように手を前に出してぐっと握ると音は止まる。終わった。息を切らせて、周りを見ると まばらの拍手が少し聞こえてくる。2曲を披露するとぼくらの持ち時間が終わる。そっと、ぼくらは顔を見合わせることもなく舞台から退く。そこにぼくらの次を待機していたユニットが立っていたけれど、人形遣いはそこも気にせず歩いていく。なずなもみかも一度顔を見合わせてから人形遣いの後を追いかけるように歩いていく。けれども、ぼくはキーボードの回収もあるので、キーボードを回収すると先ほどまでなかった発電機がそこにあった。これは悪意だと察すると同時に、背筋が冷たくなった。一人だけじゃ防げなかった。標的は人形遣いではない、『Valkyrie』だと悟ってしまった。もっと早くに気づいていれば。こんなトラブルでさえ防げたのではないのだろうか。もっと考えていたら今回のことは、何もなかったのかもしれない。思考だけがぐるぐる回っている。なんだか気持ちだけが悲しくなって、いたたまれない。完璧主義者の人形遣いだ。きっと今いろいろ考えているに違いない。そう考えて、ぼくはキーボードを片付けて持ってきた発電機をもって行動から飛び出した。人形遣いを探さねば。あれは繊細でもろい。傍らにみかでも、だれかを置いておかないと下手したら飛び込み自殺でも起こしてしまいそうだとぼくは思ってしまった。人形遣いが望んでいた楽園だろうに。誰かの悪意で、壊れてしまうほど繊細な芸術なのはぼくも知っている。だけれど、壊していいのは誰かではない。人形遣いが自らの手で壊すべきだ。違う、そうじゃない。そこで壊れないでほしい。
そうしてぼくは学院中を探せども、人形遣いの姿を見つけることはできなかった。手芸部でずっと彼が帰ってくるのを待っていた。寝ている間に帰ってきて消えてしまわないか、心配で、ぼくはずっと手芸部部室でずっと起きていた。先に家にいるかもしれないからとみかを返して、心配そうにぼくをみるなずなを返して、ぼくはずっとそこで、ずっと考えていた。
あの悪意がぼくに向いたとするならば、そう考えると心臓がずっとドクドク言って止まらない。もしも、たらればばかりを考えて拍動が変になっているのがよくわかる。こんな時でもいつもと違う心拍数だと理解して、頭を抱えたくなる。音が出ないなんてぼくの体が半分以上なくなってしまうと同義だ。
消えたくない、存在を否定したくない。薄く日の落ちた部室の中で、ぼくは膝を抱える。自ら拍を打っているのに、それでも吹けば消えてしまう気がして恐怖にかられる。怖い、もし次があればどうなるのだろう。これだけですまないのではないのか。そう思考が堂々巡りしていると、部室のドアがカラカラなった。その先を確認することはなく、ぼくの意識は立ち眩みとともに消えた。
ぼくはこの生徒会の悪意に倒れて、楽器というものが怖くなった。またならなくなったら、そう考えるとぼくの存在価値が消えてしまうそうおもってしまったからだ。
楽器という存在から逃げて、逃げてをして成績が落ちて、ぼくは卒業の資格を逃してしまう。家の人は朔間さんと同じ箱にいる名分を得たからと嬉しそうだった。いったい、ぼくは、なになんでしょうね。
ぼくは手芸部部室に引きこもるのをやめて、録音室で引きこもる日々を続ける。楽器を吹く演奏する以外のことだけはかろうじて生活できた。そうしていると、朔間さんからの依頼で姿を似せて、国内の活動をさせられたりもしたけれど、それでもぼくはライブが怖かった。きっとこれは朔間さんなりの荒療治なのかもしれないけれど、そのたびに吐き気や恐怖にさいなまれるのだから、人形遣いと程遠くない位置に立つものだと痛感させられたのでした。



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