演舞 天の川にかける思い 1 





一通りのリハーサルを終わらせて、ぼくはさっさと控室に引き返して寝る。昼間なことあって、頭痛がする。太陽の下で眠りたい。寝てとれるか怪しい痛みに危機感を覚えたので、ぼくは控室の隅で座り込み後ろと左側の壁に身をもたげて、目を閉じる。カフェインを入れるほうが目覚めやすいのだろうけれど、多分これはカフェイン依存も入っているので、やめておくべきなのだろう。と思ってやめる。ライブ前にコーヒーかなにかを書き込む必要があるでしょうけれどもね。目を閉じて痛みに耐えていると、ステージからみかと人形遣いの声が聞こえてきます。楽しそうに話せるようになってよかったですよねぇ。人形遣いも。なずなを失ってから、正確にはあのライブからぼくたちの間柄も大きく変化しているのですから。元気になったというよりも、また違う形になったというべきなのかもしれないでしょうけれども。そっと遠くから聞こえてくる声は比較的楽しそうだ。調整を行っているというのだけれども、みかの楽しそうな声がはねてるのを聞きながらぼくはうとうとと眠りの扉を開こうとしていたのですが。怒天髪を突くような声がして眠りの世界が遠ざかる

「影片!君は今日歌うな。あんなものにくれてやるものはない。」
「怒りは、世界を狭めますよ、人形遣い。何かあったというのだけは察せますけど、最低限の言語を手繰ってくださいよ」

忠告せども、人形遣いは擬音が似合うほどの怒り具合でぼくの声もみかの声も聞くような耳を持ち合わせていません。ただ、自分の世界とステージ構成を展開している。みかに歌うなと言うんですから、どういうった事情なのかは解りませんけど。人形遣いの喧騒で眠気がどこかに消え去ってしまったので、ぼくはゆったりと部屋の中を見つめていると人形遣いと目があった。

「小鳥、今日は君も歌いたまえ!楽器は要らない。」
「あーつまり、みかのパートをやれと。」

覚えているから構いませんけども、理由なく言われるのは少し納得がいかない。まぁ、演出についてぼくは言われたとおりにやればいい。そういう契約ですからね。喉の調子を整えますから、多少にぎやかにしますよ。そう伝えれば彼は渋々了承した。いや、してくれないと困るのはそちらですからね。ぼくは困りませんけど。とりあえず喉を整えるために喉を開く。とりとめもない歌から次第にクラシック音楽にまで昇華させていくのが負担も少なく通りも良い。ギリギリまで歌って衣装に着替えてステージに上がり、人形遣いが怒り散らした理由に検討がついた。観客たちと離れたところにいるそれが異質にも見えた。人が少ないから、舞台からはよく見えた。

「あなたという人は……!」

朔間さんレベルでややこしい問題を引っ張ってきますよね。ひきつる頬をなんとか取り繕いながら、歌う。目線を送れば反らされた。なぜ最初から言わないのですかねぇ。あなたの脳みそには豆腐でも詰まってるんですかね。こっそり移動の際に人形遣いの足を狙う。ヒールなので食らえば致命傷までには行かずそれなりに痛いのは過去に何度かやってるので、問題ない。みかにも言葉が足らずにずっと首をかしげてぼくたちを見ている。みかを中心後ろに据え左右にぼくと人形遣いでパフォーマンスを行う。…みかを未知なる武器として使うのにはまぁ悪手ではないと思うので、とやかくいうつもりはないですけど。あとでフォローアップするぼくの事も考えてくださいよ、ねぇ。澄まして笑い人形遣いに圧をかける。それでも、気づかないようにしてふるまうのでぼくは、あとで仕返しを画策するのですけど。ぼくが歌っている間に、みかと人形遣いがそっと会話をする。その音を拾いながら掴んだのは、今回は捨てる。という単語である。
…まぁわかりますけどね。今回の元凶であるそこに目を向ければ、ゆったりとこちらを見ているのがよく見える。まぁ、腹立たしいことで。
表情を張り付けたぼくが最後のサビに突入すると、人形遣いの音が入る。そこから音を紡いで、ぼくはみかのパートと自分のパートを混ぜて歌う。多少ピッチがずれたと思えば自分で調整できるので、そのまま歌いきると歓声が沸いた。その歓声がうれしくなってかみかがマイクを通して礼を言う。ぼくはにっこりわらったまま手のひらを見せて二度ほど振って、さっさと下がる、まだ舞台上でふたりはごたごたとしている。
やまない一つの拍手と首をかしげるみかを見て、ぼくはふたりをさっさと下ろすために再び舞台に戻ると同時に聞きたくない声が聞こえました。

「やぁ……『Valkyrie』の影片くんだったかな?」
「うひっ、目が合ってしもた!ど、どないしょ?お師さ〜ん、央兄ィ!」
「言葉を交わす必要なんてないので、下がりますよ。人形遣い、あなたも。」
「本当に君は愚図だね。出番も終わったのに、いつまでも舞台上に居座っているから魔物に行き逢うのだよ」

……そういうあなたもですよ。と口からこぼれた。我らの帝王は気にせずそちらに声を投げた。ぎろりとにらんでるので、ぼくが口を出す必要もないのでしょう。余裕の空気を出してらっしゃる先方は、ぼくらは同じ箱だとくくる。

「どの口がおっしゃられてるのかは、よくわかりませんね?お出口はあちらですよ?」
「観客を威圧するアイドルなどあってはならい存在だよ?」
「それは価値観の相違だね。それに僕は夢ノ咲学院の連中を仲間だと思ったことはない。」
「確かに、ちょうどよい小金の稼ぎ先だと思ってますけどね。取るに足らないほどの羽虫の一つ。ただ金を運ぶので益虫ぐらいにしか思ってませんよ。ねぇ、人形遣い?」
「唯我独尊だねぇ。かわいいなぁ。とんがっちゃってさ。」
「何か用かと聞いている、三度は尋ねないのだよ。」

三顧の礼を要求するほど思い上がっちゃいないよ。なんていう返事をして、彼の要望を聞く。話があるから食事をしながらしゃべらないか。という誘いを、ぼくが一蹴。カフェインもあまり取れてないので眠いんですよね。やってられませんね。

「だそうだ、貴様と長話するつもりはない。要件があるなら手短に、この場で言いたまえ。」
「とりあえず、場所を移動しましょうか。ぼくたち、まだステージですし。招きたくないので袖で話でも。」

面倒な来客アリスこと、珍客皇帝様を舞台袖に呼び出して、ぼくらの会話は火ぶたを切られようとした。




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