スカウト 氷上のダンス-3

撮影日当日。俺はテレビの仕事とバッティングしたので、多少遅刻することが決定した。撮影が終わると同時にタクシーをひっかけて慌てて現地入りすると、どうもセナの表情が硬い。話を聞くとりっちゃんとレオが来てないらしい。セナに今なるくんに先に撮影に入ってもらってるけど、文哉もスケート練習と着替えさせないといけないし。とセナが悩んでいる。まぁ、予想通りに予想を越えていく王さまなことで。と思いながら、俺はレオが居そうな方向を考えてみる。回りをみまわすが、珍しいものはそんなにない。さて、レオの思考を紐解いてみるか。

「俺も探しに行ったらスタッフとのやり取りとか、なるくんが終わったあと撮影もあるし。」
「瀬名先輩。あの、探すの手伝います。」
「ほんと、助かる。まったく、くまくんったらあんずより先輩なのに手をかけさせるよねぇ?」
「それを言うとレオもなんだけどね。ははっ」
「文哉の王さまレーダー頼りだからねぇ。真面目に考えてよ。」

思考しながらも、会話に混ざる。レオならば。とかんがえてると、たたき起こしてもいい。なんて撮影前のアイドルになんということをすんだよ。とか思いつつ、行動パターンを推測する。氷のキラキラが俺の霊感をー。いや、違うな。でも、たぶんそんな感じで動いてるだろうし、どっちに行きそうかはなんとなく思考できた。

「あっちのほうかな、すーちゃん。あっち中心にみてもらっていい?」
「わかりました。保村先輩の指示はかなり確率が高そうな気がします。」
「じゃあ気をつけて行ってきて。」

文哉も、さっさと着替えてきて。そこから一度滑れるか確認して、いけそうな王さま捜索隊に加わってもらう。オッケー。と返事をして俺はさっさと着替えに入る。がさっと一気に脱いで練習着に着替えてから脱いだものを畳んで俺の鞄の中に突っ込む。誰も見てないからやれる芸当なんだけど、出る前に水をある程度一気のみしてから、スケート練習に入るためにアイスリンクに降りる。この間わずか5分。保村文哉選手過去最速。とか自分でテンションを高めつつリンクに降りると瀬名の横に誰かいる。あんな金髪うちにいないけど。とか思いつつさっさとスケート靴を履く。あぁあいつ誰なんだよ。とか小さく叫びつつスケート靴が紐靴なのにちょっとイライラしつつ手を休ませない。いつもユニットのブーツで慣れてるけど、やっぱり紐靴嫌い。両足分やっつけてしまって、ビビりながら立つ。スキーとかスケートとか考えたやつ誰だよ。とか完全に八つ当たり。一枚の薄い板で移動なんて、ほんと不思議。ちょっとへっぴり腰になりながら、今度こそアイスリンクに立つと、瀬名とその横が俺に気づいた様でやってくる。

「ん?羽風?」
「文哉、滑れそう?」
「ってか、なんで羽風がいるの?」

『UNDEAD』もポスター撮影だって。そう。別に羽風に興味ないけど。ほんと文哉って『Knights』を中心にして回しすぎじゃない?俺たち卒業したあとはどうするつもりさ。とかお小言を貰う。いやねえ、依存とかそんなつもりないんだけど。でも、レオとセナが中心なのは間違いないので、否定はできないので、俺はしらを切って姿勢を整える。へっぴり腰なのが気取られないように、テコでも動かないつもりだが。立つことに慣れることから始めようと俺はそろっとリンクの壁外側に立つ。壁を持ちながら立つ姿勢をとっていると会話を続けている。。
よし、せなっち、一緒に撮影しよう、とか羽風が言い出した。いや、そうやって呼ばれる間柄だったか?なんでもいいけど。

「は……?かおくん、どっかで頭でもぶつけた?大丈夫?」
「アイスリンクにでも頭打ったんじゃない?」
「うん、至極まっとうな反応だけど頭をぶつけたわけじゃないから、安心してね。」

いや、だとしたら意味がわかんない。なんで一緒に撮影をしなきゃならない。する必要はないだろう。俺たちだけでやってる仕事だし。とち狂ったとしか俺には思えない。セナもセナで、そっちはそっちで撮影依頼があったわけでしょ?ダブルショットの依頼なんて入ってないんだから、一緒にとか言われても。とセナも断る体勢に入ってる。俺も尻馬に乗っかるつもりでいるし、譲るつもりはない。強いて言うなら煮詰めて食っちまうぞ、の勢いだが。それでも羽風は、そこは交渉次第っしょ、とか言って俺たちの仕事内容を聞き出そうとしている。
ともあれ、それなら交渉の余地ありかな、方向性が被ってる訳じゃないけど、お互いに強豪『ユニット』でそれなりのファン数を獲得しているし、『Knights』と『UNDEAD』のダブルショットなら部数が見込めるしね。依頼元にも悪い話じゃない。むしろ食いつく勢いじゃないかなー。と算段をとってるので、話を進めるな。と俺は言うが、そこまで相手にされてない。うん、俺写真の方向はメインじゃないからね。芝居専門。っていうか、一瞬で終わらない専門だから、とやかく言うつもりはないけど、よそと組むのはあんまり拒否したい。

「俺はやると言ってないし、そもそも俺が許可したところで王さまが、首を縦に振らないことにはどうにもならないんだから。」
「だよねぇ。レオがオッケーしたって、撮影はナルくんとセナの許可がいるの。」
「じゃあ、月永くんがうんって言えばいいんだね。スタッフの交渉に月永くんたちの説得とやること盛りだくさんだなぁ。早まったかも」

ならなかったことにしてくれない?と睨むが、羽風は文字通りどこふくかぜな感じで、スタッフの交渉からかな〜保村くん、嫌そうな顔してるけど。俺の話を振ったら秒で決まるよ。かけてもいい。と妙に自信満々で、俺はそんな羽風に呆れる。勝手にかけてれば。とあしらう。レオがオッケー出したら俺は仕事するだけだよ。それが立派な番犬の仕事だし。そんな後から出てきた顔だけの奴に負けるつもりはないよ。と俺は宣戦布告をかける。

「あ、なんてちょうど話してる間に来たみたいだね。月永くんと司くん、あんずちゃんもいるね。」
「今の間に文哉もこっち側においでよ。」
「そうだね、そうする。」

羽風の言葉に指刺した方向を見ると、棺桶を引きずってる。……あのなかにりっちゃんが居そうな気がしたけど、俺はようやくここで移動を開始して本格的にリンクに入る。思ったより真っ直ぐ滑れて、そろそろながらだけども、ちょっと練習したら普通に真っ直ぐ滑れそう。とか思う。でも言っていい?二度とはしない。やりたくない。怖いもん。よたよたと歩きながらセナの方にいくと、お礼なら保村先輩に言ってください。方向さえもわからなかったんですから!と俺を指さした。人をさすんじゃありません、と怒りつつも壁にへっつかまってるんだから説得力がない。なんとも情けない。

「文哉!文哉が俺の居そうな方向言ってくれたんだろ!ありがとう!愛してる!」
「怖いから突っ込んでこないで!!!!猛スピードで来ないで!!!!レオ!!!!」
「どうした、文哉?ビビってんのか」

びびびびびってなんかないやい。慣性の法則が怖いんです!!氷の上なんて俺は歩いたことねえもん!悪かったなインドアで!もうさっきのレオのスピードで、俺のテンションがバーン!!ってするから止めてよ。ギャーギャー俺が騒いでると、羽風がレオを連れてった。おい、レオ。お願いだから、断ってくれ。とかおもうんだけど、たぶん無理そう。俺は自分の維持に必死になってるので、そっちに処理対応できない。

「保村先輩、大丈夫ですか?」
「だだだ大丈夫じゃない。」

リンクには入ったが、ビビって氷の上からまともに進めない。むしろ腕力で移動してる説ある。そんなことを伝えると、保村先輩でも苦手なものがあるんですね。っていわれたけど、俺だって苦手なものぐらいあるわ。仲良くないやつの思考とか、完徹とか。羽風先輩の用事とはなんだったのでしょう?と会話してるとセナが遅いと言わんばかりにこっちに寄ってくる。ごめんって、悪かったって。

「俺はあんずが引いてきた棺桶の方が気になる。まさかとはおもうけど、そのなかでくまくんが寝てるとか言わないよね?」
「いや、多分言うだろ。」
「えぇ、そうなんです…」

転校生が言葉を濁すが、お前どうやって引っ張ってきたの。いくら、車輪だからって、女の子一人でひいていけるもんじゃあないだろ。くまくんの怠け癖ここに極まれりってかんじだねぇ。とかセナが呆れてる。ひっぱたいてつれてきても。なんてセナが言うが、転校生はアイドルの顔はひっぱたけませんよー。と逃げている。そんな二人のやりとりとみてすーちゃんがなにかを考えたみたいだけど、俺はそっちに突っ込む余裕はない。

「ぬわっ」

片足に体重をかけすぎたのか、がくっと足を捻る。氷に足の側面をしたたかにぶつけたが、壁を持ってたお陰で難を逃れる。大丈夫ですか?と転校生の目線を浴びつつ、俺は大丈夫、と答える。そのまま滑り出すの怖いなぁとかんがえたが、ふと一つ思い出して、セナに声をかける。「っていうか、これで全員揃ったならスタッフに連絡いれなくていいの?」そうだった。と思い出したセナは、ナルくんのところにいかないとと動き出す。おいてかないで!なんて声の出ない叫びをはなっていると、満面の笑みを浮かべたレオが帰ってきた。まって、俺の情報処理能力が完全に足りてない。陸地が恋しい!アイスリンクだけど!陸上だけど!笑いながら俺んとこ突っ込んでこないで!!!!お願い!!どん!と俺にぶつかって、レオはカラカラ笑うし、羽風もその後ろを歩いてやってきた。
わははは!お前ら、戦争の準備はいいか?平和だからって、武器の手入れを行っていないだろうな?腑抜けたやつはおれが弾丸を打ち込んでやる。と豪語してるが、俺はもうすでに死にそうになりながらセナにひっつく。

「もー文哉はすべれてないのに、王さまとびつかないの。戻ってきて早々にワケわかんないこと言わないでよ、俺たちの仕事は雑誌のピンナップ撮影で、ライブ対決じゃないんだからねぇ。」
「百も承知だ!カオルに『Knights』と『UNDEAD』のダブルショットはどうかって誘われたんだ。んで、話の流れでどちらがいいショットを撮れるかって話になって面白そうだしいいぞって許可を出した!」
「まじ!?」

俺やだったんだけど、レオが言うなら仕方ない。今から二回転ジャンプができるくらいにならなければいけない。ものの数十分でできるとは思えないが、やるしかない。そうだ、俺には今まで出来なかったことって思い返せばいろいろあるけど、やるしかないんだ。と自分を鼓舞しつつ、レオたちを見る。

「はぁ?巻き込まれる俺たちの身にもなってよ。ていうか、張り合う必要ないでしょ。結果は見るまでもなく明らかなんだし。」
「へぇ、それってどういう意味か聞かせてよ?」
「わかんないかなぁ。『Knights』には俺となるくん。現役のモデル、それからドラマでも主役を張るような文哉がいるんだよ。事務所には女の子もいるの、俺たちばっかり仕事がきてる。つまり、それだけ実力も経験もあるってこと。」

大人と子どものけんかだよ。戦争にすらなならい。かおくんはかおくんたちの仕事をまっとうして。ひとの仕事に口を挟むほど俺は俺たちはひまじんじゃないしね。と犬でも払うかのようにセナは羽風を追い払うが、羽風は羽風で笑って、煽っていく。俺も煽られて黙ってる温厚な犬ではないので、とりあえず売られた喧嘩は買ってやろうか、思うが俺はこっちが専門でないので。とりあえず滑るところからはじめて、ようやく喧嘩を売ったことを後悔させてやる。と一人意気込む。どうせ、セナもちょっと余計に燃えそうだし、すーちゃんが可愛そうだから一旦離れようと、動く、

「あとで話聞かせて、時間ないし、すーちゃんとレオと練習してくる。」
「保村先輩顔が怖いです!瀬名先輩のPrideに火をつけてしまいましたし!羽風先輩は瀬名先輩と保村先輩を挑発して、一体何を考えているのでしょう?」
「さぁな、わかることっていったら、今ので戦いの火蓋は切られたってことだ。」
「戦争するなら、徹底的にペンペン草も生えないぐらいに整地させなきゃ行けないし、とりあえずレオ。スケート教えて。」
「文哉がそういうの珍しいな!写真とっとけ!」

やめろ!!いらない!こんなへっぴり腰を撮るな!

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