スカウト 氷上のダンス-2


「お前だって十分物騒だ。」
「そんなことよりさ、そっちから来てくれたからお陰で探す手間が省けたよ。よかったね、転校生。」
「なんだ、おまえら。おれのこと探してたのか?」

もっぷで一通り歩き回った俺は、そのままモップをロッカーにしまう。ちょっと寒くて、寒い寒いとこぼしながらレオの横に入り込む。ついでに、スルメを口にいれる。セナに、あっ。とか言われたけど、いいの。スルメはカロリーほぼほぼないから。顎使いまくってカロリー消費してるから実質0。

「転校生がね、仕事の件で話したいことがあるんだって、俺と文哉はさっき話を聞いたけど、俺の一存で判断を下せないでしょ。」
「セナはそういうとこ律儀だよな。いやまぁ、リーダーに判断を仰ぐのは当然なんだけど。」

それでどんな仕事だ?と問いかけるレオの目は楽しそうに輝いてる。これはオッケーだしそう。とか思い、転校生とレオの話に耳を傾ける。炬燵の上に企画書が広げられて、順番に説明をしていくのだが、俺の予想通りにそういうのあセナや文哉のほうが詳しいだろ〜。と俺たちの意見を聞く体制に入ってる。
俺はいいと思うよ。依頼元が有名雑誌だし、知らない仲ってわけでもないしね。テーマも俺たち向けじゃん。断ったら他の『ユニット』に持ってかれるだけ。『騎士』の名前を譲ってやってもいい、なんて『王さま』だって、思わないでしょ?そのと〜り、おれたちの騎士道精神を。
レオとセナの話を聞きながら、これ断ったらどこがいくんだろう?と考えてみる。色合い的に考えるなら、天祥院のところだろうか、そう考えたらちょっとムカつくかも。っていうか、言うだけで腸煮えそう。

「レオ、やろう。雑誌って久々だし。いいんじゃない?他にもってかれるのは嫌かな。」
「文哉、どーした?顔が怖いぞ」
「べっつにー。断った場合について考えてないから。で、転校生。場所は?」
「アイスリンクで撮影を予定してますよ。」
「学校の近くに、アイスリンクなんて。ぁ、冬季期間中だけ遊園地の近くのアイスリンクが営業してたっけ。」

頭の中で地図を思い浮かべるが、あんまりうまいこと思い浮かばない。まぁ、前日に調べたらいいんだけど。机の端にまとめられていた俺の書き物たちを鞄の中に納めて、俺はあらためて企画書を眺める。ねぇ文哉はスケートやったことある?と聞かれて、頭の中で過去を振り替える。ローラースケートの経験はあるが、アイススケートとは違うのだろうか。小さな頃に子役同士集まって行ったことがあったが、あんまり覚えてない。もしかすると本ばかり読んでたとか、立て看板を読みまくってたとか、俺ならそんなことしそう。っていうか、転んでアザつくったら大変とか言われて休んだ気もしてきた。

「…たぶん、やってないと思う。転んでアザがーって言う話がうっすらあるから、たぶん。」
「へぇ、文哉でもやったことないことあるんだねぇ。」

いや、俺だって人の子だからね。と返事をすれば、テレビで見ない日がないっていうぐらいの人気子役だったのに。と溢されるう。いやいや何年前の話だっての。という俺の突っ込みは流されて、そのままセナは考えを深めていく。なんでもいいですはい。
なるくんはスケート経験があるし、くまくんも大丈夫じゃないかな。かさくんはどうか知らないけど、なんなら文哉も纏めて俺が教えてもいいし。王さまは滑れるの?氷の上を歩いて渡ったこともあるから問題ないだろー。それに転んだら文哉が手ぇ引っ張ってくれるって信じてるからな。なんで俺なの!?とりあえずよくわかんないけど、俺は早急にマスターしなきゃいけないようだ。いけるのか?

「任された仕事は最後までやりとげる。王さまは曲作りでこそ華々しく咲くけど。俺はモデル業界に一家言あるからね。誰も俺の前に立たせない。蹴散らしてやる。」

レオはそれを聞いて、頷いてるので俺は隙を見て追加のスルメを鞄から取り出して机の上に広げていく。ついでに賞味期限のあやしいりっちゃんのお菓子も。大好物とかいってるやつは避けておく。触らぬ好物祟りなし。転校生の前にも差し出して、食えと伝えておく。りっちゃんのだし、怒らないって。怒られたら?あとで俺が三倍にして返してやる。

「あんたの存在そのものがミステリーだよ。まったくもう、アホな王さまに付き合ってたら俺までアホになるでしょ。」
「じゃあ、そんときは俺も一緒ね。」
「バカ言わないの。ともあれ、協力するっていうなら仕事場で馬鹿はやらかさないこと。あんたは俺たちのリーダー。つまり『Knights』の鏡なんだから。」

手本になるべき人物だってわすれないでよ。この仕事を俺たちに依頼したあんずだって迷惑がかかるんだからね?とsしっかり釘を指してる。レオはちょっとは信用しろよ。おれを。っていうか、お前たちの『王さま』をさ。セナは忘れてない?だいじょうぶだって、立派な番犬だっているんだよ。とレオのフォローなんていくらでもしてあげるよ。今までみんなのフォローするのが俺の最大の仕事だよ。もうすぐ春だし、こうしてみんなで何回お仕事出来るかわかんないんだもん。

「文哉って、最近そういう顔すること多いよね。」
「ん?なに?どんな顔?」
「そういう顔は恋愛ドラマ撮ってる時かライブ終わるぐらいにでもやってよね。俺たちにそんな艶っぽい顔してもだめ。」
「んん?」

俺、今幸せだな。しか考えてなかったんだけど。なんで?どんな顔してた?と転校生に聞くと、顔真っ赤にしてそっぽ向かれた。ちょっと!なんで!?わははは、文哉が混乱してる。珍しいなー!とレオが笑うけど、俺今どんな顔さしてたの。っていうか、そういう顔ってどういう顔さ。なんだよ。恋愛ドラマだって今度出るわ。なんだよ。このやろう。と俺は心の底で呟く。俺の疑問に誰も答えてくれないし、そのまま話は流されるのであった。

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