スカウト 氷上のダンス-1

スタジオで好物のスルメを食べつつもそもそと書き物の仕事をこなしてるとセナが、もうと声を荒らげた。なんだ?と思いつつ視線を動かすと、私物が多いと怒っている様子だ。まぁ、炬燵が持ち込まれてる時点でアウトだと思うんだけどなぁ。健康器具誰の!?とかいうけど、たぶんそれりっちゃんかナルくんだよ。俺はいつもゴミ持ち帰ったり教室で捨ててるもん。出るはずがない。出ても髪の毛ぐらい。

「マジでスタジオを家だと思ってるでしょ、特に文哉!色んな所にスルメ隠してるでしょ。」
「そんなに最近は隠してないよ?。」
「王さまなんて何をとちくるったのか『セナハウス』とか言ってくれるしぃ、俺の家はこんな生活臭が漂うような空間じゃないんだけど。」

セナの家はセンスいいもんねぇ。とカラカラ笑ってやると、あんたはスルメ食べ過ぎ。と雷が落ちる。そのままセナはある程度の断捨離を行うみたいで、手近い俺の作業用机から手をつけてるようだ。飲みかけのお茶があるし!飲みっぱなしにするなってあれほど言ったでしょ!と俺に当たってくる。いや、当たられるのも当てられるのもなかなか慣れてるのでいいんですけど、そのまま書き物を続けようとしたが、セナに文哉も手伝え。と言われたので、仕方ないねぇ。とこぼしつつ片付けを手伝うために重たい腰を持ち上げる。明らかに要らないものをゴミ箱にまとめてると、転校生が顔を出した。今顔出すなんてタイミング悪いなぁ、とか思っていると、セナに見つかった。

「ふたりで、どうして掃除をしてるんですか?」
「この状況を見てわかんないかなぁ?お菓子の空き袋や空き缶がそこらじゅうに有るでしょ。」
「誰もかたづけないからセナがプンスコしてるの。」

手伝いましょうか?お二人で時間かかりそうですし。とか転校生が言うがセナは身内が出したゴミだから、やる必要はない。キッパリ断ってる。それに文哉もいるし、気にしなくていい。と足してる。うん、俺そこまで戦力になるつもりないんだけどな。要らないものを全部文哉ブルドーザーで全回収するから、俺の掃除はセナには好評、それ以外は不評なんだよね。まぁ、だっていつか使うなんてそんな日来ないよねぇ。なかなか。来たらラッキーぐらいでいいんだってば。セナと転校生の話をきいてると、そのまま手伝いますね。と俺の袋を転校生が奪ってた。いや、あんた耳ついてる?

「ちょっとぉ、人の話を聞いてた?しれっとした顔して文哉の仕事を奪わないの。あんたの仕事大好きはもはや病気だよね。」

まぁ、どうしても手伝わせてって言うなら無理には止めないけど。お礼にお茶ぐらいいれてあげるよ。お菓子もね。文哉のだけど。
勝手に俺のスルメが使われてるのは解せないが、あいにくこのセナスタジオにはかなりの量をへそくりとして隠してるので、問題はないけどさ。りっちゃんのお菓子もちょっと混ぜといてやろう。と計算しつつ文哉はプラスチックゴミ全部回収しといて。とセナからオーダーが出たので、俺はその指示通りに新たなゴミ袋を手にして、ブルドーザー気分でがっさり部屋を片付けていく。がさがさと袋と俺たち三人で動いてたが、ちょとセナが何か考えてる様子だった。そんなのを視界にいれつつ、ゴミ袋一つ目を満杯にする。入れすぎたら重たいので、次の袋を開ける。耳だけはフル稼働させながら、目下のお仕事に注力する。

「そういえば、あんたがここに来た目的を聞いてなかったよねぇ。文哉みたいに仕事しに来たわけでも、寛ぎに来たわけじゃないでしょ?」
「そうなんです。『Knights』に合いそうなお仕事があって、」
「やっぱり、そんなことだろうと思った。」

転校生経由で仕事の依頼が来ることも多くなってきたし、『プロデューサー』として認められてきたって証拠でしょ。で、仕事の内容は?ええっと……。『氷上の騎士』をテーマにした雑誌のピンナップ撮影です。依頼がここの雑誌で。あぁ、そこなら事務所を通して仕事をしたことがあるけど、有名雑誌だから報酬だってかなりいいでしょ、ね文哉。
どこって言ってたっけ?ほら、あの去年文哉が表紙やったところ。あぁ、あそこね。セナとナルくんがオッケーだしたらレオもオッケーすると思うよ。レオだし。まぁ悪くない仕事だし、俺から王さまに話をしていいけど?まぁ、あの『王さま』を見つけるまでが一苦労だけどね。文哉、どこにいるか知らない?んー教室には居たけど、放課後どこ行っただろうねぇ。学院内だとは思うんだけど。部室か猫と遊んでんじゃないかなぁ。わかんないけど。
会話をしつつ、手は止まらない。っていうかりっちゃんのお菓子のゴミとすーちゃんの駄菓子のゴミが多い。りっちゃんはゴミにゴミをいれる感じだけど、すーちゃんは小さな袋にまとめて入れてくれてるのでまだよい。ちょっと口が寂しいので、こっそり鞄から新しいスルメを取り出して口に入れ込む。うまい、このコンビニの新しいスルメ。案外行ける。ついでに、ゴミを混ぜて二つ目の口を縛る。2つ出来上がったので、一旦外に出しておこうと荷物をもって立ち上がるとドアの方に人影をみつけた。あの形はたぶんレオだ。

「とにかく俺らの方でも『王さま』を探しておくから、お互いに見つかったら連絡をとるってことでいい?」
「探さなくてもよくなったよ。セナ。」

俺ががらがらとドアを開くとレオがちょうどそこに立ってた。開いた瞬間俺を見て、そのまま部屋に、炬燵に一直線。ふぃ〜っあったかい!外とは雲泥の差だっ。入った瞬間に寝転がっておれはここに永住するぞー。と宣言している。相変わらずだねぇ、と溢してプラスチックゴミをそのまま外に出して、ロッカーからモップを取り出す。セナとレオがああだこうだと言い合うのを聞きながら、端からモップを走らせる。

「文哉、タオル!」
「はいはい、鞄の中に入ってるからとって〜。」
「どうして中に入ってくる前に雪を払わない訳ぇ?スタジオがびしょ濡れになるでしょ!」
「う〜む、苛々してるな。カルシウム不足か?口喧しいのがセナだからな、いつも通りと言えばいつも通りだけど。」

あ、わかった!あんずと仲良くお喋りしてたのに俺が登場して邪魔された気分なんだろ?お兄ちゃんだもんな、妹に悪い虫がついたら排除しあいと、むしろ生まれてきたことを後悔させてやる!そうだな文哉。
いや、そんな物騒なこと言われてもこまるんですけど、俺一人っ子だし、そんな兄がどうとかわかんないって。セナだって、レオの妹ちゃんと重ね合わせたり……遊木相手にしてたな。うん。言うとひどくなりそうなので、黙っておくが。お前も十二分におにいちゃんだよ。セナ。普通に過剰だけどさ。だいぶ、いや、、かなり。とんでもなく。ううん、間違いない。絶対にだ。あいつ、りっぱにお兄ちゃんしてるよ。ベクトルはレオと完全にちがうけど。
俺のタオルを使って、セナがレオに積もってた雪やらを一気にとる。マイクロファイバーだからすぐ乾くしいいけど、なんでセナは俺のタオルにしたの?

/back/

×