スカウト たまゆら-1

昨日は夜中まで、撮影だった。うつらうつらしながら帰宅したせいか、何時だったかも記憶してない。そろそろお疲れなのかもしれない。胃が主張して気持ち悪さで目も覚めた、そろそろ学校に行く時間だ。寝たりない体に鞭打って、電車通学。人混みにゆられながら思い浮かべるのは書き仕事のネタ出し。なんだか寝不足のせいか思考がうまく連想つかないまま電車は学院最寄りにスッとはいっていく。電車を降りたら春の足音がしてた。寒くて少しびびった。ぼんやりしながら学院の警備を抜けて昇降口まで行ったとき世界が回る。
立ってるかもわからなくなって胃から込み上げる不快感も同時に襲ってくる、廊下の隅に移動して息をついたはいいが、目の前がぐるぐるしていて真っ直ぐになってる気がしない。けれど、学院の中。身内以外は好きじゃない。俺の過去の経験からこういうときに限って、無駄に変なのが寄ってくるのを知ってるから、耐えなければいけない。煮えたぎるような胃を押さえながらゆっくり歩いていると、廊下の向こう側からうるさい声が聞こえた。本能的に『Knights』じゃないと嗅ぎとって、下を向いて毅然と歩いたが二歩でダウン。
先程よりもひどい目眩がやってきた。壁に手をついて頭を押さえていると、あれ?なんて声が聞こえる。誰かを確認する余裕はない。
良いから放っておいて。それだけ言えど、相手は俺の手を掴んでどこかに連れだそうとしている。やめろ、触るな近寄るな。声になってるかはわからない。ぐるぐる回る視界に突然大きな手が見えた瞬間、とても冷たい手が俺の額に触れた。真冬の氷みたいな冷たさで、ぐるぐる回る視界が一瞬ピタリと止まった。
視界に俺の真ん前に仁兎、鬼龍と関わりたくない人物たち。それと同時に胃がまたうねりをあげ、不快感を主張する。

「保村ちん、とんでもなく熱いぞ」
「ほっといて。関係ない」
「関係ないはねぇだろ。保村。」
「煩い。黙って。」

今日の放課後にライブの打ち合わせがある。俺がいても、まともに話が進まないんだかろ居なかったらもっと話が進まない。だから、出るんだ。ほっとけ。耳もちゃんと機能してなくて、さっきまでクリアだったのに、もう、ぼやけて聞こえる。俺はこのしばらく今日の打ち合わせを楽しみにやってきたのに、邪魔をしないでくれ。と淡々と呟きながら教室に歩き出そうとする。呼ぶ声を無視する。教室で睡眠学習でもすれば、おそらく放課後か昼休みまでにはなんとかなるだろうし。ここで帰るわけにはいかない。聞き取りが、うまいことできないから思考をつまびらかにして歩く。まるで熱に浮かされた戯言のように繰り返し言葉を吐き出して歩いていたら何が現実か夢かわからなくなってきた、顔も覚えてない俺を利用した先輩たちが何かを言っているから、ひとりにして欲しい。放っておいてくれ。何でもやるから、心臓だってどこだってやる。

だから、俺の記憶の宝物を消さないでくれ。初めて友達だと思ったんだ。レオとセナがとの記憶だけ、それ以外いらない。それ以外なら何でもあげますから、俺の前から消えてなくなれ。

言葉と同時に目が覚めた。ぼんやりとはまだしてるし気持ち悪さも多少あるが登校中よりましだ。まわりを見回すとスタジオで眠っていたようだ。……スタジオに移動した記憶はないんだけど。時計を確認するために体を起き上がらせると時計はチャイムを鳴らす。時計とあわせて確認するとちょうど昼休みが始まるチャイムで、昼飯は後にして書き仕事を片付けようと立ち上がったら、すーちゃんがドアを開けた。視線がかち合った瞬間に、まだ寝てないとダメですよ!なんて言いながら、俺の額と重ねて温度を計って寝床に突っ込む。

「まだ、熱があるじゃないですか!鬼龍先輩が消化の良いものを準備してますから!それまで寝てください。」

俺は、どうやら自由にしてくれ一人がいい。置いていってくれ。『チェス』以外の死場所が欲しい。と言いながら、這いずる勢いで教室に行こうとしてたらしく。通りすがりの仁兎と鬼龍が、見てられないとご丁寧に意識を飛ばしてくれたらしい。通りすがりのすーちゃんが、仁兎たちとであったがために、近くだったスタジオに突っ込んでくれたようだ。事細かく報告を受けて、「ですから、寝てください。」なんてきつめに言われた俺は丁寧に改めてりっちゃんの主不在寝床に押し込まれた。仕方がないので、俺がすーちゃんに鞄を漁ってもらい解熱の薬をもらって、飲み込む。一時間か二時間したら熱もある程度収まるだろう。

「そう……ねぇ、眠気がこないっていうかさ。今寝るとろくな夢を見ない気がするから、すーちゃんの気になるようなお話があるなら俺が語ってあげるよ。」

この間のライブも、『ジャッジメント』も頑張ったご褒美。というにはおこがましいけどさ。何も結局俺はできなかったから、お礼を兼ねてさぁ。そんな旨を伝えれば、すーちゃんはピクリと反応を示した。二年生たちはそれなりの事情は知れど俺がどうやってきたかなんて、細部までは知らない。レオたちも多少は知ってれど、どんな状況だったかなんて知りはしない。派閥は違うのだから全容は把握できてないだろうし、それにあのライブからあとはどうやってたかなんて誰もろくに情報を得てないはずだ。

「俺が知ってて、すーちゃんの知らないことなら、なんでも教えてあげるよ。」
「では、私は」

あなたの事を知らないです。『Knights』の番犬というあなたについて、私たちを、いいえ『Knights』をどうして我ら『Knights』を選び愛しているのかを教えてください。いろいろ教えていただいたことはあります。けれども、私は、あなたをよく知らないのです。ですから、これを期に教えていただきたい。
ちらりと横を見ると、真面目な色がこちらを見ていた。基本は黙るけど、まぁいいや。なんだか今は気分が良い。

「そっか。じゃあ、手を繋いでてよすーちゃんの手が気持ちいいからさ。熱冷ましにちょうどいいいし。」

寝転がった俺の手が目の前ですーちゃんの手と重なる。俺と同じぐらいの身長なのに大きな手だとかぼんやり思いながら、正面を見て、寝落ちるためにもう片方の腕を使って、自分の目を覆った。真っ暗な闇だ。人の気配も分かりにくい状態をつくって、息を吸ってから言葉を選び初める。熱で言葉はぐだぐだかもしれないけど。俺から見た俺の高校生活。今の『Knights』からしたら、ただの裏歴史だよ。『Knights』になる前の話。『Knights』になる前、『チェス』だか、なにかになるもっと前の話を。


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