レクイエム*誓いの剣と返礼祭-02

そんなこんなで、『Knights』の掲示板にすーちゃんを見かけなくなって、一週間。
俺のところにもレオが訪ねてきたけれど、俺はなんでもかんでも知ってるわけじゃあありません。身近な人である程度の思考がわかればまねることはできるけど、すーちゃんの思考トレースなら大体来るだろうから、来ない今がイレギュラーだからわからないんですー。全知全能の神でもないの、俺はただの売れてた高校生なの。
とりあえずの仕事をりっちゃんとナルくんには仕込んでおく。まぁ、どちらもある程度経験あるので教え込むことはないんだけれどもさ。

「文哉ちゃんのところの部活は追い出しとかないの?」
「文芸部は俺一人だからねぇ。最後の冊子を俺用に発行して終わりかな。脱稿もしてるし、出来上がり待ち。」

だとか、他愛なことをしながら俺は毎日をすごしてるわけなんだけどさ。じゃあ文哉ちゃんの追い出しは盛大にやるわね!ってナルくんが意気込んでいるんだけど、別に俺はいらないよ。と告げれば不思議そうな顔をしてる。俺はそこまでここに居た訳じゃないし、一人になりたいから一人の部活を進めてただけだし。あぁ、あとは幽霊部員なわけなんだけど、それはそれ、これはこれ。簡単な引継ぎをしてから、ナルくんと別れたりして俺は俺でいろいろ動いてた。ふと集中力が切れてしまって色々考えてると、頭の端に夢ノ咲に入った当初を思い出した。
あの人たちは、幸せだったのだろうか。今の俺のように。ベクトルが違えど、誰かを消費して楽していきてたのが。…俺もまた誰かを消費しているのかもしれない。はたまた俺自身をまたすり減らしてふみや文哉の仮面を使って、生きてるのかもしれない。そう思うと、俺はもっと早くにレオやセナと出会って居たかったな。ってほんとに思う。それさえなければ、レオも壊れずに、俺も廃れずにいたのだろうか。たらればなんてしないほうがいいんだろうけれども、俺の頭の中は加速してる。

「…もっと、早くに会えてたらな。」

きっとそれは幸せなことだったんだろう。いや、でも彼らと『Knights』と会えて、一年。一年あったのだ。それこそ奇跡で、幸せじゃないか。メンタル不安定だったこともあったけれども、幸せなんだろう。ぽつりとつぶやいた言葉が、自分の心を腐らせていくような気がして、思考しない様に意識しても悪化していくばかりだ。明日も早いのだから、と思って帰ったのは昨日の話だ。
俺の頭の中に楔のような後悔だけが突き刺さっている気がした。おれはずっとこの一年を大事に抱えて生きていくのだろうなんて思う。
いつものスタジオ定位置で俺は原稿を広げながら、昨日のことを思い出してた。影のように足元を揺蕩う記憶に辟易しながら、ため息をついていると、すーちゃんが胸張って入ってきた。一瞬視線を上げてみると、レオの膝の上で転校生が眠っている。今眠ったことろだから静かに、とアクションして喚起をしている。
ぼんやりとすーちゃんとレオの光景を見て、そろそろ打ち合わせが始まるのかと書類を片付けし始めて鞄から俺は贈り物用の荷物を取り出した。全員のイメージに合う万年筆とインクにした。髪色にしたけど、結構俺は気に入ってる。
すーちゃんとレオが激しく会話をしてるので、ぼんやりとやり取りを眺める。りっちゃんが煩さで目が覚めたのか炬燵の中から顔を出した。おはようと声をかけると欠伸交じりに返事が返ってきた。にぎやかなのはすーちゃんのおかげかな?なんて言うからそうだろうねぇ。と俺はいつも通りを装ってそうだねぇ。と返せばじっと見つめられたが居心地悪く顔を反らした。
誰にでも取柄はあるな〜。でもまぁ、戦う集団である『Knights』に賑やかしのラッパ隊は必要不可欠ってわけじゃないんだけど。なんてレオがつぶやくと同時にナルくんが急いで部屋に飛び込んできた。
おつかれ、と声をかければセナと一緒に来たみたいだ。ちょっと疲れたと言わんばかりの表情でいる。国内関係者にあいさつ回りをしてたみたいだ。がみがみ怒っている様子は久しぶりに見たなぁ。なんて思いながら、モデルをやってる二人を眺める。逆転してる立場に俺はクスクス笑う。

「よぉし、おしゃべりはそこまで!みんな注目〜!これから大事な話をするので、お口を閉じて静聴しろ!」
「ん。何々?」
「軍隊?今の俺たちには似合いもしないよ、」
「うん、セナうるさい!いちいちおれが何か言うごとに口をはさむなっお母さんか!?」

お母さんじゃないけど、今日はすでに疲れてるから『大事な話』って何?と促している。ちょっと唸ってから、レオは言葉を紡ぎ出した。

「おれたちは今日まで全力で走ってきて、その勢いのままお別れの日を迎えようとしているわけだけど。それでも、そこそこのハッピーエンドにはたどり着けるかもな。これは単なる願望じゃなくて実感に基づいた確信だ。今の俺たちなら口を開けてるだけで幸せが飛び込んでくるはずだよ。アイドルとしては成功し、『Knights』の名声はうなぎ登り。誰が今後『王さま』として、率いていっても順調に判図を拡大し、それなりに平和を末永く王国を築きあげたはず。旅絶つ俺たちも居残るお前らも、それぞれの夢を叶え、自分の求めた戦場で各々が成果を上げただろう。」

そこまで言うレオにいい思い出はない。俺のメンタルがちょっとまたぐらついてるところにジャッジメントなんて持ってこられた日には俺はもう死んでしまいそうだから、俺は聞きたくないとも思った。やだ、俺の大事な記憶がおろし金で削られていく気分だった。

「んで、たまに気紛れに合流してかつての仲間と旧友を温めあう。そんな幸せな日々がもう何も考えず何もしなくても訪れることは決まってる。神さまが与えてくれた運命だなんて言わない。おれたちが自らのちからで勝ち取った栄誉だ。『Knights』は強い、これまで何度も苦難を乗り越えて心身を鍛え上げてきた。それは素直に称賛するし、尊敬もしてる。そんな栄えある騎士団の一員で居られたことを光栄に思うよ。でも、おまえら、本当に、それだけでいいのか?」

そんな図書館に並んだ本を開けばたいてい乗ってる結末にたどり着けただけで、ほんとの本当に満足か?他人を踏みにじり血にまみれ、罪を重ねてきたおれたちは、そんな小市民的な幸せを手に入れただけで果報者だとも言える。あくまでも、『おれたち』はな。でも、『おまえ』は、本当にそれでいいのか?
そこで、俺の思考がいったん止まる。考えろと思考を巡らせても何をしてもジャッジメントにしか走らない。互いの怨恨を出すだけのライブであって、これではない。だけれども、俺は知らない。なにを望んでいる。俺は思考を巡らせれども、答えは出ず。レオはまだまだ喋り出す。
すーちゃんを奇跡だと言いながらも、一つ言い出した。

「物語を再び始めたおまえにこそ終末を選ぶ権利がある!リッツ!ナル!おまえらもおまえらだっ、物わかりのいい大人のふりして優雅に構えるなよクソガキのくせに!」
「…レオ?」
「余裕ぶるのは格好良いのか?おれはちっとも全然そんな風には思わないっ、馬鹿じゃないのかって笑い飛ばして便所の水に流して捨ててやる。」
「便所言うな。」

多分俺の突込みは間違っているのだろう、そのままレオは話を進めている。りっちゃんもナルくんもあんまり状況が解らないでいる。から様子を見ながらレオに疑問を投げかけて居る。

「はいぃ!?寝ぼけてるのかよおまえら!さっさと起きろよ、朝ですよっ、黄昏を経て長い夜を超えて待ち望んだ朝が来た。偶然でも何でも生き延びて、おれたちの新しい一日が始まってる!そう!おれたちの話をしてるんだっ、おれは最初からずっとずっと!」

要領得て来ないぞ…。レオは何を考えてるのか俺には分からない。『Knights』の話をしてるんだ!おい、聞いてるのか!セナぁ!と言うから俺は何故か改めて居住まいを正してレオに向き合う。

「おれのいちばんの理解者って顔をして、ちっとも何にもわかってない愚かなセナ!お前も聞け!」
「き、聞いてるけどぉ?何なの急に、ついに壊れたの?『れおくん』……?」

セナが恐る恐る投げた疑問を弾き返すかのようにレオが壊れてない!と主張する。
お前らが拾い集めて治してくれたからっ、塀の上から転がり落ちたハンプティ・ダンプティはこうして今日も何食わぬ顔で生きてるぞ!でも!それももうおしまい!奇跡は有効期限切れ!ぷいっと顔を反らして、そこでレオは核爆弾並みの問題を投げ落とした。

「おれは夢ノ咲学院を卒業すると同時にアイドルを辞める!」

寝耳に水と言わんばかりに動揺が部屋中に走ったのは解った。セナは困惑しながら、レオに本気で言ってるのか問うけれど、俺の耳には素通りしていった。

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