レクイエム*誓いの剣と返礼祭-03

「ほいほい前言撤回しないでよねぇっ、付き合うこっちが混乱するんだから!」
「じゃあ付き合わなくていいぞ!つうか、誰が付いてきてくれって頼んだ?大きなお世話だ!おれは引きこもって好きな音楽をつくって、それで満足していたのに……おまえらが引きずり出したんだ!それで王冠かぶせて玉座に押し込んで『これがあんたの望みでしょ?』って訳知り顔で言ってのけた!ふざけんなよ!文哉」
「……えっ……」
「俺の影ばかり求めて、お前は何だ?何様だ?おれはもう怒ったぞ、おまえらが大好きでその気持ちがうれしくて我慢してきたけど、もう限界!おれはアイドルを辞める!今後は好きな音楽を作曲しながら暮らす!」

……衝撃が強すぎて眩暈がする。下ってどっちだ?とか思いながら俺は回りだそうとする視界を制御して、レオの方を向くと同時に、音を拾う。

「『Knights』も解散する!誰も王冠を受け取らないから今でもおれが『王さま』だっ、その権限で解散申請書を提出する!おまえら、今更文句は言わないよな?」

おまえらは自分の賢い頭で考えず、責任をぜんぶおれに押し付けて、それでよしって思ってたんだもんなぁ?これはおまえらの罪だ。おまえらのせいだぜんぶぜんぶ!かなしいことがいっぱいあって頭のおかしくなったおれに、もうとっくに『まとも』なことをかんがえられなくなったおれにいつまでも王冠をかぶせておくから!夢見た千年王国は歴史が始まる前に瓦解して、あとにはキラキラ輝く星屑だけが残る!後の事はしらん!スオ〜もナルもリッツもセナも文哉も、勝手にどっかで野垂れ死ねっ、ううん。おまえらはしぶといから結構意外と生き延びられるだろ!?しんじてるよ!
聴きたくなかったけれど、それがレオの気持ちなら俺は止めない。きっとこうやって言ってるのがセナだろうが、りっちゃんだろうがナルくんだろうが、すーちゃんであろうが、俺は彼らを止める権限はない。彼らは彼らで俺は俺だから。でも、これは止めるべきだろうと俺が口を開きかけたけれども、それよりも先にレオの言葉が続く。

「おまえらなんか大嫌いだ!ずっとずっと大嫌いだった!おれがいやがることばっかりして、それで満足そうに笑ってた!おれはずっと気に食わなくて腹が立って仕方がなかったけど、強いお前らが怖くて泣き寝入りしてた!でも、それももうおしまいだ!おれは卒業まで命からがら逃げ延びた!ここから先は自由っ、おれのような天才にしか切り開けない荒野に名曲という花の種を蒔く。おまえらのことなんか、あとから振り返った歴史家も誰も名前を上げないぞ!それでもべつにいいだろ?無個性な、名前のない一個人としての幸せがお前らの希なんだもんなぁっ!?」

おれはちがう!おれはモーツァルトだ!バッハだショパンだベートーヴェンだ!おまえらは、そんな天才が書き残した名曲を聞いて涙を流すだけの無個性な大衆になってしまえ!それで忘れ去られてしまえ!苦に滅びて山河ありっ、きっと地球や神様は覚えていてくれるんじゃないか!?知らんけど!話は以上!あぁ、スッキリした!やっぱり我慢はよくないなっ、ぜんぶ吐き出して身軽になったから俺は自由に新天地に羽ばたいていく!誰もついてくるな!鬱陶しいから!

「何だ『Knights』って、狭いチェス盤の上で自分の役目を果たしきれば満足ってか?つまんない連中だな!ばいばい!もう二度と会うことはないだろうから、この瞬間に名前も忘れてやるよ!お前は誰だ!おまえもおまえもっ、おまえもだっ!おまえたちは誰だ!?」

知らないやつら!おれと関係ないやつら!あばよっ、せいぜい狭苦しいちっちゃな世界で凡人としての生涯を全うしろ!これが『王さま』からの、おまえら誰かわからないやつらへの最後の命令だ!わっははははあははは!
レオが嬉しそうに笑うのがゆがむ。りっちゃんが俺の名前を呼ぶから、そこで今おれは泣いてる。と気が付いた。そして、俺の涙でか視線が集まった。一瞬レオがギョッとしたのを俺はみた。皆がおれをみてるから俺しかみてない一瞬の表情だった。それでもまたすっと目が細くなって、言葉のナイフを刺していく。俺の涙を見てか、ナルくんが声を荒らげた。

「何処に行こうっていうのよ!?言いたい放題いってくれてさっ、酷い事ばっかり、文哉ちゃんを泣かせて、それで黙って帰れるとおもってるんじゃないでしょうね!」
「ナッちゃん、そのまま『王さま』をおさえつけといて!出入り口は俺が塞ぐっ、このまま返すわけにはいかない!セッちゃん、ス〜ちゃん!何をぼけっとしてるの、いつもみたいに言いかえしてあげなよ。!」
「えっ、でも、しかし?私、何が何だか…?」

戸惑うすーちゃんにナルくんは『王さま』らしくない!こいつは偽物!あるいはぜんぶ嘘!だとかいうけれど、俺にはそうは思えなかった。……レオ、今まで気づかなくてごめんね。ずっと悲鳴を上げてたの……?……犬の方が敏いとかいってたけどさ。俺はまだ人間だった。気持ちは意識は人だった。ナルくんが羽交い絞めにするから、レオは誰かもわからないおまえと叫んで、的確に人のウィークポイントを刺していく。

「おまえは誰だ?昔ルカたんと見たテレビで見たことある気がするぞ!誰かの帰りを待ってるみたいだったけれど、そいつもう戻らないから、待ってても意味ないぞ!」

綺麗に笑いながら言うレオを見てれなくて、立ち上がる。そっと、俺はりっちゃんの横をすり抜けてから一気に駆けだした。なんで、どうして?このタイミングで言うの?ぐちゃぐちゃに塗りつぶされた気持はどうしたらいいか解らない。どこまでも綺麗で大事な記憶に鋏を入れられた気分で、まるで俺の世界が壊れていってる気がする。足場から、そして最後は記憶までズタズタにされてどうしたらいいのかさえもわからない。おまえたちだけだったのに、俺を消費してもいいと思うほど愛したいと思える存在が。スタジオを出て一発目の角でセナの声を聴いた気がするが、誰の声も聴きたくなかった。

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