レクイエム*誓いの剣と返礼祭-01

ライブが終わってスタジオに戻ってのたのた着替えてると、後ろでレオが笑ってる声がした。いつも通りに終わって、良かった。と思う反面、こうやって六人でライブできるのなんて残り少なくなっているんだろうなぁ。と俺はひそかに思った。残り二週間ぐらいで返礼祭だ。後輩主体のライブ。それだけを聞くと、もっとなんだかいろいろできたのかな?とも今になって思ってしまう。

「大成功ってほどじゃないでしょ〜、良く言っても『いつもどおり』じゃなかった?」

平均以下かも、いくら俺たちの調子がいいって言ってもさ。それで慢心のケアレスミスが増えてるようじゃ文哉が居れど先行は暗いからねぇ?フォローの塊になりつつある俺の仕事だ。それには誇り持ってやってるし、最近ではメインなんかいらない、後ろで皆を見ていたいとも思ってるのでまぁ、役得と言うべきなのかもしれない。

「ちがいます〜!『大成功』じゃなくて『大盛況』って言ったんです〜。」

勘違いして文句たれるセナかっこわるい!とウキウキの声色で着替え中の俺のところにやってきて、文哉も聞いたよな?と振ってくる。セナを怒らせると後が長引くので、俺は知らないふりをしておく、レオの疑問にも答えるしセナの機嫌もよろしいのだ。そういう旨を告げたら、レオがえー?って言うけれど、それで平和になるのだからそれでいい。やられたセナは俺とレオの頬をつねる。ちょっと、アイドルの顔になにしてるのさ!レオも必死になって暴力を止めるように求めてやっと解放される。

「その敬語は何?他人行儀だよねぇ。チョ〜うざぁい!」
「わはは!近頃大人の前でしゃべる機会が増えたので!授賞式とか打ち合わせとか!」
「その監修俺だけどね。」
「ちゃんと言葉づかいに気をつけようと思ったんだけど、おれ、切り替えが苦手だから教えてもらって、普段から丁寧にしゃべるように心がけてる!」

うん。完全に使うタイミング間違えてるよレオ。と思いつつも頑張ってるよなぁ。と俺は微笑ましい親のような気持になる。微笑みながら痛む頬っぺた撫でてると、まぁ必要かって言ってみなかったことにしたらしい。

「うむ!セナきゅんも俺を見習って、真面目ないい子になりまちょうね!」
「……レオ、やめといたほうがいいよ?」

そろそろセナが怒る。という前にセナが怒ってレオの首筋にチョップを喰らわせた。レオも反撃して言語を用いろ!っていうけれど、まぁ、そりゃあそうだわな。高校生にもなって言語を使わないのは野生と一緒だよね。チョップのセナは、髪を治してるだけだからと主張してるので、俺も何も言わない。好きにしてくれ。着替えも終わらせた俺は、首回りを鳴らしながら外に出て、ほか誰か着替えてないかと思ったけど俺が最後だったようだ。

「文哉!セナがいじめる!!実際は意地悪してるだけなのに、さも善行を働いてるかのように美辞麗句で彩るな!助けて!リッツ先生ナル先生、このクラスでいじめが行われています!」
「…俺の名前入らないのね…」

ちょっとショックを受けてると、りっちゃんはいじめはないしセナは優しい真面目な子ですし。とネタに乗ってる。そんなことが珍しいのかナルくんは設定を盛り上げている……いや、いいんですけどね。俺のメンタルは。まぁ勝手になんとかしますから。えぇ。

「どうしたのォ司ちゃん?最近たびたび暗い顔をしてるわよねェ、さっきのライブでも心ここにあらずって感じだったし……お姉ちゃんは心配よォ?」
「はい、なにか仰いましたか鳴上先輩?」
「せっかく先日『姉妹』の契りを交わしたのに、どうして『お姉さま』って呼んでくれないのかって聞いたのよ」

でたらめならべないでください。と怒りながらも、彼らは会話していくので、俺は横目でそれを見つつ。返礼祭関連の資料を作り始める。いや今やることないし、書き物の仕事は後でも大丈夫なようにしている。俺が『Knights』に入ってからの資料になるのである程度進めていかないと後々しんどいだろうに。と思ってわかりやすくしたものを作るのに必死だ。

「文哉も何かいってやってよ。」
「俺が?」
「そう。新入り同士でなんだかんだ面倒見てたんでしょ?」
「…俺はサポートしてるだけだよ?セナの辛辣な言葉慰めたり、りっちゃんのいじりから救ったり、ナルくんの質問の答え代わりに準備したり」
「あんたは仕事しすぎだっての。」

…そうかな?俺はみんなが幸せになるように、『Knights』から消えない様にするのに必死だった。一つでも消えたらレオが居なくなるような気がしてるから。人に絶対なんてない。今は居るは、いずれ消えると同義だ。俺のいつのまにか俺の存在意義みたいになってるので、抜けきらない癖のようなものだ。

「まぁ、みんな。心配してるからたまには安心して俺たちに身を任せてもいいんだよ?末っ子ちゃん。」
「保村先輩?」
「名前で言ってよ。加入時期そこまで変わらないんだからさ。」

話を変えようとした瞬間、レオが炬燵に一番乗りだと宣言してるし、りっちゃんの領土だと主張する。事実二番乗りだというわけですよ。仕方ないので俺は炬燵のコンセントを刺して調整していく。ナルくんはレオとりっちゃんの様子を見て笑ってから、片づけてね。って言うし、レオは炬燵に愛をささやいてるし、りっちゃんはそれ見て怒ってから茶番を始めてる。そんなやりとりに呆れながらもセナは本来の話をしたいと言い出した。

「和んでないでやることやっちゃおうよ。」
「はいはい。わかってま〜す。セナに言われなくてもちゃんとやるつもりでした〜」

でも悪い事したみたいに叱られたからやる気がなくなったとレオが進言するがもう、お前そういうやつだよね。うん知ってる。俺はわれ関せず、いつもの定位置の炬燵に入ってから俺の分の水分を準備する。セナが俺にもっと言ってやって!と言うけど、俺が二人に関してとやかく言ったことないよ?と返すとぐっと黙った。俺は二人のイエスマンだもんなー。板挟みになったらレオ優先だけど、そういうことはしませーん。おちゃらけたやりとりをしてると、ちょっと離れたすーちゃんがクスクス笑ってた。安心安心。多少は余裕ありそうだよね。返礼祭間近で気を負ってるのかなぁ?と思いつつ、炬燵で暖を取った。いや、犬は庭で駆け回るとかいうけど、俺無理。世間を賑わせた天才子役は庭で駆け回る様な時代を経験してないんです。ぬくぬくして、しばらくすると温まったからってレオが円卓会議を始めると言い出した。御茶とかお菓子とか自由にしていいよ!って言うので俺はスルメを片手にお茶を飲みつつ話に参加しようとしたらセナに睨まれた。いいじゃん。そのままスルメうまーって言いながらスルメを食べてるとまわりが話を進めていくので俺はうんうん頷きながらお茶を啜る。

「そういえば、文哉は卒業後どうするの?」
「んー?俺?大学通いつつコラムやりつつ、劇もいいよなぁって思いつつ今とあんまり変わんないと思うよ?比較的アイドルお休みよりにはなると思うけどさぁ。」
「え?」

俺売れないからアイドル業界入ってるけど、まぁ、前の事務所問題はあったけど、あぁいうので仕事取れてるのも確か。バイプレイヤー気味だけど、なんでもやってるし下手しバラエティも苦手だけどできるのは解られてるから、比較的そっち寄りにはなるかもねぇ?むっちゃん次第だけど。
炬燵の天板に顎を乗せながら発言してると、アイドル続けるなら安心だねぇ。ってセナに言われた。俺の過去も過去だから続けないんじゃないかって思われてたみたい。まぁ、俺はお前たちなら消費されてもいいって思ってるけどね。そういう話をすると怒られるので黙るけどさ。

「文哉。お前は幸せ?」
「うん、そうだね。」
「皆が笑ってるから幸せだよ?レオは?」
「おれも何も考えてなかったけど。毎日毎日夢を見てるみたいに楽しくって幸せでさ。なんとな〜くこんな日々が永遠に続くような気がしてた。でもまそんなわけないか。生きてるんだし。ともあれまぁ。セナが『そういうつもり』ならおれも別に反対しない。否定しない。文哉もそれでいいよな?セナのやりたいようにやれば?」

もそもそ「Knights」はセナとレオの持ち物だと思っているし、二人が解散と言えば頷くし存続と言えば喜んでついていくつもりだったので、そういう旨を伝えると、あんたもいて『Knights』なんだけど!って怒られたが、反省はしない。

「他人事にしないの、文哉は。『王さま』も。あんた、ちゃんと卒業できるんでしょ、それとも出席日数足りなくて留年するとか?」
「それは俺がさせないから安心してよ。」
「それは大丈夫……だと思う、たぶん。」

親に釘指されたらしくて、俺に卒業したい。とも言ってきたので、俺がちゃんとそこは手を抜かず進めたし、すぐにそういうの信用できるだろう蓮巳のところに首根っこひっつかんで行って交渉してきたからいけると踏んでるし、契約不履行で殴り込みにもいける。まぁレオは同じクラスだからね。ちゃんと見張ってるよ。って伝えたらどっちが親なんだか、とセナが呆れてた。

「文哉が面倒見てくれるっていうから大丈夫でしょ」
「任せて。地獄の果てだって、レオのケツ噛んで追い立ててやるから」
「お前が言うとほんとにやりそうだよな?文哉。」
「っていうことで、俺たちは何の問題もなく卒業するし、セナが望むなら俺たちも続くんじゃない?ほかは知らないけど。」

おれたちは、抗争前から名前は変わったけどずっとあるわけだし。歴史が重なればどんながらくたも文化財になる世の中だもん。解散するメリットないだろべつに。そこからなんだかんだというのを聞き流しながら茶を啜る。
俺は事務所に入ってしまっているので、まぁ、将来はほぼ芸能界で戦うのは決定しているし、その内容はいまだに決まってないが、まぁ。やることはあるので、振り方はある程度決めてるし、言われるまで俺は黙ってる。待てのできる犬ですからね。

「完全に『ユニット』が消えてなくなるって感じにはならないと思うしな。」
「…え?……」

一時休止だと思ってたんだけど。え?違うの?驚いて顔を上げたら、みんな神妙な顔をしている。…思ってた予想と違う。待って、色々淘汰しようよ。無くなるの?俺の大好きなこの場所が。無くなるだって?完全に齟齬だ。俺の勘違いだ。断固阻止。

「じゃあ俺たちが卒業した後も何も変わんないじゃん。毎日毎日この堅苦しい制服を着なくて済むだけでしょ?何勘違いしてるの?」
「……ですよねー。」

よかった。声に出さなくてよかった。と一人ほっとする。俺は進路のこともあるし、そう頻繁には活動に参加できなくなるけど。別に脱退したりしないしさぁ。呼ばれて都合がつけば世界のどこからでも駆けつけるから。安心しなよ。文哉。そういいながら俺の動揺を悟ったのかセナが俺の顔をつつく。痛いんですけど。まぁ、久々にセナ成分を堪能で来てるのでいいか。と思いつつ、俺は甘んじてつつかれてるけど、目と鼻はやめてね。俺のほっぺをつつきながら話をしてたセナは、レオが霊感が湧いてきたからと楽しく過ごしだそうとしてるのを止めだす。

「結局、今回のこれは何のための打ち合わせなわけ?」
「そうだったそうだった!それを話すんだった。セナが茶々を入れてくるから忘れてた!」
「俺のせいにしないでよねぇ、いつもいつも」

家族みたいな居心地もこれで終わりかとも思ってしまうと同時に、またしばらくしたらこういう場面が出てくるだろうと思っている自分がいた事に気が付いた。なんだか、センチメンタルだなぁって自分で思ってしまうあたり、まだ成長してるんだろうと考えて納得して思考を回していると、レオが思い出したのかちょっと待って。なんて言いつつ近くの箱を漁りだした。目的のものを見つけたのか、過去の自分自身をほめて箱からそれを取り出した。自分の口で効果音を出してるが、誰がどう見たってまごうことなき王冠だった。

「これを、次の『Knights』の『王さま』であるスオ〜に授与します!」
「ほんとは法王とかがやるんだろうけど、そういうの文哉が全部になってたけど、今回は俺が代理をする!」
「…いいんじゃない、好きにするといいよ。」

俺が拍手をするとナルくんもりっちゃんも拍手をしだした。レオは嬉しそうに笑いながら、すーちゃんの頭にそっと王冠を乗せた。…俺の高校時代って比較的ろくなことなかったんだけど、こうやって次世代に継がれるのか、って見てたらちょっと泣きそうだった。俺の涙をみかけたのかりっちゃんが脇腹をつついてくるので、俺の涙が止まったけどさぁ。朔間凛月くん、やめなさい。俺とりっちゃんの攻防戦をしていても、ちょうど死角の為見えない。ちょっと痛いんですけど!!って声に出す空気ではないので、ひたすら身をよじって逃げるが、この同い年執拗に俺の脇腹をつつく。

「どこにでもいる社会人におれはなる。」
「どこにでもいる社会人はだいたいどこかの会社員だけどな。」
「文哉、不穏なこといわないの!」
「…芸能人だってそうじゃんね。」
「『普通の男の子』って何なわけ、不穏な響きだけど。」

もしかして、あんたまだアイドル辞めたい〜みたいなこと考えてるんじゃないよねぇ?
そういう一言に過剰に反応するのが俺だったりするわけで、りっちゃんとの攻防戦を振り切って顔を上げて、え?と声を上げて視線が俺に集まったのを感じる。たぶん、俺の顔真っ青になってるんじゃないかな、って思うぐらい俺の血の気が一気に引いてる。嘘だろ?って声が零れ落ちたら、レオがカラカラ笑った。

「そう聞こえた?どいつもこいつもお耳の調子は大丈夫ですか!」
「…だよね、うん、そうだよね。」
「どうしたの?ふ〜ちゃん。様子がおかしいけど。」
「ナーバスになってるんだろうね。卒業で。」
「ほらー王さま、犬が不安がってるー」

茶化すような口調で、りっちゃんが声を大にして報告してる。ちょっと、やめてよ恥ずかしい。俺はすがるようにりっちゃんの服を掴んで、揺さぶって阻止をしようと思ったが、それでもりっちゃんは報告してるので、叫んだ。

「んっと、王冠の授与とか大事な思い出になりそうな儀式だから口を挟まず見守ってたけど、どうも様子が変だし、ちょっとアタシから一言だけいい?」

ナルくんが手を上げて主張して言い出したのは、すーちゃんに何も伝えてないんじゃない?というのだった。…俺はちょっと身構えながら周りを見回す。話の内容は、恐らくそうだろう、レオのことだからすーちゃんに何も話してなかったようだ。後輩2年たちに言われてレオがちょっとたじろいでる。何度か口頭で言ってたのだが、それで通ったって思ってるのもどうかと思うんだけどな。本気で言ったのに冗談にとられたパターンらしい。
そんなやり取りを俺は観ながら、まぁ妥当だろうな。って俺も納得してたらナルくんとりっちゃんがすーちゃんを説き伏せだした。…俺の仕事もないな、っておもいながらちょっとさみしい。因みに俺も聞かれた。今後の王は誰が誰がいいとか、俺の仕事の引き継ぎぐあいの質問とか、あれやこれやと言われたので俺の順番に説明した。のはつい最近だったと記憶している。まわりが話をしていく中でセナもすーちゃんを推しているので、まぁメンバー内では当人を除くと満場一致なわけで、過半数余裕越えなんだけれども、当人はあんまり浮かない顔をしているようにも見える。年功序列がーだとか言ってるけど、あんまりそういうのこの世界じゃ通用しないんだよね。売れれば勝ち。みたいなところもあるからねぇ。どんやりと思考を停滞させてると。レオが暴論を振り回してるけど、まぁ当たってるっちゃ当たってるので俺はとやかく言うつもりはない。

「保村先輩。」
「名前で呼んでってば。いいけど。」
「おれも旅立って行く側だから、あんまり手を出すなって言われてるの。ごめんね。」
「『Knights』は個人主義者の集まりなんだろ、おまえら?おれは、『王さま』とか、めちゃくちゃ偉そうな感じに呼ばれてるけど、ほんとに、中世の封建社会の君主ってわけじゃない、一票の重みはみんなと同じ。まぁ話を戻すけど、俺が次の『王さま』にスオ〜を選ぶ、っていうのも絶対に逆らえない命令ってわけじゃない。おれが、おれ個人がそう望んだだけだ。嫌なら拒否すりゃいいけど、どうする?」

レオが投げかけた問いにすーちゃんは考える。レオは追い打ちのように言葉を足していく。二つ返事で引き受けてくれるって信じ込んでた。他人なのに境界線を見失って信じてた。だから、ついで欲しかった。とも言いながらも、この場ですぐお返事ってのは難しいかもしれないな?持ち帰ってじっくり検討してくれとも言う。
レオの思考について、色々巡らせてみるがあんまりよくは解らない。最近あんまり『Knights』のメンバーについて思考をトレースすることをしてなかったから、制度が鈍くなってるのかな。俺はひっそり頭を叩きながらめぐるように促してみたが、この返事についての結果があまり見えなかったし、すーちゃんの返答が拒否ということで結論づいて今日の打ち合わせは終わった。

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