「……」
顔の赤みは直ぐには冷めず、無言で大吾の場所から離れ、バルコニーに出た。
「(はぁ〜ドキドキした)」
「(それにしても……近くで見ると格好いい人……それに香水なのかな?いい香りしてたな。無言行っちゃったけど、冷めたら謝ろう)」
バルコニーから見える夜の景色を見ていると、後ろから人の気配があった。
「名無しさん?」
名前を呼ばれて、後ろを見ると大吾がいた。
「あっ……す、すいません。無言で行ってしまって」
「俺こそ、すいませんでした。無理にチークダンスに誘ってしまって」
「い、いえ!堂島さんは悪くないんです!」
「ありがとうございます。隣いいですか?」
「は、はい」
ゆっくりと、隣に来ると。
「煙草大丈夫ですか?」
「は、はい」
ポケットから煙草を出し、ライターに火をつけ吸いだす。煙草を吸う姿は似合いすぎて、ついジッと見てしまった名無し。
「ん?やはり煙草駄目だったですか?」
「あっ!大丈夫です!吸ってください」
「やはり消しましょう」
つけたばっかりの煙草を消した。
「堂島さん……」
ヤクザのトップなのに、人を気遣ってくれる大吾に、
この人なら、自分の事を話してもいいと思った名無しは。
「あ、あの……堂島さん」
「はい」
「私……この会場に母と姉がいるんです」
「そうなんですか?」
「実は……」
大吾に自分の事を話してしまった。
「そうでしたか。お辛かったでしょうに」
「いえ。慣れって怖いですね。いつもの事だったので」
「……名無しさん」
「はい?」
「俺の所に来ませんか?」
「えっ!」
突然の言葉に、ビックリし名無し。
「あっ、あの……」
「いきなりでしたね。でも、俺的には帰ってほしくないです」
「……」
「パーティが終わるまでに考えてもらえますか?」
「は、はい……」
中に戻っても、大吾が言った言葉ばかり考えてしまう。答えなど出るのかと名無しは思った。
ポーンと時計の音が鳴る。
「あっ(こんな時間だ)」
時間など気にせずにパーティは盛り上がっていた。
そろそろ家に帰らないと思い、答えが見つからないまま、大吾の元に行こうとした時、ドンと人にぶつかる。
「きゃあ!」
その人の手に持っていたグラスが、カーペットに落ちる。名無しは、癖なのか急いで割れたグラスを気をつけながら拾い、自分のハンカチでカーペットをふく。その行動がヤバかったのだ。
「あんた……名無し?」
「へ?」
「……名無しでしょ!!なんでいるの!!」
その人物とは、母親だった。
名無しは、逃げようとしたが、腕を捕まれ逃げれない。
「名無し!なんであんたがいるの!言いなさい」
「そ、それは……」
「言えないの!」
パンと頬を叩かれ、回りはざわざわと騒ぐ。
その時、大吾が来た。
「名無しさん!」
「あら堂島さん。何でもないですわよ」
「何でもない?泣いてるのに?名無しさん……叩かれたのか?」
「その子が転けたんですわ」
「本当か?」
「……」
何も答えない名無し。
だが、黒服の男が大吾に耳打で伝えた。
「なるほど。悪いが、この子を貴方から離す」
「へ?な、なにいって……」
「行くぞ名無し」
「えっ!」
グッと引っ張られて、パーティから出た。
最後に見た母親の顔は茫然としていた。
今は、幸せな時間を過ごしている名無し。
あれから、本当にあの家から離れたのだ。
もう、奴隷みたくやってない。
今は、大吾の未來のお嫁さん修行をしている。
「あっ!大吾さん。」
「名無し」
あの人達の事は何も教えてくれないが、もういい。
立派なお嫁さんなる為、日々人生を謳歌している。
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