厳しさの裏


「すみません、ポイントカード作りたいんですが…」
「はい、では此方にご記入をお願いします」

近所のスーパーのサービスカウンターで、私が店長さんに会った初めての日。
一目見てドキッとなった、これが正に一目惚れなのだろう。

「毎月、ポイントカードが2倍になる日がございまして…」
「あっ、はい…」

私はボーッとして、店長さんを見つめていた。

「お客様、どうかなされましたか?」
「あっ…い、いいえ!すみません」

私は慌ててカードを貰うと、その場から立ち去る。

「はあ…かっこよかったな店長さん…」

私は、後ろのスーパーを見つめると、ぐっと手を握りしめた。
そしてー。



「今日から働かせて頂くナナシごんべいです、宜しくお願いします!」

私はぺこりと頭を下げる。
そう、一目惚れした店長さんのいるこのスーパーで、今日からバイトして働く事になったのだった。

「君には、主に商品の出し入れをして貰う。慣れてきたら、他の仕事もして貰う」
「はいっ!」

店長さんの言葉に、私は元気よく答える。

(店長さんと一緒に仕事出来るなんて最高!)

私はルンルンで、初日の仕事に望んだ。

「よいしょ…」

私は、ペットボトルのジュースを出していた。

「すみません、蜂蜜って何処にあります?」

お客さんに、私は声を掛けられた。

「蜂蜜でございますか?えっと…」

入りたての私は、商品が何処にあるかまだ掴めていない。

「申し訳ありません、探してきますので少々お待ち下さい」

蜂蜜を探そうと立ち上がると、店長さんがやってきた。

「何をしているナナシ」
「あ、店長。お客様が蜂蜜を探していらっしゃるので、探しに行こうと…」
「…お客様、此方にございます」

店長さんは、私の代わりにお客様を案内しに行ってしまった。
私は再び、ペットボトルを取り出す。

「ナナシ」

店長さんがまた戻ってきた。

「はい」
「お前は商品の陳列も出来ないのか?」
「え…」

店長さんは、ラベルの部分を目の前に回す。

「ペットボトルは、ラベルを表に出して並べるんだ。裏では見栄えも悪い、何の商品か分からないだろう?」
「あ…す、すみません」
「それに、きちんと何処に何があるか商品の場所を覚えろ。お客様に対応も出来ないのでは、どうしようもない」
「…申し訳ありません」

私は頭を下げ、店長さんに謝る。

「きちんと仕事をしろ、いいな」

そうビシッと言うと、店長さんは行ってしまった。

「怒られちゃった…気をつけないと」

私は言われた通り、並べたペットボトルのラベルを表に直した。

「ごんべいちゃんだっけ?」

パートのおばさんだった、レジや色々な仕事を任されるベテランの方らしい。

「あ、はいっ、ナナシごんべいです」
「店長にさ、今何か言われたかい?」
「ラベルを表にして並べるよう注意されました。私が悪いのでいいんです」
「スーパーで働かなければそんな事わからないよ。徐々に覚えていけばいいのよ、ね?」
「あ…はい!」

おばさんに励まされ、私は少し元気が湧いた。

「商品の場所も少しずつ分かってくるから。頑張ってね!」
「はい!ありがとうございます!」

店長さんが好きでここに入ったが、やるからにはきちんと仕事をこなさなければならない。
その日、私は何度も店長さんに注意されながらも、初日のバイトを終えた。

「はあ…疲れた…」

自分の部屋のベットに、思わず倒れこむ。
全身、クタクタだった。

「店長さん…やっぱ怖いなぁ。何回も注意されちゃった…。けど、やっぱりかっこいいんだよね」

お客さんに素早く対応したり、色々気付いて指示をしたりする店長さんを見て、私はまた惚れ直してしまった。

「少しでも店長さんに近付きたい。だから…仕事頑張ろう」

私は、そう決意するのだった。


それから、私はお客さんがあまりいない時に、商品の場所を見て回り目で確かめた。
そしてレジも、おばさんに教わりながら少しずつやり始めた。
勤めだして1週間ほど経った日の夕方、安売りをやっているせいか、店内はお客さんでごった返していた。

「ごんべいちゃん、悪いけどレジやってくれる?全然間に合わないのよ」
「分かりました!」

おばさんに言われ、私は空いているレジに付く。
何日かレジはやったが、まだまだ慣れない。
おばさん達に比べたら、私はかなり遅い。
おばさんが3人位やってしまう所を、私はやっと1人しか出来ていなかった。

「えっと…1980円になります」
「ちょっと、これ値引きしてないんじゃないの?」

お客さんに指摘され見てみると、お惣菜の値引きシールを見逃してしまっていた。

「申し訳ありません!」

私は直ぐに訂正しようとしたが、少しパニックになっていたせいか、訳が分からなくなってしまっていた。

(やだ、意味が分からなくなっちゃった…どうしよう)

助けを求めようにも、皆レジに追われている。

「ちょっとーまだなの?」
「早くしろよ!」

並んでいるお客さんからも、苦情の声が上がっていた。

(どうしようわからない…っ)

私は、パニックに陥ってしまった。

「どいてろナナシ」
「!て、店長…」

後ろから上がった声は、店長さんだった。
私は後ろに下がると、店長さんは素早くレジを動かしていった。

(凄い…)

その仕事振りに、私は感心するしかなかった。

「ナナシ、ぼーっとしてないでお客様の籠を荷台に運べ」
「は、はい!」

私は、レジを終えたお客さんの籠を荷台に運ぶ。
それからは店長さんがレジ、私が籠運びをやっていた。
沢山買った1人のおばあさんの籠を運ぶと、おばあさんは頭を下げていた。

「ありがとうね、助かるわ」
「いいえ、宜しければお荷物を袋にお入れしても宜しいでしょうか?」
「いいのかい?悪いわねえ」
「いいえ」

私は喜んで、籠の物を袋に詰める。
そして、自転車の籠まで運び袋をそこに入れる。

「本当にどうもありがとう、助かったわ」
「いいえ、お気をつけてお帰り下さいね」

爽やかな気分で自転車で帰るおばあさんを見届けて、私は店内へ戻る。

「ちょっと、商品券が欲しいんだけど」

サービスカウンターで待っていた、お客さんに声をかけられる。
私が店長さんに一目惚れした所。

(どうしよう…商品券は扱ったことがないからわからない…)

「申し訳ありません、店長を呼んで参りますので、少々お待ち頂けますか?」
「え、私急いでいるのに。ったく、使えないわねあんた。いいわ、また後で買うから」

そう言うと、お客さんはプンプン怒って行ってしまった。

「申し訳ありません!」

私はその後ろ姿に、暫く頭を下げて謝罪する。
そして、閉店の時間になると、皆クタクタになっていた。

「皆、今日はよくやってくれた。十分休息を取るように」

店長の言葉が終わると、皆次々に帰る支度を始める。

「ナナシ」

着替えを終えた私がその場から立ち去ろうとすると、店長が厳しい顔をして立っていた。

「お前、先程サービスカウンターでお客様を怒らせていたな」
「あ…は、はい…商品券の扱い方が分からなくて…」
「ならなぜ聞きに来なかった?そのお客様は、二度と来て頂けないかもしれないんだぞ?!」

厳しい声で、店長は言う。
私は頭を下げ、謝るしかなかった。

「申し訳ありません…!」
「…ナナシ、お前こんな事も満足に出来ないのなら、辞めたらどうだ?」
「!!」

店長さんのその言葉を聞いた途端、目の奥からジワリと熱いものが込み上げてきた。

「っ…申し訳…ありません…っ」

私はそう言うと、その場を後にする。
泣く姿を好きな人に見せたくなかったから。

「……」

店長さんが、そんな私の後ろ姿をじっと見ていた事を私は知る事もなかった。

「っく…」

私は、自分のベッドに突っ伏して泣いていた。
店長さんが好きで入って、迷惑をかけないように仕事をしたつもりだった。

「ひっく…けど、店長さんに辞めろって言われたら…辞めるしかないよね…」

私は、今日の事で、これ以上迷惑をかけたくないと思い、辞める決意をした。

「最後に…店長さんに好きでしたって一言だけ言ってやめよう…」

1人そう呟くと、暫く私はすすり泣いていたー。



次の日、私の目は真っ赤になって少し腫れていたが、何とか出勤した。

「店長」

サービスカウンターにいる店長さんに、声を掛ける。

「ナナシ」

店長は、少し驚いた様に私を見る。

「今まで、ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。今日限りで…辞めさせて頂きます。急に、申し訳ありません…」

私はそう言い、深く頭を下げる。

「それで…あの…」

次の言葉を発しようとした時だった。

「ナナシ、仕事が終わったら駐車場で待ってろ」
「え…?」
「いいな」
「あ、は、はい…」

店長さんは、いつになく真剣な表情で言っていた。


「ごんべいちゃん、店長の言う事なんて気にしなくていいんだよ!」

ロッカーで制服に着替えていると、おばさんがやってきてそう言い出した。

「あの店長、顔は本当に良いんだけど、ほーんとキツイんだよね!全く、だから新人がどんどん辞めんちゃうんだわ。ごんべいちゃん、気にする事ないのよ」
「あ…はい…!」

おばさんの気持ちが、本当に嬉しい。
が、一体店長さんはなんで私を待つ様に言ったのか。
また怒られるのか、そう思うと心が沈む。

(店長さんは好きだけど、もう怒られるのは嫌だな…)



帰り、私は言われた通り駐車場で待っていた。
今日1日、私は店長に怒られる事はなかった。
そして、一言も話す事もなかった。

「ナナシ」

声が上がる。

「っ…」

私は息を呑む。
そこには、初めて見る店長さんの私服姿。 落ち着いたモノトーンの服が、凄く似合っていた。

「待たせたか?すまない」
「えっ!いいえ!」

店長さんに謝られるなんて、私はびっくりだった。

「車に乗れ」
「へ?」

店長は、自分の車の助手席のドアを開ける。

「えと…あの…」
「ドライブだ、行こう」
「あ…はい…」

私はドキドキしながら、店長の車に乗り込む。
店長はハンドルを握り、スーパーから車を発車させる。
横目で、運転する店長さんを見る。
整った綺麗な横顔に、私はまたドキドキしてしまう。
そして、何もせず話せずにいた。
店長もまた、何も話しては来なかった。
30分位、ずっと無言でいると車が静かに停車した。

「ナナシ、降りてみろ」
「あ、はい…」

ドアを開けて下りると、空には満天の星空が広がっていた。

「わ、凄い…!」

思わず、感嘆の声を上げるほど、町では見えない綺麗な星空だった。

「凄いだろ?俺のお気に入りの場所でな」
「そうなんですか。でも、本当に綺麗…」

まるで星空に吸い込まれそうなほど、近くで輝いている。

「ナナシ、厳しい対応ばかりしてすまなかった」
「え…?」

突然の言葉に私は驚き、後ろの店長を見る。

「お前は良く働き、一生懸命やっていた。だからこそ、もっと上を目指してほしかった」
「店長…」

店長がこんな事を言ってくれるなんて、私は思わず胸を打たれていた。

「だから、辞めないでもう少し頑張ってくれないか?」
「…はい!私、頑張ります!」

私は元気よく返事をした。
大好きな店長さんにそう言ってもらえて、本当に嬉しいから。

「元気が良い返事だ。…宜しく頼む、ナナシ」

そう言い、店長さんは私の肩をポンっと叩く。
その近い距離に、また胸の鼓動が高まる。

「は、はい!宜しくお願いします!」
「ああ」

店長さんは、私が初めて見る笑顔で答えてくれた。
その瞬間、私はあの事を店長さんに伝えようと決心した。

「店長…」
「なんだ?」
「私…店長の事が好きです。だから…一緒に仕事がしたくて、入りました」

私の言葉に、店長さんの顔がほんの少し驚きの表情を浮かべていた。

「すみませんいきなり…。けど、どうしても伝えたくて…」
「そうか…」

店長さんは、一言だけそう言った。

「…家まで送ろう」

店長さんはそう言い、私を車にそくだす。
そして、また行きと同じ様に一言も話さず帰ってきた。

「ありがとうございました」

家の前で降り、私は頭を下げる。

「いや、また明日な」

店長さんはそう言うと、車を走らせ行ってしまった。

「店長…何も言わなかった。やっぱり…迷惑だよね」

店長さんの車でドライブ出来た事は本当に嬉しいが、私は複雑な気持ちでいた。



そして次の日仕事に行くと、今まで通りの店長だった。

「ナナシ、サービスカウンターの業務もやってもらう」

店長に言われ、私はパートのおばさんに教えて貰う事に。

「ごんべいちゃん、ほんと覚えるの早いね。これならもう1人でここは大丈夫だね」
「いえ、まだまだですよ」

ギフト券や商品券などの事を教えて貰い、大体の事は覚えられていた。

「じゃあ、あたしはレジに行くからここ頼むね」
「はい!」

私は1人雑務をこなしていると、すみませんと声を掛けられた。

「商品券3000円分下さい」
「かしこまりました」

今度は、スムーズに対応する事が出来た。

「こちらでございます」
「ありがとう」

そう言って、お客さんは笑顔で帰って行った。

「ありがとうございました!」

胸が熱くなった。
お礼を言われるのは、本当に嬉しい。

(私頑張ろう。店長には自分の気持ちを伝えたし、もう悔いは無い)

「いらっしゃいませ!」

来店するお客さんに、私は元気に挨拶をした。



それから数日、店長に注意される事もなく、教えて貰う事もなく、会話することも無く過ぎていった。
私自身、店長に想いを伝えていたので、吹っ切れたというのもある。

(店長、私の告白に困ったのかもな。…けど、後悔はしてない)

私は品物を並べながら、手を握りしめる。

「ねえ」
「はい?」
「ヨーグルトって何処かな?」

若い男性のお客さんだった。
私はヨーグルト売り場へと、彼を案内する。

「どーも。ね、君凄く頑張ってるよね」
「え?」
「俺、ほぼ毎日ここに来てるんだけど、いつも君を見て凄い頑張ってるなって思ってたんだ」

見ていてくれたお客さんがいた事に、私は思わず嬉しくなってしまった。

「ありがとうございます!でも、まだまだです。だから、少しでも覚えられる様にやっています」
「その気持ちが大事だよ。君、本当に良い子だね。それに可愛いし」
「そ、そんな…」
「ね、ここ辞めてさ、俺のとこ来ない?」
「へ?」
「俺んとこ、君みたいな頑張れる子が欲しいんだよね、駄目かな?」

男性が、ぐいっと顔を近づけてくる。

「え、えっと…」
「ほんと可愛いね。ね、俺んとこに…」
「おい」

いきなり、少し怒りを含んだ声が上がっていた。

「うちの店員を勧誘するな」

それは店長だった。
店長は私の前に立ち、男性との間に入る。

「ヒロ、この子かなり良い子じゃん。俺んとこに頂戴」
「断る。ナナシをやるつもりはない」

その店長の言葉に、私はドキッとなってしまう。

「ふーん、この子気に入ってんだ」
「お前にとやかく言われる筋合いはない」
「はいはい。じゃあナナシさんだっけ?またね」
「あ、はい!ありがとうございました」

去っていく男性に頭を下げる。

「ナナシ、お客様との私語は謹め、いいな」

そう言った店長の声は、いつもより厳しかった。

「あ、はい…すみません」
「…あいつはこのスーパーと同じ系列の別の店舗の店長だ」
「え、そうなんですか?けど、ヨーグルトの場所を教えてくれと仰って」
「お前をわざと試したんだろう。全く、油断も隙もない。偵察を兼ねて、よく来ているからな」
「そうなんですか…」
「とにかく、私語は謹め」
「はい」

店長はそう言って去っていく。
ふうと、私は息を吐く。

「店長とこの前ドライブしたのが嘘みたい。…また怒られちゃった」



そして、仕事を終え帰ろうとすると、店の駐車場にあの人がいた。

「ナナシさん」
「あ、えっと…」
「俺、ワッキー、宜しくね」
「ワッキーさん、どうかしたんですか?」
「うん、どーしても君が欲しいから、待ってたんだ」
「え?!」

驚きの言葉を言うと、ワッキーさんは私の手を持つ。

「ナナシさん、うちの店舗に来てくれない?君は可愛いし、仕事も一生懸命やってるから。君みたいな子、うちの店舗に欲しいんだ」
「そんな…私仕事はまだまだ出来ない事ばかりだし…」
「徐々に覚えていけばいいよ。俺はヒロみたいに厳しくないよ。優しく教えるから」
「ヒロ…店長ってヒロって言うんですね」

働いて暫く経ったのに、今漸く店長の苗字を知った。

「え、知らなかったの?」
「はい、皆店長って言っていたので」
「ふーん、あいつあんまり従業員とプライベートでは関わんないもんな。ね、ナナシさん、ヒロより俺の方がいいよ、どうかな?」

そう言い、ワッキーさんは私の肩を持つ。
あの時の店長と同じ様に。
ワッキーさんも、店長と同じ位のイケメンだ。
思わずドキッとしてしまう。

「ナナシさん、お願いだよ」
「わ、私…」

なんと答えようか、私は迷ってしまった。

「ナナシ!」

その声に、私はビクッとなる。

「ナナシ、何をしている?!」
「て、店長?」

店長は私の元に歩み寄ると、うでをぐいっと掴んだ。

「おいヒロ、俺はナナシさんと話してんの、邪魔しないでくれる?」
「ワッキー、もう一度言っておくが、ナナシは俺の所の従業員だ。勧誘するな」
「へえ。いつも従業員の事なんか気にしないヒロがどうしたの?彼女は別なの?」
「…そうだ。だから勧誘するな、いいな」

そうワッキーさんに言うと、私の方へ店長が向き直る。

「…来いナナシ」
「て、店長…?」

私は、店長に何か別の雰囲気を感じ少し恐怖を感じた。
私はそのまま、店長に連れられてしまった。

「ふーん、あのヒロが従業員に惚れたか」

ワッキーさんがポツリと呟いたのを、私は聞く事が出来なかった。

「店長、い、痛い…です」

強く腕を掴まれ引っ張られ、私は痛さを訴える。
が、店長はぐいぐいと引っ張るのをやめない。
そして、私を車の助手席に乗せた。

「きゃ…!」

店長も運転席に座ると、車を走らせた。
どんどんスピードが速くなり、流れる景色も変わっていく。

「店長…何処に行くんですか…?」

聞いても、答えてはくれなかった。
そして、ネオンが立ち並ぶ建物へと車が入っていく。

「こ、ここって…」

私も良い年だから、こういう所に入った事はある。
そう、ラブホテルだったのだー。



目の前の建物を見て、私は恐怖を感じてしまった。

(なんで店長は私を…?!)

思わずぶるっと震えてしまう。

「…降りろナナシ」

店長は車を駐車場に停めると、私に降りる様にそくだす。

「い、いやです!なんでこんな所に…」

恐る恐る聞いても、店長は答えない。
そして、嫌がる私の腕を掴むとそのままホテルの中へと入っていく。
ロビーで、店長は慣れた手つきで部屋を取る。

「私、帰ります!!」

私は、店長が部屋を取る隙に出口へと駆け出す。
が、直ぐにまた腕を掴まれてしまった。

「逃げるな。…逃がしはしないがな」

低く囁く様に店長が言う。
その声色に、私の身体に鳥肌が立つ。
そして、引きずられる様にエレベーターに乗らされ、ずっと腕を掴まれていた。
入った部屋は、落ち着いた大人ムーディーという感じの部屋だった。
店長は私の腕を掴んだまま、引っ張ると大きなベッドに私を倒した。

「きゃあっ!」
「ナナシ…お前が悪い」

店長は私の上に覆い被さると、見下ろしながら言った。

「え…っ」
「…」

店長は私の首に顔を埋めると、舌を這わせ始めた。
そして、両手で私の胸を服の上から掴み、ぐにゅぐにゅと揉み始めたのだ。

「あっ!い、いや!」

私は首を振り店長の肩を両手で押すが、力が強くびくともしない。

「…店長やめて下さい!お願…ぁん!」

思わず声を上げてしまう私。
首筋を、強く吸われたのだ。
店長は私の声に誘われる様に、私の服の裾を掴み、上へとたくし上げていく。
首までたくし上げてしまうと、露わになったブラの上から両手で乳房を包み込む様に触っていた。

「いや…やだ…っ」

私がそう口にしても、店長の手や舌が止まる動きはない。
鎖骨の辺りに舌を這わせ、ねっとりと舐めていく。
そして、乳房の形を確かめる様に、ブラの上からゆっくりと円を描く様に揉み始めていた。

「ん…ぁ…っ」

店長の手が、こねる様に乳房を揉み寄せるように両方の乳房を回していく。
私の身体は、次第に熱を帯び始めてしまっていた。
店長は乳房を揉みながら、指先で感じる場所を探す様に、さわさわと指をブラの上で撫でていく。
そして、少しばかり膨らんでいる突起に指先が擦れた時、私は思わず声を上げていた。

「あんっ!」
「…これがいいのか?」

店長が、小さく言葉を発した。
私が答える前に、店長の人差し指と中指の指先がその突起に触れ、ブラの上から擦る様に左右に動かした。

「あんっ!やぁ…あ…店長、やめて…ぁん!」

喘ぎながら抵抗しても無意味だろう。
だが、何故店長がこんな事をするのだろうか、それだけが知りたかった。
店長は、鎖骨にキスの雨を降らしながら、右のブラのカップをめくり、片手で乳房をブラの中から取り出した。

「いやあ…っ!」

私は首を振り、露わになってしまった胸を隠そうと手を動かす。
が、私の手より早く店長の舌が動いていた。
すっかり硬く尖って存在を強調している私の乳首に、店長の舌が押し当てられ、コロコロと上下に弾いていた。

「あぁんっ!」

乳首からの快感に、私は思わず大きく声を上げてしまった。
そして、せめてもの抵抗で左の胸だけはと思い手で押さえていたが、店長の左手が私の手の下に入り込み、ブラのカップを同じ様に下にずらし、乳房をカップの外へと出してしまった。
その乳房を包み込むと、強弱をつけこねる様に揉み始める。

「あっあっ…やっあ…」

右の乳首を転がしていた店長の舌が、今度は弾く様に乳頭を突き乳首全体を震わせた。

「やぁんっ…!ぁ…あん」

快感を完全に引き出されてた私の身体は、抵抗を止め口から自然に喘いでしまう。
弾いた乳首を、今度は口内に含み、ちゅうっと吸い上げてから、ちゅぱっと引き抜いた。

「はぁあんっ!」

引き抜かれた乳首は、硬く尖り、ピンっとそそり立っていた。
それを、今度は根元に舌を押し当て、乳首を倒しながら乳輪に押しつける様にくるくると回す。

「はぁあん…ぁん…」

そして、店長は左の乳首を人差し指と親指の根元で掴むと、くいくいっと擦る様に上に捻られる。

「あんっ、はぁん…っ、店…長…あん」

気持ち良くて、私はただそう言った。
無理やりされているのに、でも、私は店長が好きだ。
好きな人に触れられ、感じるなという方が無理だった。

「ナナシ…」

店長が、右の乳首をちゅぱっと引き抜いてから、顔を上げ私の目をじっと見る。

「っ…店長…」

店長の瞳は熱を帯び、潤んでいた。

(店長…私に…興奮…してくれている…?)

そんな風に思っていると、店長が今度は左の乳首を唇で挟み、上へと引っ張られた。

「あぁあんっ」

指の愛撫で硬く尖っていた左の乳首は、いとも簡単に店長の唇に挟まれ引っ張られる。
そして、右の乳房を掌でやんわりと揉まれ、人差し指の先だけで、舌で愛撫された乳首を左右に擦る様に動かしていた。

「はぁあんっ。あぁん…」

あまりの気持ちよさに、私は両手を店長の肩に触れていた。
抵抗する気は、もう全く無くなっていた。
店長が、左の乳房の根元を掴み乳首を突き出させると、ぺろぺろと根元に舌を当て上下に転がす。

「ふぁあん、あんっ、店長…っ」
「ナナシ…」

店長が、左の乳首から顔を離し、私をまた潤んだ瞳で見ていた。
そして、吸い寄せられる様に私は店長にキスされていた。

「ん、ふ…」

舌が入り、私の舌と店長の舌が絡み合う。
その間にも、両方の乳首は指先で左右に転がされていた。

「あっ…ん、ふぁ…ぁん」

キスの合間に喘いでしまう。
ちゅっと、私から唇を離すと、店長の顔はまた下へと移動していく。
店長の手も乳首から離れ、私の服を脱がしていた。
ベッドの下に服が投げられ、私はブラはずらされ、下着だけの状態になってしまった。
店長が、私の膝を両手で押さえ内腿に唇を落としていく。
そうしながら、右手だけで下着の裾を掴み、するするとあっという間に脱がされてしまった。

「やぁ…店長見ないで…っ」

思わず脚を閉じたくなってしまうが、店長がそれを許さなかった。

「…俺に見せろナナシ…お前の全てを…」

店長はそう囁くと、露わになった私の脚の間に顔を埋める。
乳首の愛撫でヒクヒクと蜜を溢れさす私のそこを、店長の熱い舌が丁寧に上下に舐め始めていた。

「ぁああんっ!」

私は思わず仰け反った。
そこを上下に舐められながら、店長はちゅうっと音を立てて蜜を吸っていた。

「やあぁあ…あぁっ」

訪れる快感に、私は腰をくねらせ喘ぐ。
蜜の溢れる入り口を、舌先だけで刻む様に刺激すると、どろっと蜜が溢れ出していた。

「はぁあ…ぁん…あぁ…」

乳首を更に硬くさせ、私は喘ぐのをやめられない。
店長の両手が伸び、乳房を掴み揉まれる。
舌の愛撫も止むことはなく、店長は私の1番敏感な突起に触れ、こねる様に舌でじっくりと上下に舐め上げられた。

「あぁあんっ!だめ…店長そこ…はぁんっ!」
「ん…これがいいんだろう…?こんなに硬くして…可愛い従業員だな…ふ…ん…」

店長が言葉を発しながら、クリトリスを丁寧に、なぞる様に舌で舐めあげていく。

「やあぁあん、やだ…ああっ…」

乳首を摘まれ、クリトリスを舐められ、私の身体が快楽の頂点にイこうと、身体を震わせ始めた。
そして、店長の両指が乳首を摘んで捻り、唇でクリトリスを触れられ、そのまま思い切り吸われた時、私は快楽の頂点へとイった。

「あっあっ!イくっ!はぁん、イっちゃ…あぁあぁんっ!」

私は腰を浮かせ、身体や脚を震えさせ声を大きく上げてしまった。

「…ナナシ…」

店長が顔を上げ、私を見つめている。

「あっ…はあ…店、長…」

頬を上気させ、私も店長を見る。
店長は私の顔を見てから、服を脱ぎ引き締まった身体を露わにさせた。
その綺麗な身体に、私は思わず息を呑んだ。
そして、私のイったそこへ、熱く硬いものが当てられた。

「あっ…」

店長が、私に興奮してくれていたとわかる事だった。
店長のものが、ズブリと水音を立て私の中へと入ってきた。

「あぁっ…」

蜜で濡れたそこは、いとも簡単に進入を許した。
そして、店長のものが最奥へとめがけ一気に挿入された。

「あぁあんっ!」

奥へと当たり、私のそこは店長のものを締め付け、快感を引き起こしていた。

「…ナナシの中は熱いな…」

店長が優しく私の頭を撫でる。
見た事のない、優しい笑みだった。

「店長…はぁん!」

店長が腰の動きを始め、自身を動かし始めたのだ。
店長のものが、私の中の壁を擦り、私も彼を逃すまいと締め付けた。

「あぁあん、はぁあん…っ」
「く…凄い、締め付けだな…っ」

店長の頬も赤くなり、私を感じてくれていた。
店長は唇にキスをし起き上がると、私の両脚を開かせ反動をつけ腰を大きく動かした。

「ふぁあん!あぁんイい…っ!」

店長のものが、私の中で前後に動き、最奥へと突かれる。
甘美な快感が、私の中を駆け巡る。

「く…ナナシ…愛してる…」
「あぁあん、店…長…っ?」

店長は、私の両脚を押さえながら見つめていた。

「お前は俺の部下…部下であり…俺の女だ…っ」

そう言いながら、店長は腰の動きを早め、私の中をかき乱していく。

「あぁあんっ!だめぇ店長やぁあ…あっ!」

店長のものをキュッとしっかり締め付けながら、私は仰け反った。

「ナナシ…っく…っ…!」

店長は、奥へと自身を突き刺せ、私の中を振動させる。

「あぁあん!店長っ…はぁん、ああんっ、ああん!」
「く…っ…!」

肌がパンパンと打ち付け合う音ともに、店長は私の中で自身をドクドクと波打たせた。
私の腰や脚も震え、2度目の絶頂を迎えていた。

「はあ…っはあ…」

2度もイかされ、私の身体はぐったりと力を失っていた。
店長は自身を私から引き抜くと、顔を近づけキスをした。

「ナナシ…好きだ。愛してる」
「店…長…ほんと…です、か?」

息を整えながら、目の前の彼を見つめる。

「ナナシに好きだと言われ、俺は正直に嬉しかった。だが、どう応えてやればいいか分からなかった。…しかし、お前とワッキーが話しているのを見て…嫉妬した」
「店長…」
「…悪かったな。無理やりお前を…。…だが、俺は好きでもない女を抱いたりはしない。…ナナシ、いやごんべい…好きだ」
「店長…嬉しい…っ!」

店長の気持ちがわかり、私は彼に腕を回した。

「私も、店長が好きです…愛してます…」
「…ロウでいい。俺の名前だ」
「ロウ…ん」

甘くとろけるようなキスを、ロウから受け取る。
気持ちが伝わる事は、本当に嬉しく幸せだ。

「…スーパーの店員としてもなかなかだが、ベッドの上のお前もなかなかだな…ごんべい」
「…っそんな…。ロウは…ここでも素敵でした…」
「そうか、それは嬉しいな…」

そう言うと、ロウは起き上がり私の濡れたそこをティッシュで丁寧に拭き取ってくれた。

「ロウは、本当は優しいんですね。…怒ると怖いけど…」
「それは気がつかなかったな」

ロウはフッと笑うと、寝ている私の横に身体を寝かせ、肩に手を回した。

「ごんべい、ワッキーに言われたらはっきり断われよ?あいつは案外しつこいからな」
「はい、私はヒロ店長について行きます…!」
「それでいい。聞き分けの良い子だ…」

そう言い、ロウは私を抱きしめてくれた。

「愛してるごんべい…」

ロウの声が耳元で聞こえる。
私は幸せな気持ちで、彼に身体を預けた。





「やあ、ごんべいちゃん」

翌日、商品を出しているとワッキーさんが現れた。

「こんにちは、ワッキーさん」
「こんちは。で、どう?俺の所に来る気になったかな?」
「折角ですが、私、ヒロ店長に付いて行きたいんです。だから…」

私の答えに、ワッキーさんが何か言おうとした時。

「ナナシさん、ナナシさん、店長がお呼びです。店長室までどうぞ」

アナウンスが店内に流れた。

「すみません、失礼しますね」

私はワッキーさんに頭を下げ、その場を去り店長室に急ぐ。

「ふーん…ヒロの奴、ごんべいちゃんに手付けたか…残念だな…マジで」

ワッキーさんが、本当にがっくりと項垂れていたのを、私は知らない。

「店長、お呼びでしょうか?」

店長室に入ると、私は直ぐにロウに抱き締められていた。

「ごんべい…今ワッキーの奴と話しをしていたな」

抱き締めながら、ロウは私を店長デスクの上に座らせる。

「でも、ちゃんと断りま…んっ」

言い終わる前に、私の口は塞がれていた。

「仕事中にお客と私語をするとは…お仕置きだ」

ロウの目が妖しく光る。

「え、そんな…あんっ!」

制服のスカートの中に手を入れられ、ストッキングの上から下着をなぞられる。
そして、胸を掴まれぐにゅぐにゅと揉まれていく。
デスクの上で、私は脚を開き喘いでしまう。

「あぁん、ふぁあっ…ロウ…っ」
「お前は俺の部下であり女だ…誰にも渡さない…」
「はぁあん…っ」

ロウに愛されてるのが分かり、私は悦びの声を店長室に響かせたのだったー。


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