平次くんと文学少女



 隣のクラスの大人しそうな子が平次を呼んでる、と誰かが言った。ドアの前で俯く顔は垂れ下がった黒い髪でよう見えへん。けど、分厚い本を持つ手はめっちゃ綺麗で、あたしや平次みたいに武術やスポーツなんてやらんのやろなあとぼんやり考えた。

「なんや、わざわざ新作見せびらかしに来たんか?」
「ちゃうよ! 昨日早速買うて読み切ったのに、貸そうと思たら平次くん学校来てへんから……!」
「そんな必死になるなて、冗談や。冗談」
「もう……、貸さへんよ」

 クラスの前で軽口を叩き合う二人の会話を、耳を研ぎ澄ませて記憶する。神様、この前の席替えで廊下側の席になったことを寒いから嫌やとか言うてゴメン。感謝します。
 平次と女の子はどうやら新作のミステリー小説の話をしとるらしい。あの子が買うて、平次が借りて読む。聞く感じでは、これが初めてっちゅうワケでもなく、もう何回もやり取りしての仲らしい。初耳や。

「昨日はちょっと事件でなあ」
「それでお休みしたん?」
「お休みっちゅうか、まあ……自主欠席やな」
「サボりって言うんやで、そういうの」
「まー何でもええやんけ! テストは出来とるし」
「腹立つわあ〜、平次くんのそういうとこ」

 うん、あたしもそう思う。
 ……じゃなくて。
 予鈴が鳴るまで談笑する姿をぼうっと眺めて思った。ガサツな平次にはああいうおしとやかな女の子が似合うんやろか、って。


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