仁王くんの出所を待つ



 禁煙するからお前さんが持ってて。見慣れない銘柄の煙草をライターと一緒にわたしに預けて、仁王がそう言ったのはもう四年前のことだ。何が禁煙だよバカヤロウ、そう思いながら何も言えずに律儀に受け取った時、仁王は確かに言ったのだ。待ってて、と。
 師走が迫ってきて、さすがに衣替えをしなくてはと服を整理していたところで、そんなことをふと思い出した。大学に入って一人暮らしをはじめた時に買った、青色のミッキーのチェストの一番下。五段あるうちのその引き出しは、仁王のスペースだった。着替えとかジャージとか下着とか。そんなもの彼女の家に置けばいいじゃんって、思っても口には決して出さなかった理由は自分でもよく分かっていた。仁王に彼女がいた時も、わたしに彼氏ができた時も、仁王が詐欺で捕まって大学内で散々騒がれた後も今も。灰色の着古したスウェットの上には、テニス部時代のユニフォームカラーみたいに、オレンジのケースと黒いライターが乗っているのが何よりの証拠なのだ。
 わたしは今も、彼を待っている。仁王がバカヤロウなら、わたしは大バカヤロウだった。


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