破落戸長屋の家主の子



 今日も今日とて道場に来てはゴロゴロと趣味だと言い張る昼寝をする左之助を、一人の少女が尋ねてきた。少女と言っても歳は薫と同じくらい。あどけない顔付きではあるが、礼儀正しく大人びた態度だと出迎えた薫は思った。

「左之さんがこちらにいらっしゃるとお伺いしまして」
「ああ、左之助なら居るわよ。呼んできましょうか?」
「いえ! わたしの名前を出すと逃げられるかもしれないので、出来ればご案内していただきたく……」

 一体この少女があの悪一文字に何をしたと言うのか。どことなく恨みがましいような、明らかに色恋沙汰のそれではない目付きをする彼女に一瞬たじろいだ薫は、そのまま少女を連れて道場の奥へと向かう。
 ごろりと縁側に寝そべる左之助は、背後の二人には気付いていないようだった。
 皺だらけの悪一文字を見つけるや否や、少女は薫に一礼し、足音を立てぬようその背中に近付いていく。
 すう、と少女が息を吸った音で、船を漕いでいた左之助の首がもちあがる。ゆっくりとそのトリ頭が振り返るのと、道場から戻ってきた弥彦が「客か?」と声を出したのと、少女が鼓膜を破らんばかりの怒声を上げたのはほぼ同時だった。

「左之さん!!今日こそ家賃を払ってもらいますからね!!」
「――テメッ……! 長屋の親父ンとこの……!」

 庭先で洗濯物を広げながら一部始終を見ていた剣心は、からりと笑ってたすき掛けした着物の袖を捲り直した。

「随分と可愛らしい取り立て屋でござるな」


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