つばくらめ*2



朝の気持ちいい空気に、ぐうっと伸びをする。耳も尻尾もぴーんと伸びた。それを横で見ていた***がくすりと笑う。

「なに、笑える要素あった?」
「あ、すみません。お耳と尻尾がすごく可愛らしいなって」
「そう、銀さんの耳と尻尾好き?」

***の前で尻尾を振ると、興味津々に目が追う。

「はい、好きです。すごく癒されます」

きらきらと目が輝く***の頬を尻尾で、ぽふぽふっと撫でた。擽ったそうに、気持ち良さそうに頬を寄せてくる姿にきゅうと胸の内が鳴る。かわいい。

「笑える元気が出てきたならよかったよ。怪我、看ようか」

怪我を看る。その言葉に***がもじっとするのを横目に、尻尾を***から離すと傷薬を漁る。
自分で調合したものでは無い。知り合いの蛟がこういうのが得意でちょくちょく貰っていた。銀時自身、軽い怪我にはあまり使う事もないので埃を被っていたものだ。綺麗な布を裂いて作った包帯と一緒に手にすると***の近くに腰を下ろす。

「背中向けて、脱いで」

顔を赤くする***に何事もないように振る舞うのはだいぶ慣れた。意識のない間毎日着物を剥いで、薬を塗って包帯を巻いて着物を着せ直す。それを9日間続けたのだ。さらに目を覚ましてからすでに10日経っていた。内心はどうかと言われると8割は完全に下心といやらしい気持ちしかないが、頑張って残りの2割で覆い隠す。
だが銀時と違い***はまだ恥じらいがあるようで、背を向けるとおずおずと肩から着物を落とした。

「翼、出せるか」

包帯を丁寧に外していくと顕になる素肌。
ふるふると横に首を振る***に体の方の手当てを始めた。
尻尾や耳、翼は妖にとってはいわば妖力の塊。尻尾や耳のように力を誇示するように増えたり毛艶か良くなるのとは別に、翼は空を飛ぶ為の力そのもの。片翼の根元に大きな傷を負っていたことを思い出す。空を飛ぶ妖にとってはかなりの大ダメージだろう。
翼を仕舞ったままの***の背中は人間のそれと同じだった。
薬を纏った指で肌をなぞるとぴくりと震える背中に、むずりとする。
あんまり俺の指に反応しないで欲しい。このまま首筋に噛み付いて背中側からみえる丸みのある胸に指を沈めたくなる。そうしたらもっと可愛い反応をしてくれるのだろうか。それとも力いっぱい嫌がるのだろうか。

「銀時さん…?」
「あ、…わりィ…包帯巻くな」
「はい、お願いします」

考え事に止まっていた手を再び動かすと包帯を巻いていく。きゅっと痛くない程度に引っ張って弛みのないように巻いていく。

「翼さ、俺が見た限りだとかなり深い傷だったんだけど、体の傷が癒えて万全に戻ったら翼も戻る?」

妖力の塊を傷つけられている。回復をするのかそこが気になるところだった。

「わかりません。こんな大きな怪我をしたのは初めてなので。でも、力を込めて翼を広げようとすると、痛くて…とてもじゃないけど広げられないんです」

不安そうに震える背中。それを宥めるように尻尾で背中を撫でた。

「ひ、わっ…!あっ、ん、くすぐったい、です、!銀時さん!」
「もうちょっと休め。いくらでも癒してやっから。体の傷が治りきって、それでもダメそうだったら言って。奥の手考えとく」
「奥の手…?ですか」
「俺は傷とか怪我とか、治すのあんまり得意じゃねーんだよ。妖の力でそういうの特化してる奴がいるから、そいつに怪我診てもらおう?な」

治らないかもしれないことに対しての不安なのか、それとも別の妖に見せなければならないことに対しての不安なのか定かではなかったが、下を向いた***の顔には影が差す。

「耳、触ってみる?」

なんだか***の顔が曇るのが嫌で、自分でもどうかと思う申し出をした。

「え、お耳さわってもよろしいんですか?」
「俺も治療とはいえ、お前の体触りまくってるし」

思ったよりも好反応な***は着物をきちんと着込むとくるりと向き合う。

「後でダメとかなしですよ」

顔の横まで上げられた手が伸びてくる。
その様子になんだか身構えてしまった。

「できたら優しくさわってくんね?」

なんて言ってしまう。

「銀時さんも私の体に触れる時、とっても優しく触れてくださいます。あたりまえです」

***に他意はない。それは分かっているのに、明け透けに言われた言葉に顔が熱くなった。思わず顔を着物の袖で覆って隠す。
なに、どんな触れ方してんの俺。そんな自信満々に優しいなんて言われると、下心を隠して触れながら、すけべな妄想をしていたことを反省しなければいけない気がしてくる。

「銀時さん?」
「…、耳って敏感だから、顔あんま見ないで」
「あ、じゃあ、そっと触れますね。痛かったり不快に感じたら言ってください。お終いにしますから」

なにこれ。すげー立場が違う気がする。
まるで乙女の立場が自分で、それをなだめすかして付け入ろうとする男の立場が***みたいだ。
絶対にアレコレ不安を述べても止めてくれないやつ。でも言い出したのは自分だ。そっと***に向けて耳を差し出した。

ぽふ。そんな手つきで髪に***の手が触れる。さわさわと髪を撫でる手が心地よくて思わず目をつぶった。

「あの、…***ちゃん、そこ、耳じゃなくて髪」
「いきなりお耳を触るのは不躾かと思いまして。敏感ですからね、ビックリされてしまわれてはもう触らせてくれないなんてなったら嫌ですから」
「なんで次があると思ってんの?」
「え、ないんですか!」
「いや、あるともないとも言えねェけど…、さ」
「だったら最初の1回目が大事です。大丈夫ですよ、優しくします」

するすると指が髪を撫で梳いてくる。
髪が動くのが地肌に伝わって、むずっとした気持ちよさに首を竦めてしまう。猫だったら喉がなってそうなくらいの気持ちよさ。
思わずされるがままに頭を差し出して、顔を隠していた腕が自然に徐々に下がってくると、***の指が前髪をすくった。

「あ、やめて。あんまり額出した事ねーから。銀さんの額えっちなゾーンだから」

顔が見えてしまう。そう思って口走った言葉に***の手が慌てたようにぱっと離される。

「ご、ごごごめんなさいっ、!!、あ、あの別にでも、みんなと変わらないですよ!」
「あ、悪ィ。そんな慌てないで。冗談だから」

すごく赤くなって慌てる姿に悪い事をした気持ちが大きくなって、謝罪の意を込めて***の引かれた手を掴むと耳まで持っていく。
髪とおなじくらいか、それ以上に綿毛のような毛が覆う耳に***の手が触れた。

「あんま焦らされると、銀さんたまんなくなる。本命…、ここだろ」
「あっ、そうですよね」

ぎくしゃくとして触れたまま動かない指に指を絡ませて耳に触れさせる。

「…っ、ふぇ…!」
「何その声」
「あ、や、…すごく、ふわふわで、っん、触っちゃうと、止まらなくなっちゃいます」
「いいよ、止まんなくなっても。そしたら同じだけお前の体触るから、敏感なところ遠慮なく触るから」

軽く遠回しに止まらなくなるのはやめてと伝えると、ゆっくりと指が動き出す。
自分の指を絡ませて動かしていた時とは違い、予想のつかない***の指にぴくぴくっ!と耳が動いてしまう。

「はぁ、銀時さん、かわいい…」

うっとりとしたため息が聞こえる。

「…ぁ、っちょっ、ん…***、っ」

逆に自分の口から出てきそうな艶っぽい声を必死に押しとどめる。

「おわ、りっ!…***!、おわりだって!」
「あ、待って下さい、もう少しだけ。ほんのちょっとだけ待って」

すりっと指が後ろの付け根を擽って前に耳を軽く押し倒すようになぞる。びくっと腰が震えた。
押し倒してでも止めさせないと本格的にヤバい。そう思うのに、***の怪我をした体を思うと強く出られない。

「あっ、くっそ…っ!や、やめねーとちゅー、すんぞ」

絞り出すように声を押し出せば、にへらと***が笑った。

「いいですよ」

するりと耳を撫でていた手が頬に添えられる。

「おまっ!…っ、オスがちゅーだけで止まれると思ってんのか!、こっ」

交尾まですんぞ!
それは言葉にならなかった。
ふにっと頬に触れる柔い感触。一瞬触れると直ぐに離れた。

「ちゅーくらい容易いものです。あっ、でも口同士はダメですよ。それは夫婦の契りですから」

何も言葉にならない。頭は真っ白だった。
なんでやつだ。長く生きていない。そう言っていた言葉通り世の中を知らなさすぎる。
まだ近距離にある***の後ろ頭に手を当て引き寄せると、口の端に口唇を押し当てた。
ちゅう、ちゅっ、ちゅと音を立てて数回啄んで指で下唇をなぞる。

「俺の言ってるちゅーは、お前にとっての夫婦の契りの方。口同士だけじゃなくて、体のおくの深いところでも契ろうか?」

目の前の顔がされた事を自覚したのか、かぁぁと赤くなる。

「次はほんとに口にするよ?」
「い、いまのも、ほとんど口ですっ!」
「いーや、口同士だったらこんなんじゃ済まねェから。おまえのその柔らかいくちびるに噛みついて口の中舌で舐めまわして、舌じゅって吸って、唾液を流し込む。いいの?」

***に尻尾と耳があったらぴーんと立って、逆毛立っていそうなくらいに体が固くなる。

「…いいんですか…?そんなことされたら私、一生付き纏いますよ」

もじっと口を手で隠すととんでもないことを口にする***に引き寄せた手を離した。
え?キスで一生?怖いんだけどなにそれ怨念みたいなやつ?
追いかけるのは好きだが、追いかけられる方は苦手な銀時はどっと冷や汗出てきて***から体を引く。

「知らないんですか?ツバメは一度番を持ったら、どちらかが死ぬまでは一生一緒です」
「おまえ、好きとか嫌いとかはいいの?ちゅーした奴と一生番のままいんの?」
「銀時さんのことは嫌いじゃありませんし、そ、それに…、キスしちゃうと、子供ができちゃいます」

どーん!と上から大きな石が降ってきて頭の上に落とされた気分だった。

「あの、言っとくけど、ちゅーだけじゃ子供は出来ねェから。つーか俺とお前、異種だし」
「ええ?そうなんですか…?私ったらてっきり。忘れてくださいっ!」

慌てて恥ずかしそうにそっぽを向くところりと寝転がって背を向ける***に、銀時は汚れた包帯を手にすると巣穴を出ていく。
近くの川で***の血で汚れた包帯を洗うと妖力で水を飛ばして丸めた。
つーかなに、ツバメ怖っ!
ただの鳥ならまだしも妖の一生舐めんなよ。
妖はかなり生きる。かく言う銀時もかなりの時間を生きている。長く生きていない。そう言っていた***はまだまだ生まれたばかりの雛そのものなのだろう。

「つーか、ちゅーで孕むって知識子供か!」



♭2023/11/14(火)


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