つばくらめ*3



銀時が巣穴を出ていく音に、***は縮こまって息を吐いた。
恥ずかしい。口と口でキスをすると子供が出来ると思ってた。
そっと口元に手を当てると銀時のくちびるの感触を思い出す。柔らかくて温かくて少し湿ってて、いきなりだったけど優しく触れてくれた。
銀時さんはいつでも優しく触れてくれる。諭すようにきちんと言葉で伝えてくれる。何の妖なのか定かではないが、その心根だけは信じられる。そんなふうに感じると、すごくすごく心が温かくなって顔が緩んだ。

じゃり、じゃりと巣穴に近づく足音がする。巣穴の主が戻ってきたと思って体を起こすと、ひょこりと覗いた顔が銀時ではないことに体を強ばらせた。
くりっとした丸い目に栗色の髪。爽やかな風貌をした青年が中を覗くとずかずかと入ってきて目の前に座った。

「ここの主は?」

青年の視線が***の姿を確かめるように頭からつま先まで見る。

「あ、あの…今、お外にいらっしゃいます」
「あーそう。あんた旦那の何?」
「え、旦那?」
「悪ィ、癖でよく旦那って呼ぶんだよ、ここの主のこと」
「あ、銀時さんのことですね」
「んで、旦那のコレ?」

青年の小指がぴっと立てられる。
たが意味が分からなくて首を傾げた。

「それが何を指すか分かりませんが、ただ助けていただいて、少しの間ここに居座らせていただいております」
「助けた、ねェ。ふーん」

青年は意味深に笑うと巣穴の入口に目を向ける。

「お、旦那」

綺麗にした包帯を手にした銀時が巣穴に戻ってきた所だった。



「げ、なんでいんの?沖田くん」

銀時は気持ちを落ち着かせて巣穴に戻ると勝手に居座る見知った顔にげんなりとした。

「げってなんですかィ。いつもと違う匂いがしたもんでね。あとアレ。蛟のやろーの調合した薬、欲しくて」
「だからいつも言ってんだろ、俺を通すなって。まともな薬ならまだしもロクでもねェ薬ばっかり」

蛟とやり取りをすると、ロクでもない薬を渡す時だけ怪訝そうな顔をするのを思い出してため息がでる。

「仕方ねーじゃねーですかい。奴とはあんま頼み込めるような仲じゃねェし、でも土方射落とすための薬が必要だし?」
「射落とすっつーか、腹下す方だろ!」
「まずは飛べねーようにしねーと同じ土俵にすら立てねェ、勝負にすらなんねーんですよ」
「なにそれ!腹下したら飛べねーの?!烏天狗ってそんな不器用なの?」
「飛んでる時に漏れそうになったらやべーじゃねェですかィ」
「それもう飛ぶ飛ばない以前に悶絶もんだよね。沖田くんの方が有利になってるよね。同じ土俵じゃなくて既に土俵から蹴落としてるよね!」
「あーほんとですねィ。じゃあ俺の策略が勝ったってことで」
「いいの?そんなロクでもない策略で!」
「立派な策士と呼んでくだせェ」
「汚ねークソまみれの策士な!」

はあと息をついた。
くそっ、何の話だよ。***ちゃん微妙に引いてんぞ!

「ははっ、旦那こんなんなんで、あんま見た目で美化しねー方がいいですぜィ。小鳥のお姉さん」
「止めて、もうこの子に変なこと吹き込まないで」

生まれたばかりの雛の様な知識の***と、俗物的な沖田を会話させることすら憚られる。なのに***は沖田に笑いかけた。

「あの、鳥はお腹下すと、確かに飛べないかもです。あ、いや、…どの生き物も同じだと思いますけど、すごくお腹痛いし、銀時さんの言うように悶絶ものだと思います」
「***ちゃんも、なに丁寧に説明してんの?!こんな話しに無理して割り込むことねーから!やめて!ほんと!沖田くん!」
「いやーなかなかない反応で面白いですねィ」
「面白がんな!とっとと帰れ!」

座り込む足を叩いて立たせると追い出すようにお尻も叩く。

「蛟のやろーに、この薬調合してもらってくだせェ」

面倒くさそうに足を前に出しながらひらりと沖田の手からメモ紙が舞う。それは不自然に動くと***の膝の上に収まった。

「あ!もうっ!やめろって言ってんだろ!」

鎌鼬の沖田が操る風は、獲物を斬り裂いたり今のように物を舞わせたり。用途は様々だ。
***がメモ紙を見る前に奪い取ると握り潰した。

「じゃー旦那頼みますぜィ」
「知らねー!俺なんにも知らねーから!!」
「くだらねーだけの薬だけじゃないんで」
「そっちだけなら引き受けるわ!全部は知らねー!」

巣穴から出るとびゅっと風が吹いて沖田の姿が消える。後に残った風が木の葉を巻いあげた。正にこの旋風のように嵐が去った瞬間だった。



♭2023/12/31(日)


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