表六玉の集まり


お見合いってなんだっけ。ウ〇コにワントラップ入れて蹴飛ばしてその事実を見合い相手に擦り付けて池に蹴飛ばすことなんだっけ?そして怒ったゴリラに追いかけ回されて惚れた相手が別の人に嫁ぐ事を知り、見合い相手に惚れられる事なんだっけ?
先日の常識的な頭で計りきれないことばかり起きた見合いを思い出す。何より近藤の想い人の悲しそうな涙。聞いた話によれば彼女が嫁ぐ相手は幼い頃に口約束をした許嫁の仲だとか。
口約束が何年も後に有効なら私も突撃したらよかったのかな、なんて思うも直ぐにそんな考えは飛んでいく。彼女は泣いていた。それは少なからずとも心から喜んでいた訳では無いということ。それでも柳生家のご子息について行った。

「オイ何してんですかィ」
「はい!仕事しますすみません!!」

机上に広げるだけ広げていた書類の上に鬱臥し物思いに耽っていた顔を勢いよく上げると、そこには隊服ではなく着物に身を包む沖田がいた。

「今日は仕事いいんで一緒に来てくれやせんか」

言葉自体は頼んでいるのに明らかに尋ねるような口調ではない。***は広げてあった書類をかき集め仕舞うと外出の準備をする。

「刀いりませんので、代わりにこれ」

刀掛けから新調したばかりの刀を腰に差そうとすれば手渡される木刀。

「どこに行くの?」
「柳生家」
「…………え?」

単語で返された言葉に固まる。
それは近藤の恋敵の家名。

「なにしに……?」

聞いてはいけない気はしていた。でも知らないでいるよりは知っていた方が回避の仕方も考えることができる。

「決闘でさァ。まあ来たくないなら来なくていいですけど、***さんのいない所でうっかり何かを喋るかもしれませんが勘弁してくだせェ」

柄を掴んだまま固まっていた手を木刀がすり抜けていく。

「ままままってえ!!沖田くん!」

そうだ。ちょっと呟いてしまった言葉を聞かれていたのだ。この悪魔なんて可愛いと思えるほどの、とんでもないくらいにドSで地獄の閻魔以上の厄介な男に。

「行きます、喜んで」
「じゃねェだろィ」
「一緒に行かせてください沖田くんんんん!!!」


抗う術もなく沖田の背についてしばらく行けば見えてくる広大なお屋敷。長い階段を上がればいつもは客人が来なければ閉ざされているであろう立派な門扉は開かれていた。そこにあるのは5つの背中と地面に伏した幾人もの男達。

「なにこれ……、?」
「決闘だって言ってんだろ。ここで好きなだけ暴れなせェ***さん?怪我完治したばっかりでうずうずしてんでしょ」

あんたの楽しい遊び場提供してやって感謝してくださいとばかりに告げられた言葉に顔が引き攣る。一体沖田くんの目には自分がどう写っているのやら。
***は背を向けて立っている5人を見つめる。沖田同様、見慣れぬ着物姿の真選組局長と副長。あとの3人はつい先日のお見合いで再会した万事屋だった。

「やっぱり帰らせてください。靴舐めますんで。あ、足りないなら靴の裏も舐める…!」

だって万事屋が、一番会いたくない人がいるんだもの!
逃げないとは決めたけどこちらから積極的には近づきたくはない。
それに先日は避けられない事故のようなものだ。だけど今回は回避しようと思えばできる。

「靴の裏も舐めるんですかィ。興味あっるっちゃ有るけど、つべこべ言ってんじゃねーよ。腹ァくくれよな」

緊張感のある空気が一気に崩れる。
後から来た2人が突拍子もない会話をするのを怪訝な顔で眺める5人。

「こないだ話したじゃねぇか。逃げんなって」
「いやそれあの時だけの話じゃないの?全てに於いてだったの?ていうか沖田くんが私の何を知ってるっていうの?!」
「お前を取り巻く森羅万象全てに於いてでさァ」
「え、それは私の事を知ってるって件?それとも逃げる逃げないの話?てかお前?沖田くんいまお前って言った?!」
「揚げ足ばっか取ってんなよなー、雌豚が」
「最終的には雌豚かコノヤロー!」
「お前らいい加減にしやがれ」

言い争いに夢中になりすぎていて横に立つ般若に気がついた時には遅かった。徐ろに伸ばされた土方の手は沖田と***の頭を掴むと額と額を擦り合わせていた。

「あだだだだッ!!!つ、潰れる!!頭がつぶれまさァ!!」
「すいません、副長ごめんなさい!帰るから帰ります!だから手を離しッいだだだ!」

器用にもこの状況で***の頬を抓る沖田。

「帰る?***さん帰ったら分かってんでしょうね」
「ね、ねえ知ってる副長。前頭葉って機能障害起こすと人が変わるらしいです、沖田くんのドSがドMになるか試しにちょっと……!ああああ!!!」

うるせえお前は豆しばか黙ってろと一旦離れた頭が再びごつんと重い音を立ててぶつけられた。

「バイオレンス!パワハラ!」

それなりに手加減はされてはいたが痛いものは痛い。

「たく総悟、何連れてきてんだ。遊びじゃねんだぞ」
「***さんだって遊びじゃないですぜ。責任取りたいって言ってきたんですよ。ね」

そんなことは一言も口にしてないと叫び出しそうなのを堪える。だが事実、土方に任されていたのに何もしなかった事は悪いとは思っていた。

「責任?見合いの席でのこと言ってんのか。だったら責任があるのは俺だ。近藤さんの魅力を侮ってた」
「……副長ボケですかそれ。ツッコミ欲しいですか?」

ゴリラに惚れられる魅力なんて不要だ。

「え、***ちゃん酷くない?」

近藤の悲しみの訴えは無視されて流れていく。

「ボケじゃねぇよ、近藤さんだってやる時ゃやるんだって事だよ。だからお前は責任なんか感じるな帰れ」

しっしっ!と犬畜生を追い払うように土方は手を振る。

「いやお前らみんな帰れよ。さっきから言ってんじゃん。大義もくそもない戦いに巻き込む訳にはいかないって」

今から近藤がやろうとしている事は見合いとは無関係の、想い人の涙に突き動かされた自分勝手な行動だ。若しかすると勘違いかもしれないし、喧嘩を吹っ掛けようとしている相手は元幕府お抱え剣術指南役兼、幕閣を務める家柄だ。下手をすれば大事になりかねない。
そんな近藤の心配を余所に土方は煙草をふかし一言。
ただ、柳生には借りを返しにきただけだと。
沖田も雑草を煙草に見立てて土方を真似た。

「俺も我、通しにきただけでさァ。このままいけばゴリラを姐さんと呼ばなきゃいけなくなる。ちなみに***さんは有給、俺は今日はバリバリ仕事でしたがサボって来ました」
「オメーはホントに我だな!!たっく、、それに***ちゃんを巻き込むなよ総悟……」

悪かったと近藤は沖田の代わりに***に軽く頭を下げた。

「さあ、トシの言う通り***ちゃんは帰ってくれ。責任なんか感じなくていい。そもそも見合いの件とこの件は無関係だしな」

元々脅されてついて来ただけだ。近藤の言うように帰ればいい。そうしよう。さっきまでそう思っていたのに。でも優しく諭すように帰れと言われて浮かんだのはこの人の想いを守りたい。ただその思いだけだった。私にそうしてくれたように。
この人の大事な人が悲しんでいる。だからこの人も悲しんでいる。だったら帰っちゃだめだ。そう思ったら勝手に口が動いていた。

「私にも通したい我があります」
「え、***ちゃん、さっき帰りたいって」
「よく考えたら近藤さんのお嫁さんがゴリラはちょっと受け入れられないし、もしそういう事態になったら近藤さん、真選組にいられる保証もありませんよね」

相手は王女。猩猩星に行くことになるかもしれない。

「私、置いていかれるのは大嫌いなんです。私も私の我を通すことを許してくれますか?」
「……でも、」

巻き込みたくない。近藤の顔には明らかにそう書いてあった。

「土方さんと沖田くんは良くて私は巻き込めませんか?」

付き合いの差で言えば巻き込めない。そう思っているんだろう、でも。

「だったらこうしましょう。私は勝手にここにいますので近藤さんは何も関係ありませんので」
「何言ってんだ、帰れって言ってんだろう。近藤さんも何圧されてんだ、またあの時の二の舞い踏む気か?こいつは口先だけはうめーんだよ、あんたじゃまた丸め込まれる」

はい解決、行きましょう。と横をすり抜ける***を土方が引き止めた。

「口先だけじゃなきゃいいわけですか?」
「何で証明する気だ」
「そうですね、不意打ちでも土方さんの背を地につけましたよね?」

***が腕まくりをし、ぐっと拳を握れば土方はサッと身構える。

「あ、あれはいきなりでだな、!」
「いきなりでも対処しなきゃ隊務は務まりませんよ、ふくちょーさん?それとも、女だからって油断してました?ダメですよ」

ぷぷーっと笑ってやれば、それとこれは隊務と関係ないと頭ごなしに突っぱねられた。

「わかりました。じゃあ言わせてもらいますが私情なんで口出ししないでください。私は今ただの###***なんで、真選組副長助勤じゃないんで」

そもそも近藤自体が組とは関係ない。大義もないと言っているのだ。だったら命令系統が働くはずなどない。

「お、おまえふざけるのも大概にしろよ!」

あなたの言うことは聞かないとがんと言い張る***に土方は言い募るも、動揺で言葉を詰まらせた。

「そもそも我を通しに来た土方さんもプライベートですよね。だったら今は副長じゃないんで命令はしないでください、ただの土方さんなんで」

トドメの一言にこめかみに青筋が浮かぶ。

「……っぁぁあああ!!!お前ほんとめんどくせェ!!おい総悟、連れて帰れ!」
「嫌でィ。気に食わねェならお前が帰れよ、ただの土方さん?」

見下すような笑みを浮かべ沖田は吐き捨てると腹を抱えて笑い出す。

「***さん、分かります。僕も一緒だから」

大切な人には悲しい顔なんてして欲しくないんですよね。
それまで黙っていた新八が静かに呟いた。

「誰だって構いやしないんです本当は。姉上が幸せになれるなら」

泣きながら赤飯たく覚悟はできてる。離れることが寂しくて自分が泣くことは当然の事で仕方ない。

「でも、泣いてる姉上を見送るなんてマネは、まっぴら御免こうむります」

いつだって笑っていて欲しい。それが姉弟でしょ。
そう必死に訴える新八の顔は涙に濡れていた。





想いはおなじ

♭20/05/15(金)

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