*特命で再会 「あー、###、、そのなんだ、お前に警察庁長官からの特命を出す」 「特命?」 急に話があると呼ばれ来てみれば歯切れの悪い土方は男物の着物を差し出し、とんでもないとこを口にした。 「局長の見合いについて行け」 風情のある庭を眺めながら料亭の廊下を近藤の後ろに付き従い、男物の着物に身を包んだ***は歩を進めていた。鹿威しが水の重みに耐えられずカコン、と音を鳴らす。近藤の前にはそう何度もお目にかかることは無い警察組織のトップ、警察庁長官、松平片栗虎がいる。 一体全体何がどうなったら見合いに血縁関係のない女が男側の付き添いとして送られる羽目になるのかもう一度この特命を出した男に問いたかった。 「###ちゃ〜ん、そんな難しい顔してどしたの?言っただろ、乙女心ってのは男には解し難い。しかもバブルス王女は天人ときた。もし言葉が通じなかった時の保険だから、通訳してくれればいいだけだから」 長官は***の物言いたげな視線に気がついたのか近藤との会話を切上げ理解し難い事をつらつらと並べる。 だからそれがおかしいって言ってんの!! そんな保険いらねェ!保険っていうかそもそも言葉通じなかったら私ですら無理だって!! だいたい、副長も副長だ。絶対いつもだったら喩え長官の言葉でも、常識に反してたら反対してるのに今回はなに?喜んで送り出しやがった。あのマヨネーズ。 見合いに出掛ける前にみた、切羽詰まったようで嬉々とした表情を思い出して苛立ちが蘇る。 『いいかッ!お前が真選組最後の砦だ!!ぶち壊せとは流石に言わねェ。だが何が何でも、ゴリラと近藤さんを良い雰囲気になんてさせんなよ!!』 ゴリラと近藤さんの良い雰囲気ってなに?ゴリラと人間が良い雰囲気になるってどんな感じなの? 無責任過ぎるよね。一体私に何をどうして欲しいんだろうかあの鬼は。 「分かりました……、分かってます」 「心配しなくて大丈夫、オジサンちゃんとあちらさんにも承諾もらってるから。よし二人ともいくぞ」 待って、承諾をもらえるくらいの会話が成立するちゃんとした通訳いるなら役目を放棄したい。そう訴えようとすれば開かれる障子。その先にいたのは座っていても天井に頭がつくほど大きな毛むくじゃらのゴリラだった。 思った以上にゴリラだった!! 大きさも何もかにもが人と違うから!!! 何がどうしたら私と通じることがあんの!? 女だからって言ったってアレはムリだよね!! それともあれか、長官の中で私もゴリラに分類されてるのかな? 近藤とふたり立ったまま呆然としていれば長官と猩猩星の仲人は何やら話をしたかと思うと会釈をして2人して退室して行った。 待ってーー!!!!私も連れてってください長官!!! 思わず駆け出そうとした***の腕をがしりと近藤が掴んでいた。 「待って、お願い、***ちゃん」 長官が退出してから不毛な努力が繰り返されていた。 「あの〜バブルス姫はなにか御趣味とかは?」 「ウホ」 バブルス王女の一言の返答に物凄い勢いでこちらを見る近藤。 いや知らねぇ!!!通訳求めないで近藤さん!!! いくら近藤さんの力なになりたいと思ってもこの分野は力になれませんっ!!! 申し訳ないと思いつつも、すっと視線を逸らせば覚悟を決めたのか息もつかせぬ勢いで一人で喋り出した。 「…ああ、アレね〜いいっスよねアレ。シュバァァみたいな、ドビシュバァァァみたいな。でもアレあんまりやり過ぎると肩痛めるねアレ。痛めないっけ?違うな……炒めるんだっけ?野菜を?」 野菜?!!肩痛める話からいきなり野菜炒め出したよ!! だめだ、開始数分だけど会話が成立しない時点で見合いが成立するわけがないんだ。 ***は席を立つと逃げるように部屋を駆け出した。その勢いのままドタドタと廊下を走る。 「長官んん!!!!どこ行ったんですか長官んんん!!!!」 他の客の迷惑とは分かっていても叫ぶのを止められない。 だって私には無理だもの! あの苦境から近藤さんを助け出すなんて!! 下手したら近藤さんの恋人認識されて破談以上に猩猩星と地球の関係を悪化させかねない。 呼びかけに一切姿を見せない事に痺れを切らした***は玄関に向かう。料亭はファミレスと違い土足厳禁。靴を脱いでから上がらなければならない。まさか現状放置して帰ったりしないよねと思いつつも息抜き上手な長官だ。 料亭の仲居から渡されていた靴箱の鍵の番号を確認する。ふたつ前が長官の番号だ。 「…………嘘だといってよ、バーニィ」 靴箱の中は空だった。 何これなんなのこれ何の罰ゲームなんだろう。 行きとは違いぺたぺたと力無く見合いをしていた部屋に戻る。 だいたい逃げ出しておいてなんて言うの?なんて言うべきなの? 「王女ォオオオ!!!なんでェェ!?上から瓦がァァァァ!!!」 自問自答を繰り返していれば庭の方から聞こえてくる絶叫。 なんで庭?そしてなんで瓦?仲良く庭で散歩?もしかして上手くいってる? ならば今顔を見せるのは野暮と言うやつではないだろうか。というか行っても何もできることがない以上ただの出歯亀か馬に蹴られろってやつ。この場合は馬じゃなくゴリラだけど。 「バブルス王女!!、大丈夫ですかバブルス王女!!」 だが、続けて聞こえてきた酷く焦った声にそんな考えはあっという間に飛んでいった。 「近藤さん!!」 駆けて行った先にあった光景は凄惨たるものだった。 バブルス王女に無理やり何かを食べさせる桃色の頭と、それを吐き出したところをビンタする銀髪。 嘘でしょ何してるの?!それ猩猩星のお姫様!! 喩えゴリラといえど地球の動物のゴリラとは別物だから!! 「やめてくださいっ!!お願いしますっ!」 このままじゃ王女様を集団リンチのとんでもない絵面になる。巨大なゴリラといえど一応は女だしここまでされる謂われはないはずだ。 とにかく止めなければと誰でも良いと手近にいた人の手を掴んだ。誰だよと振り返った男は***の姿をつま先から頭の天辺まで眺める。 「なに、兄ちゃん」 「に、…!」 っていうか銀ちゃんんんん!!最悪だ。 焦っていたのと、いつもの黒いインナーに流水紋の着流しでは無く青い作務衣のせいで気が付かなかった。 「あれ?おたく兄ちゃん…じゃなくて姉ちゃん」 銀時は掴んでいた***の手をふにふにと握り返すと、柔らかい手に疑問を持ったのかまじまじと凝視し更に顔を覗き込んだ。 「だれだっけ……?なんか知ってる顔な気がすんだけど」 人の顔も名前もそう簡単に覚えられる人ではなかったなと思うも、気の抜ける言葉に溜息がでる。 「誰でもいんで、取り敢えず王女に乱暴するのやめてくれないですか?」 「いやよくねーよ、なんかこう歯の間になにか詰まった感じでキモチワリーよ。なんかヅラが、……ああ!思い出した、昔ヅラの敵娼にいたわ。なまえなんっつたっけ?」 「いや知らないし違うわっ!!」 なんで敵娼?というか娼館に通ってたという生々しい話をするな!!! 今度ヅラに会った時にそんな目でしか見られなくなるじゃん、気まずいじゃん! 「え、じゃあ高杉の敵娼?」 「いや、敵娼から離れよう。そして手を離して?」 引き止めるために掴んでいた手はいつの間にか逆になり、***の手が銀時に握られていた。 「ああ悪ィな、でも今ので思い出したから待ってくンね?」 掴んでいた右手を離すと左腕と袖を掴まれ、ぐっと肩まで遠慮もなしに引き上げられる。何をされるのか検討もつかず抵抗する間なんて全くなかったそこには、顕になった白い肌に不似合いの傷痕がひとつ。 高杉に刺され銀時の手に血をつけたその傷に無言で手が伸ばされる。腕を掴まれ傷をしっかりと見られてしまう。 「傷残ったんだな。猪女」 静かに呟かれた言葉に、俯いてしまう。 刀を握ってからそれなりに死地は潜ってきた。だからこそあれだけの数の天人に囲まれたのが初めてでも、切り抜けることが出来た。 「当たり前でしょう、斬り合いしてるんだから」 残っている傷痕はこれだけじゃない。 あなたの知らない傷痕がまだ、ある。 「それにしても、誰が猪?」 相手も確認せずに足を踏んだり怪我したお腹に肘鉄食らわしたけども女に向かって猪はあんまりではないか。 抗議をすればそれ以外に何があるの?とばかりに見開かれる銀時の目。 「え?じゃあなに、ヅラの虎のk」 「もう何も思い出さないでいいわ、そのまま記憶から消し去ってください頼むから!」 どいつもこいつも人をなんだと思ってんだ ♭19/05/26(日) (1/9) ← |