甘苦


※時系列的には、まだ2人の関係に亀裂が入っていなくて、白夜叉くんが夢主ちゃん以外の女性とえっちなことをしてます。抵抗がある方はバックされてください。読まなくても本篇にそこまで影響はありません。





















ぐちゅぐちゅ、…淫らな音が脳内を満たす。
行灯に入れた火が部屋を照らすも火はか細く、仄暗い室内で組み敷いた女の顔は余り見えなかった。

「あっ、…ああ、そこ、好きっ…!もっと、しておくなんし」

自分を組み敷く客である男の気分を上げるために、女が声を上げるのを男はそっと人差し指を口に当て黙らせる。

「んっ、ごめんなんし…」

意図を察したのか女は謝ると嬌声だけを口にした。
抱く時は余り喋らないで、部屋を暗くして顔が分からないくらいの灯りにして欲しい。
その道に通じる女は男の言葉に頷いた。
このお人には好いた人がいる。でもそのお相手を抱けないから代わりに遊女である女をその人に見立てて抱いている。少しだけ不愉快な気持ちがあったが、仕事である以上文句は言えなかった。それに男が触れてくる手は優しくて甘くて、自分勝手なものでは無く不満なんて出てこない。相手を慈しむ心が垣間見え、この人ならば想い人に気持ちを伝えても上手くいくのでは、そう男と重なりながら褥の中で思った。


女の奥を自分の欲で押し上げて、背筋に甘い痺れが走る。銀時には目の前の女がもう***にしか映らなかった。
嫌がることなく受け入れて首に腕を回して腰に強請るように足を絡めてくる。少しだけ積極的に感じるが、頭の奥が快楽で占められて、些末なことは気にならなかった。

「くっ、…あぁっ」

びゅうと熱をスキン越しに吐き出して女の中を滑らせる。ひくひくと小さく跳ねる腰を見るとまた欲が止めどなく膨らんだ。
ずるりと欲を抜き去ると新しいスキンに変えて女の体をうつ伏せにすると、後ろから貫く。ぐじゅりと女の中が咥え込むのを皮切りに激しく抜き差しを繰り返す。

「ひ、…あっ、ああ!はげし、っあ…うぁあ」

乱れた姿が見たい。俺にだけどろどろに溶けた顔を見せて足を開いてねだって欲しい。
無防備な背中を引き寄せると女に手をつかせ柔い胸に指を沈み込ませた。むにゅりと掴んで指で中心を挟むと揉み込みながら指の間で潰した。その刺激に体をふるわせて女の隘路がぎゅうと絞まる。

「すっげ、締まり具合。はっ…きもちい?」

女からは返事はなく、気持ちの良さそうな喘ぎ声のみが響く。
***ならなんと返事をするだろうか。どんな風に俺を欲してくれるだろうか。そんな風に考えると頭の芯が痺れて熱が弾けた。


* * *


隣に座る***が銀時の腕に巻かれた包帯をくるくると外していく。じゅくりとした怪我が顔を見せた。

「あーもう、私がいない間ちゃんと手当てしなかったでしょ」
「……んー、」

下から覗き込んでくる顔がむっとして怒っているのを伝えてくる。
だが銀時の視線は顔の下。首から着物の襟元へと向かっていた。幼い頃に比べると丸みを帯びた体が、柔らかそうな胸が隠れる着物。触ってみたい。他の女のようにきっと***の胸も柔らかい。

「ちょっと聞いてる?」
「んー、聞いてる聞いてる。…痛ェっ!!!」

強烈な痛みに卑猥な妄想から引き戻される。
ひたひたに消毒液を浸した布で傷口を洗われていた。

「ちょっ、いで、まて、!あっ!ばかっ!」
「バカはどっちですか?ちゃんと手当てしてよねっていつも言ってるでしょう」
「わかっ、わかったからぁああ!手!とめろ!」
「いやです。ほらそんな逃げないで、ちゃんと見せて」

ぐわしっ、腕を引き寄せられて抱え込むように腕を掴まれた。***の脇に二の腕を挟まれている。意図せずして胸に腕が触れた。

「……っ!」

柔い。胸だけじゃなくて体が柔い。
なのに腕は未だに痛みを伝えてきてそれどころではなくなってくる。

「傷口はちゃんと水で洗うこと。ばい菌が入ったら膿んでなかなか治らなくなるでしょう」
「なに、なんなの鬼なのお前!」
「そうです鬼です」

そういう***の手が消毒液を新しい布で拭うと塗り薬が塗られて、ガーゼが当てられると包帯で巻かれた。

「はい、終わり。一日おきににちゃんと包帯とガーゼを変えること。いい?」
「わかったよ、けどさ、すっげー痛ェんだけど?!これなんか納得いかねェ。俺だって放っておきたくて放ってたわけじゃねーから」

自分より重い怪我のやつが多くて、ちょっと後回しになってただけだ。

「もう、仕方ないな」

そう言うと着物の袂から小袋を出す。
何かと思えば口にカリっとした小さい粒を押し込まれた。口の中で転がせばじわりと広がる甘い味。

「金平糖、か」
「甘いでしょ?」

そう言って笑う***にもう一粒と手を差し出せば、小袋ごと手のひらに乗った。

「ん、すげー甘い」

時々こうして食べ物で釣るかのように何かをこっそり持ってきては***は銀時の口に押し込んだ。常々来るな、そう言う口を塞ぐためなのか、どういった意図でしている事なのかは知らないが、銀時はこの空気がたまらなく好きだ。だから静かな空気が流れると少し前に他の女に***を重ねて穢したことに激しい後悔が襲ってきた。
欲は溜まる。好きな女ではなくても男は抱ける。でも、たまらなく***の事が抱きたいと思ったのだ。そう思い始めると止まらなくて、声が似ている女を選んで過ちを犯した。
終わったあとに残ったのは***に対する罪悪感と、虚無感。そして今目の前で笑う***にちっとも声が似ていないことに気がつくと、馬鹿なことをしたなと思った。
喩え欲が溜まってもあんな事をするのは、あの一回だけにしよう。

「***」
「ん…っ?」

摘んだ砂糖の塊を***の口に押し付ける。柔い唇が押し付けられたそれを迎え入れるとガリっと噛む音がした。
その口許につい目がいく。
***はどんな風に好いた男にくちづけをするのだろうか。
小袋の中に指を突っ込んで一粒口に運ぶと、***の唇に触れた指が自分のに触れる。それだけできゅうと胸がしめつけられる。
気がついたら金平糖を運ぶ指が止まらなくなっていた。

「ちょっと銀ちゃん、食べ過ぎ」
「いーじゃん、元からそのつもりだろ」
「そんな一気に砂糖食べたら病気になっちゃう!」
「なに、***ももっと欲しいの?」

小袋を取り上げようと迫ってくる***の手を掴んで引けば、座る銀時の足の上にぽすりと転がり落ちてくる体。
他の女と***を重ねるのは止めよう。そう思ったばかりなのに、思考が勝手に重ねて抱いた記憶をほじくり返した。
あ、なんかやばい。
いつもなら***をいじって、言葉以上の暴力が返ってくるのだが、それが出来るほどの余裕がない。
代わりにまた金平糖を***の口に押し付けると、文句を言いたげに寄せた眉が緩むと金平糖がするりと口の中に消えていく。

「そうじゃなくて」

金平糖を追うように***の口許に夢中になっていた。
こつりと額と額が当たる。

「ちかい!」

吸い寄せられるように、顔が目の前にある。
ぺちん!そんなふうに頬を軽く叩かれた。

「何この距離!」
「いだだだっ!まてっ、首がっ!」

ぐぐーっと顔を押して遠さげようとする***の手を掴む。

「変な方向むく!たく、」

前かがみになって***の上に覆い被さる形から顔を上げた。掴んでいた手を解放すればするりと逃げていく。
あー、いまのはマズかった。
無意識に追いかけてキスをしてしまう所だった。
今までだってそういう目で見てきたが、変なフィルターが入る。触れてみたいという欲求に歯止めが効かない。どう考えてもたった一回の過ちのせいだ。

「自分で金平糖をくれたくせに、取り返そうとするなんて」

それもあんなやり方で。なんて赤くなって文句を口にする***にほっと息をついた。
鈍い。鈍すぎて胸を撫で下ろすと同時に、***にとっては自分はそういう対象ではないのかと思うと、ぎりっと胸の内がしめつけられる。
小さい時からそばにいて、当たり前のように笑って泣いて。信頼のおける関係だから、***は俺から離れたくないと思っているだけなんだろう。
そう思うと癪に触った。

文句を垂れながら怪我の手当に外した包帯や薬品を片付ける***の片手を引くと、金平糖を小袋からざらっと出して乗せる。

「え…、ちょっとなに?」
「俺が食い意地張ってるだけだと思うなよ」

それだけ残すと逃げるように***を残して部屋を後にした。



桃色、黄色、白色、水色、緑色。宝石のような綺麗な色をする金平糖が***の手のひらの上に山のように乗る。

びっくりした。銀ちゃんの足の上に体を横たえるまではいつも通りのやり取りだ。だけど、顔が迫ってきた時は頭が真っ白になった。キス、されるかと思った。
思わず体を起こして額と額がぶつからなけば、どうなっていたんだろうか。
そう思って頭を振った。
銀ちゃんはとっても綺麗な女の人が好きだから。
時々、本当に偶に。こうして戦場に***が来た時にいない時がある。そういう時は大抵戦場が落ち着いている時。近くに花街や旅籠がある時。聞かなくても分かっていて、知らない顔をしている。恋人でもなんでもない自分が口を挟むのは違う気がしたから。
ちょっとだけ悲しくて、でも仕方ないよねって思う。健全な男の子なんだもん。
手に乗った金平糖をつついて2、3個口に運べばざらり山が崩れて、コツンと数個床にこぼれ落ちる。
自分みたいだと思った。他の女の人を銀ちゃんは受け入れるのに、私だけこの零れた金平糖みたい。
欲しいものをつまむ時に弾き出された余り物。
そんなことを考えて今度は零れないようにそっと一粒つまむと口に運んだ。
甘いはずなのに、今はすごく苦い気持ちになった。



♭23/09/30(土)

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