*極秘任務 あれから何度も仕事の合間にお見舞いに出かけた。土方は依然として闇取引と転海屋について自ら足を使い調べ物をしている。となると必然的に目の前に立つ山の書類は***が裁かなければならなかった。 「ダレカタスケテ」 書類に目を通すも頭の中に全く入ってこない。頭の中を占めるのは転海屋が闇取引に関わっていたら結婚はどうなるのかということばかり。それに縁者の縁者になってしまう沖田くんも。 「あぁぁ゛っ!!むりっ!」 幾日も続けば耐えられなかった。手にしたペンを投げ捨てると腰に刀を差し駆け出し山崎に連絡を入れる。直ぐに副長のサインが必要な書類があると急かし居場所を聞き出した。 土方を捜しながらも、頭に過ぎる嫌な予測。 もし本当に転海屋が関わっているのなら、早期に片付けなければ何も知らない人はそういう目で沖田を見るかもしれない。それは組内だけの話ではない。捕まえるのが遅くなれば闇取引で人の手に渡った武器で被害に遭う人が出てくる。様々な形で報道される可能性だってある。時間が経ち事が大きくなると2人にとっていいことは無かった。 ただ、結婚をして幸せになる。というミツバの気持ちを壊す事になるのはどうしても避けられないことに胸が痛んだ。 「お前ェは何してんだ」 港付近のコンテナ置き場。山崎の教えてくれた場所に土方はいた。 「とっとと帰れっ」 その態度はとても不機嫌。1回では飽き足らず、2回も面倒事を起こした***だ。面倒事が歩いてやってきた。土方の心境はそれだけだった。 「ほんと仕事人間ですね。根の詰めすぎはよくありませんよ」 「俺に言うな、悪党に言え。てか帰れ」 「本当に関わっているんですか、」 「今調べてんだよそれを。つーかお前に関係ねェから」 「いいんですよ、私を使ってくれて」 「お前がそうなる時は真選組がほんとにやべェ時だけだ」 「私最終兵器ですか?」 「、っさっきからうるせェよ!お前暇か!ヒマなのか?!」 「いいえ、土方さんがいないから書類がこんなに膨らんでます」 両手でお山をつくりジェスチャーで伝えた。 「なら帰れっ!今すぐ帰って書類片付けろ!」 「したいんですができないんです」 「なんで?!今までできてただろう?サボりか?急にサボりたくなった?」 「本当は私なんかよりも土方さんの方が不安だと思うんですが、どうしても色々考えてしまって」 「おまえなァ、」 やっぱり面倒事だった。こっちは仕事に勤しんでいるのに、こいつは愚痴をこぼしに来たのか。沖田とのやりとりもあり、土方も疲れがどっと増す。どうやって追い返そうか考えていた。 「沖田くんは?影響があるのはミツバさんだけじゃないですよね」 ぴくりと***の言葉に土方は固まった。 「もう一度言います。一人で行くくらいなら私を使ってください」 時が経てば経つほど事は大きくなる。まだ小さな段階で一人で片付けようとするくらいなら少しでも助けになりたかった。 一度は土方も***を試してみようと、今回の捕物に変装でもさせて隊士に紛れさせ力量を見ようと思っていた。だが調べれば調べるほどに転海屋と闇取引は結びついて離れなくなっていく。多くの人間を関わらせてはいけない案件になりつつあり、ひとりで何とかしなければと思うようになった。そこに今回の事を知っていてる人間が戦力になると有難くは感じる。だが、仕事以外では***のことはよく知らないが、勝手に攘夷志士のことを調べたり、近藤の為にと柳生に殴り込みにきたりと、情に流されやすい質なのだけはハッキリと理解しているつもりだった。 そんな奴が、少しでも時間を共にした人の幸せを壊してしまう行いを進んでするとは思えなかった。 「もしそうだとしても、一人と二人、大差なんかねェよ。むしろお前は足でまといだ」 「足でまといだと思ったなら捨てていってくれて構いません」 何とか力になりたい、そう思って口にした言葉に拙いことを口走ったと思った。これでは余計に怒らせるだけだ。 「お前はそんな事のために真選組にいる訳じゃねェだろう」 だが予想の斜め上の反応が返ってきた。 「お前はお前の守りたいものの為に真選組にいる。真選組で功を上げたいわけじゃねェだろう。だったら間違うな」 何を守りたいのかはしらねェがな。 この話は終わりだ。ほら帰った帰った。 面倒事はごめんだと土方は手を払う。 土方の言う通りだった。でも 「最初はそうでした。でも今は少しだけ違うんです。土方さん達は割り切ってるかもしれないけど、私はみんなに感謝してます」 さ迷うばかりでどこにも行き場がなかった。自分でも狡いと思ったけど近藤さんという情深い人に甘えた。 「守りたいって、一緒にいたいっていう気持ちは嘘じゃありません」 かつて大切だったものに重ねてるだけなのかもしれない。それでも、今ここにいられることに、恩返しをしたいと思った。沖田くんもミツバさんの想いも守りたいと思ったから。 「……はぁ、死ぬぞ」 「死にません」 「総悟に恨まれるぞ」 「それは土方さんも一緒です」 「てめェの守りたいものはいいのか」 「真選組も守りたいものです」 「……あいつの想いは」 静かに、苦々しく零された言葉に、少なからず大切に想っていた思いが零されて、胸が締め付けられる。 「……私には分かりません」 置いていかれた。あなたが羨ましい。 そう言っていたミツバの想いと自分の嘗ての想いが重なる。 でも私は弱いから置いていかれた。ミツバさんとは状況も想いも、相手も違う。なんで土方さんが置いていったのか、その理由すらも分からない。ただ一つだけ言えることは、離れていても感じたこと。無事でいて欲しい。それと 「私だったら、迷わず自分の想いを、信念を貫いて欲しいって思います」 土方は大きくため息をついた。 不思議な女だと思う。所作は綺麗なのに女らしくない、残念な思考をした女。ミツバとは似ても似つかないのに、まるで彼女に言われたような気がした。 「お前はほんとに頑固でめんどくせーな」 そう零した表情は、少しだけ綻んでいた。 今夜取引が行われることは調べがついている。場所も今のところ変わらず行われるので見張っていれば取り押さえることは出来る。あとはそこにお互いの首魁が来るかどうかが重要だった。頭を押さえられなければ意味が無い。 「いいか、その辺の判断は俺がする。連絡が来るまでお前は待機だ」 「……は?、え、ぇ、それは、?」 要約すると連絡が来なければ何もするなという事か。 「うぅん、土方さんそれだと意図的に連絡が来ないなんてことありませんよね」 「……ない」 「今間があった!」 「いいかァ!お前は、!ここで、俺の連絡を待つ!」 「絶対に待ちたくないんですが。置いていく気満々ですよね。こうしましょうよ。私が取引の重要人が来ているか確認して土方さんに連絡入れる」 「お前俺の部下だよね!?言う事くらい聞こうか」 「…チッ」 「舌打ちしたな」 「分かりましたよ、長時間連絡が無ければ好きに動くと」 「おいコラ、何勝手に追加してんだ」 おーい、!聞いてんのか。 そう言う土方を無視して無線機を確認する。 「あー、あー!土方さんは頑固やろー」 「それはてめーだっ!」 無線機からも目の前からと二重の悪態に、土方の手が***に掴みかかる。 「あっ、ちょ痛、!」 「返せ!やっぱお前は帰れ!」 2人して掴み合いになる。そんな大人気ない2人の耳に走る音が聞こえた。すぐ様体制を整える。ここは闇取引の行われる場所の付近。余りにも巫山戯すぎていた。 「(いやほとんどお前のせいだからな!)」 「(こんなに土方さんが大人気ないとは思っていませんでした。ごめんなさい)」 「(謝る気ゼロかてめーは!)」 現れる足音の主は見慣れた制服を着ている。山崎退は辺りを見回し、どうやら土方を探しているようだった。 「山崎?」 「あ、副長、!!」 普段の監察という仕事柄、こうしてバタバタと現れたりしない質なのに、切羽詰まった様子で土方の姿を認めると駆け寄ってきた。何やら重大な報告かと身構えると、思いも寄らなかった人の名前が飛び出す。 「ミツバさんが!」 船の行き交う音が聞こえる。周辺は闇に染り、船灯が煌々と光る。 慌ててやってきた山崎はミツバの容態が急に悪化したことを告げた。 「副長、行ってあげてください。こんな時に仕事なんざ…それも…よりによってミツバさんの婚約者をしょっぴこうなんて。…酷です、あまりにも」 土方はじっと山崎の言葉に耳を傾けていた。 「副長が間違ったことをしてるなんて思っちゃいませんよ。でも、今やるべきことはこんな事じゃないでしょう。土方さん、アンタのいるべき場所はここじゃないでしょ」 「俺が薄情だとでも言うつもりか。そうでもねーだろ。てめーの嫁さん死にかけてるってのに、こんな所で商売にいそしんでいる旦那もいるってんだからよォ」 静かに湧き出す怒りを土方は抑えようともせず、貨物コンテナ群が織り成す迷路の奥を見据える。 「土方さ…」 「山崎。お前この件誰にも他言しちゃいめーな」 「…ハ…ハイ」 「知ってんのはここにいる俺ら3人だけだな」 「ハイ」 「んじゃ引き続きこの件は極秘扱いで頼むぜ」 「副長、アンタまさか……副長!!」 目的地に向かう土方に***も後を追う。 「はぁ!アンタもか!え、ていうか、は…?ちょっと待ってェ!どういうこと?」 「行かないんですか、土方さん」 「お前が言ったんだろう」 「そうですね、そうでしたね、、」 迷わず自分の想いを、信念を貫いて欲しい。 こんなことになるなら言わなきゃ良かった。そう思う反面、きっと土方さんなら私が言わなくてもそうしただろうことは容易に想像がつく。 「いくぞ」 「はい」 気持ちを切り替えるように、腰に差した刀にそっと手で触れた。 つらぬくもの ♭21/11/12(金) (9/11) ← |