*撞着 あれからひと月、一度も***と顔を合わせていない。 いつも帰る時は戦場から離れた場所まで送り届けていたが、あの日の朝は傍にいるのが気不味く少し離れていた間に***の姿は消えていた。桂にひと言声をかけてからひとりで帰途に着いたらしかった。無事に帰れただろうか。 再び、会いたい気持ちと会いたくない気持ちが胸中を占める。あんな事をするつもりはなかった。いや、ずっとしたいとは思っていたけど。あんな形ではしたくなかった。手に残る柔い感触と耳に残る甘い声、舌に残る涙の味はとても塩っぱくて苦かった。 もう来ないかもしれない。それでいいと思う反面、***の曲がらない真っ直ぐな思いはそう簡単に折れるわけもないとも思う。どちらだろうか。そう思案する銀時の予想を***は裏切らなかった。 あれだけ酷いことをしたのに***はいつもと変わらない笑顔。でもそこには足りないものがあった。女性の装いをした時に可愛らしい簪で飾っていた黒く長い髪。それがばっさりと切られていた。 まるで女で在りたくないとでも言うように。 「おい銀時」 ***から距離を保ちそっと見守っていた時だ。高杉に声をかけられた。 「まだ揉めてんのか」 そんな容易に行けばそもそも端から揉めてなどいない。 「***に何言った」 「いつもの事しか言ってねーよ」 ここにくるな。伝えた言葉はそれだけだ。 「じゃあなんだあの髪は」 「しらねーよ、何でも俺のせいにすんな」 いやきっと俺のせいだ。あんなことをしたから、余計に女でいることが嫌になったのかもしれない。 でもそれをありのまま高杉に伝えることは憚られる。気不味くそっぽを向いていれば伸びてくる手。遠慮もなく着物の襟を掴まれていた。 「痛って…!」 「いいか、いつもあいつに影響与えてんのはヅラや俺の言葉じゃねェ。お前の言葉だけなんだよ。それだけは忘れんな」 口にした言葉には責任を持て。 行動にも当てはまるそれは今の銀時にぐさりと突き刺さった。 一日中***を見ていてかけるべき言葉を探した。酷いことをした自覚はある。彼女は思いを、意志を最後まで貫こうとしているだけなのに。銀時にとっては違った意味を持つ行為でも、***にとっては女であることを責められたと感じたのかもしれない。そう思うと同時に、どうしてもここに居ることが許容できない自分がいた。 色んな男に笑いかけて体に触れて手当をしている姿が、誰にでもそうある***が。いいところだとは思う。真っ直ぐで優しくて温かくて人を大切にしていて。でもそれに反して***が***自身のことを大切にしていないことが許せなかった。 自分の怖いという思いを隠して平気だと笑うことが。怖いなら怖いと言って欲しかった。逃げて欲しかった。なのに己の気持ちをひとつも譲らず危険な場所にいようとする。守りたいと思う銀時の気持ちとは真逆でいようとする***が。 自分が必要とされていないから一緒に戦わせて貰えない。置いていかれる。初めて出会った時のように、またそんな恐怖を抱えて、自分の気持ちに嘘をついてまでも必要とされることに必死になっているのかもしれない。 もしそう思っているのであれば、そうじゃないと伝えたかった。要らないなんて思っていない。逆だ。お前の存在が大切だから、危険から遠ざけたい。怖いことに触れないで欲しい。 あんなことをした自分の言葉が今***に通じるのか、疑問を持ちながらもその足は彼女の元へと向かっていた。 夜も深け、もう眠っているであろう部屋の戸を開けると薄暗闇の中***の姿を探す。だが、どこにもいなかった。 どこに行った?ずっと傍にいたはずだったのに。 いつもより離れた距離にいて、考え込んでいたせいでどこに行ったのか検討もつかない。慌てるも荷物はある事にひとりでここを離れた訳では無いことに安堵する。人目を避けながら銀時は***を捜した。境内の茂みや部屋。人の少ない場所を捜せばすぐに見つかる姿。備品を保管している小部屋の奥に蹲るように座り、手には普段から片時も離さない懐刀が握られていた。 銀時を認めた瞳は不安と動揺に揺れる。 「こんなところでなにしてんの」 声をかければびくりと体を大きく跳ねさせそっぽを向く。 「ひとりになりたくて」 暗に、“あなたのそばに居たくない”そう言われた気がした。 今まで一度たりとも無かった***からの拒絶を強く感じ取った。安全では無い場所で、それも夜更けに勝手にひとりでいなくなる***の考えの足りない行動に苛立ちが募るも自分で招いた結果だ。仕方の無いことだ。 気持ちを落ち着け少し離れた場所に腰を下ろした。 なんと切り出そうか。気不味い空気の中言葉を探していた。そんな銀時の前を通り過ぎる姿。慌てて腕を掴んで引き留めた。 「…ッ、いた、」 「あ、悪ィ…!」 思いのほか強く掴んでいた力を弱める。 「どこ行く気」 なんと聞くべきか迷って零れた言葉は詰問のようにきつくなってしまう。***は俯くと掴む手を外し後ずさった。 「ひとりになれるところ」 絞り出すかのような震えた声。そこには昼間の笑っていた姿はどこにもなかった。こちらの出方を伺うように、それでいて目を合わせたくなさそうに漂う視線。 ああ、どれだけお前を傷つけたのか。想像しか出来なかったことは、今更こうして顔を突合せて初めて分かる。 「お前の気持ちはわかった。でも」 「もう聞きたくないっ」 ひとりになるのは危険だから我慢してくれ。そう言いたかった言葉は***に遮られた。何度も何度も聞かされた言葉に、本人も思わず出てしまった言葉なのか手で口を覆うと閉口する。 なんて声をかければいい。何を言葉にすればこのずれてしまった関係を元に戻すことができる。否、それはこうしてしまった俺が望んではいけないことな気がした。 「傍にいていいか」 今のことだけではない。これから先も傍にいていいのか不安になった。 「お願いだから、暫くひとりにさせて」 それもすぐに後悔をする。苦しむように吐き出された頑なな言葉に、2人の間にあった大切なものが欠け落ちてしまった気がした。 ***の体を引き寄せる。感情のままに触れた口唇はがつりと歯と歯がぶつかった。痛みと血の味がする。じたばたと抵抗をする体を抱き込んで腕を封じた。 「んんっう、ぎ、ちゃ、…やっ」 もがく***の目に映る銀時は先程までの戸惑いはどこにもなく、冷えた眼差しだけがそこにあった。あの夜と同じ目に息を呑む。 銀時は***の腰に手を回すと袴に手をかけ乱暴に結び目を解く。袴が腰から脱げ落ち露わになる足。慌てて隠すようにしゃがもうとする***の体を壁へと押し付けた。 「いっ…!、」 本当はこんなことがしたい訳じゃない。でもこのまま捻れて歪んで戻らないのなら、いっその事酷い爪痕でも残してしてこいつの心に居座ってしまおうか。そんな思いが、***を思いやる気持ちよりも勝った。 壁に手を付き逃げ場を奪う。首筋に寄せた唇から湿った吐息が、熱い唇が這わされた。 「髪切って、それで男になったつもりか」 視界に入った短くなってしまった***の髪を指に絡めると、***の顔が恐怖と不安に揺れる。 「前にも言ったよな、例え服装で取り繕ったってお前は女なんだ。俺みたいな男に、容易に手込めにされちまう女」 呪いのようにつぶやく言葉は、そうであって欲しいという自分勝手の願いのような気がした。 大切だから危険なことから離れて欲しい。それは建前で本音は俺の腕で守りたい。どこにも行かないで欲しいのかもしれない。なんて複雑な感情。なんて矛盾した気持ちを抱えているんだろう。 着物の襟に手をかけ肩から着物をずりおろし、さらしを剥ぎ取れば露になる肌。一度触れて繋がった感覚を思い出した。あんなにも悩んでいた思考は呆気なく押し出されてしまう。 露わになった胸に触れその突起を刺激すれば、抵抗する***の手が伸びて掴まれる。 「っ、あ…やだ、っあ」 「ここ、感じてるみてェだけど」 立ち上がった膨らみの頂きに、暗がりでも分かるほどに***の顔は真っ赤に染まる。その反面、どうしようもなく虚しい気持ちに支配された***の表情は真っ赤な色とは対照的だった。 優しさの欠けらも無い言葉に零れ落ちる涙。舌を這わせば、ふわりと堕ちていく思考。初めて***を自分のものにしたあの時と同じ塩っぱくて苦い味。 「んぅ…ッ」 唇は頬を滑り互いの吐息が触れると***のそれと重ねられた。 「なんで、こんなことするの…っ」 口づけの余韻で息を乱したまま銀時の腕に凭れ涙を流す***に罪悪感を抱くも、直ぐ様それは別の感情にすり替わる。それは身勝手な感情。 今***の頭の中を満たしているのは、酷い事をする自分だけだと思えばどうしようもなく、堪らなく愛しく思えてくる。 歪んでる。そう思うも止まらない。 「むこう向け」 向かい合っていた体を壁の方に向かせると手を付かせる。腰に腕を回し引けば、尻を突き出す格好を強要した。 下着を引き下ろせば露わになる秘所。後ろから手を這わせ陰核を滑る指。爪で優しく、時に強く刺激を送る。びくりと跳ねる腰を抑えつけ蜜壷まで滑らせしっとり潤った其処に押し入れた。 「っああ、…は」 「痛いの好きか」 振り返り首を振る***の濡れた頬から雫が飛んでくる。 「でも濡れてる」 「ひゃあっ」 押し込んだ指で膣内を擦り、抜き差しさすれば既に潤っていて、くちくちと水音を立て***を責め立てる。 「…っ、ああ、んやぁ」 「ここ、いい…?」 ひくりと反応を返す場所を何度も刺激する。 「ぁ、よくないっ」 「そうか、自分で確認してみろよ、ほら」 壁に付かせていた片手を***の秘所へと誘う。嫌がる手を無理矢理掴むと自分の手に手を重ねさせた。 「濡れてんだろ」 指の抽挿で掻き出され手の甲にまで伝い滴る蜜に触れさせる。 自分から溢れ出る体液にびっくりしたのか、手を引っ込めようとするのを押し留める。 「気持ちよくて、気持ちよくなりたくて、ここに男の欲望咥えこむ準備してんだ」 ***の痴態を見て既に張り詰めて硬くなったものを体に押し当てる。 「これを、ここに」 掴んでいた手を離すとお腹を弄りある一点を軽く押した。 「……っ、あ、」 一月も前の事なのに勝手に快楽を思い出しひくりと震える体。 そのまま顔の前まで上がってきた銀時の手が口を覆うと、指が舌をなぞる。 「んっ……!」 やだとばかりに押し出そうとする舌にもう一本。隙間から捩じ込むと舌を押さえ込んだ。 「声、抑えろよ」 「んんっ、!ん、っ!」 秘所に入れたままの指をいやらしい水音を立てながら掻き回せば体を震わせ指をきゅうと締め付けてくる。 「ここ、こうされるのが好きだよな」 親指を陰核に押し付け溢れた蜜を擦り込むように動かす。 「んうっ、ん、っはぁ、、」 指のせいでくぐもった息も絶え絶えな喘ぎ声。それは絶頂が近づけば次第に荒い息だけになっていく。 陰核を爪を立てて引っ掻く。 「あっ、…んんっ!」 いきなりの銀時の行動に、予想もしてなかった強い刺激にあっけなく果ててしまった。 「おい、座んな」 痙攣して力が入らない足に任せて座りこもうとするのを、壁に体を押し付け止める。 「まだだろ、まだ満足してねェよな」 「……っ!」 入れたままの指を左右に開けば奥から溢れた蜜が手を伝ってぽたりと床にシミを作っていく。 「奥まで満たしてやるから足開いてろよ」 「ん、っ、やぁあ、ぁあ!」 押し当てられた熱が指と指の間を進む。 前回と違い一度迎え入れたことのある熱をすんなりと奥まで受け入れるそこに、ぴったりと入ったことに言いようのない愉悦を覚え胸がすく。***は他の誰でもない、俺のものだとまで感じてしまうくらいに。 「***、こっち、ん」 顎を掴むと苦しさからか舌を覗かせる口唇を吸い、舌を忍ばせる。 抵抗をすることを止めた手が必死に壁に縋り付き、肉壁を擦られて湧き上がる制御の利かない気持ちよさに耐える。 「ぅあっ、は、あ、…あっ、あ、やっ…や!あっ!」 ***の足が震え、腰が下がればより奥に入り込み熱が奥を抉った。 「おくが気持ちいい?」 「あ、や…、や、…ああっ!」 下から上に。逃げようともがく体を壁に押し付けるように何度も何度も奥を突き上げた。 「遠慮、すんなよっ…気持ちいいんだろ」 「んぁあああっ、あ、あ」 びくびくと痙攣する中。 「もういく?、俺も」 「ぅう、や、っ」 「お前が締めつけて離さねえから」 ぐすぐすと泣く***の項にそっと舌を這わして吸い付いて、痕を残す。 「…っ、あ」 より一層中を締め付けるそこに、欲をぶつけた。 意識を手放し力なく崩れ落ちる***の体を清め着物を着せ直すと、銀時は背に抱えて部屋へと戻った。 くたりと力なく横になる体に羽織をかける。 短くなってしまった髪に手を伸ばした。指を通せば直ぐに床に落ちる髪。何度も何度も意味もなく繰り返せばもっと長かった髪が短くなった事実に胸を締め付けられる。 ずっと一緒にいたはずなのに。今もそばにいるのに、互いの心が離れていく気がした。 そうして漸く気づく。よく考えると傍にいて欲しいのは***ではなくて、俺の方なのかもしれないと。こいつにとって俺は一番傍にいてやった存在で離れがたいのかもしれないが、***は俺にとっても一番に必要としてくれた存在だった。 「可哀想な***」 自分で突き放したくせに、離れないお前が愛しくて、また突き放そうとする自分勝手な男に翻弄されて、泣き濡れて。 意識のない***の涙の跡が残る頬を銀時はそっと撫でる。 きっと初めて出会ったあの時からお前は間違ってたんだ、助けを請う相手を。 俺を普通の男だと自覚させたから。 相即きて離れず ♭21/09/12(日) (6/11) ← |