純黒の出会い.4


観覧車が大きく揺れた。風によりゴンドラが揺れたのではなく、ゴンドラにアームが伸びてゴンドラを強引に抜き取った。
通信機が電波をキャッチした。声はジン、ウォッカ、そしてキャンティ。オスプレイに乗っているようだ。
バーボンは遂に最後の線を切り終わってから少ししてジンのイラつく声が聞こえた。
「ギリギリセーフ、よかった」
バーボンは汗を拭いてため息を吐いた時だった。
「その装置……」
「やばい! 熱で居場所がバレる! 空から銃撃が来るよ!」
叫ぶや否や観覧車の鉄骨を撃つ音が響き渡る。足元は揺れ、まともに立ってられなくなった。
バーボンがいた場所を見ると既に彼は居なくなっていた。ライトは手を離れて瓦礫に潰されていた。バーボンは爆弾を回収していた。なるほど、危険ではあるがケーブルを引っ張れば一気に回収できる。
「動かないで! 動くと狙われる!」
遠くに見えるバーボンに向かって叫んだ。バーボンがいるあたりは足場が安定しているようだ。周囲に人がいないか見渡すも暗くてよく見えない。
自分の周囲が狙われなくなった時、ジンの声が聞こえた。
狙いをキュラソーに絞ったようだ。空いた観覧車の側面から外を見て、自分に銃口が向いていないことを確認する。着弾点からキュラソーを探す。
見えたのは水中に落ちるキュラソーだった。
角度的に私にしか見えていない。助けなければ。誰であれ、死んでほしくない。
足元が不安定で中々前に進めない。キュラソーが水面から上がってくるのが見えたとき、観覧車が大きく動いた。
「キュラソー!!」
「レモンチェッロ?」
キュラソーの腹には鉄筋が貫通していた。これを抜いたら出欠多量で死ぬだろう。キュラソーの腹の鉄筋はコンクリートから生えており、彼女をを動かす為には鉄筋を切らなければならない。
「喋らないで、怪我してる。それから組織じゃなくてあなたの味方」
キュラソーが少しだけ笑ったように見えた。
「鉄筋を切るよ、動かないで」
指輪に炎を灯して腹に近い鉄筋を握る。調和の炎は鉄の棒を石化させ、ほとんど灰になった鉄筋に力を込めて折る。背中側も同様にして握りこむ。
身体から出た鉄筋が痛々しい。
それから手の届くようになった背中側の傷口も焼く。晴れの炎ではないが、何もしないよりはマシだろう。
「観覧車を止めなきゃ。子どもたちが」
「怪我してるのよ。何言って……」
今すぐに救急車で搬送されなければ死んでしまう。でも私はキュラソーを止められない。彼女は分かって言っている。
「分かった。考えがあるのね。どこに連れていけばいい?」
「建設途中のエリアに重機があるわ」
「分かった。連れて行く」
非常事態だ。指輪や匣を使わないとどうにもならない。都会では滅多起こることはない暗闇の中にキュラソーを抱えて飛び出した。
「あなた、空も飛べたのね」
「秘密だよ。あと喋らないで」
鍵がエンジンに刺さったままの重機のドアを開けてキュラソーが乗り込んだ。
「キュラソー、だめ、私が運転する」
「いくら天使でもこれは出来ないでしょう。やらせて」
そう言うや否やキュラソーは重機を前進させた。操縦席には一人しか乗れず、彼女を乗せた重機はそのまま観覧車に突っ込んだ。
重機を操作する彼女の目には迷いがない。このまま止まっても、観覧車に押し潰されてしまう。
「キュラソー、ドアを開けて、早く!」
少しずつ膨らむ上空のサッカーボールが少しは衝撃を吸収してくれるはずだ。キュラソーが降りても観覧車は止まる。
どれだけ大声で叫んでもキュラソーはこちらを向くことはなかった。重機の爆発から私だけが逃げた。最後に見た彼女の横顔は美しく、指には白いマスコットが絡められていた。

バーボンは無事だろうか。観覧車の外部に掴まっていた人は三人。バーボンと、バーボンが捕まっていた工場から最初に出てきた男性と、小学生くらいの子どもだった。

後日、バーボンがわざわざ私を任務同行者に選んだ。
目的地まで車での移動だったが、車はバーボンのもの。警察庁からキュラソーを追った車のひとつ、白いマツダのRX-7だった。
「リモンチーノ、あなたを警察で保護する準備は出来ている。こちらに協力すれば──」
「あーー少なくとも今はそういうの、いいから。証人保護プログラムだったらちょっと考えるけど」
「僕はFBIじゃない」
ムッとするのはFBIと日本警察が不仲なんだろうか。
「知ってる。まあ、私は組織にとっては裏切り者で、あなたと同じスパイなんだよね。そんなに驚かなくてもいいじゃない。私の所属は国とか、政府とか、そういうのじゃないし、リストになくてもおかしくないわ」
公安が保持していたNOCリストは全世界の諜報員が載っている訳じゃない。しかし、彼女の言い分なら所属は何処になるのか。
「ハイこの話しは終わり! 貴方は怪我とかしてない?」
「そんなにしてません」
「元気でなにより」
「それより聞きたいことがあるんですけど」
「なに?」
「あなた、空飛んでませんでしたか?」
「なに言ってるの? 疲れてたんじゃない?」
いかにも呆れた、とため息までついたリモンチーノは小声でちゃんと寝なよ、と呟いた。
「あと私が任務の度に言ってることだけど、私は弱いし、身体能力だって低いから、あなたと同じように動けないよ。だから後方にいるけど、その分ちゃんとサポートさせて貰う。でも死んじゃったり、怪我したらそういうの出来ないから。よろしくね」
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